岩城京子さんのコペンハーゲン取材vol.3は、ジュリエットを演じる、クリスティーナ・ミシャネックのインタビュー。
彼女の魅力を芸術監督のニコライ・ヒュッベは「クリスティーナの踊りは美的感覚に溢れており、彼女の舞台という一瞬にかける強い表現はとても貴重な体験となるでしょう。彼女はすばらしい演技力と愛らしい叙情性を備えています」と語っていますが、このインタビューからもそんな彼女の個性が窺えます。
●クリスティーナ・ミシャネック インタビュー
薔薇色がかったミルク色の肌に、天使のような柔らかな表情をのせて、ころころと子供のようによく笑う24歳のクリスティーナ・ミシャネック。たっぷりとした栗色の睫毛におおわれた瞳をまっすぐこちらに向け「私は本当に幸せな少女だった。バレリーナになる前はお姫様になりたいと思っていたぐらい」と彼女が囁くと、その愛らしい願いがそれほど非現実的なことには思えなくなる。世界中の光を独り占めしてまどろんでいるかのように、彼女のまわりには幸せな薫香が漂っているのだ。聞けば昨年、同じくダンサーである最愛の人と結婚したばかりだとか。しかも同時期に彼女は、バレエ団内でソリストに昇格も果たしている。幸せの風で心が満帆になるのもうなずける。
「しかも昨年には、私の最も愛する役柄のひとつ『ラ・シルフィード』の主役を初めて踊ることができた。もちろん一度踊っただけでは、シルフィードのような難しい役柄を完璧に踊りこなすことはできないけれど。ブルノンヴィルの物語バレエが大好きな私にとっては、とても素晴らしい体験だった」
羽根のように軽く舞うシルフィードは、確かに彼女の霞のような雰囲気によく似合う。しかも彼女は芸術監督が「ものすごい集中力の持ち主」と絶賛するように、ひとたび舞台にあがると、日々の世俗的な匂いをすべて取りはらって、完璧な夢物語を観客に届けてみせる。クリスティーナ自身「いったん役柄に没頭すると、普段はできないようなテクニックさえこなしているのよ」と笑う。
「今度、日本で踊るジュリエットにしてもそう。彼女はいま恋に落ちていて、魔法がかった時を過ごしているわけだから、そりゃもちろん空に浮かぶような素晴らしいバランスをこなせるのよ。でも舞台からおりてリハーサル室で『はい、じゃあポアントに立ってバランス!』と言われると、私は途端にできなくなる(笑)。なぜなのかは分からないのだけど、本当にそうなの。不思議でしょう。だからどうやら私がうまく踊るためには、舞台に流れている空気に染まることが大切みたい」

では、ノイマイヤー版の『ロミオとジュリエット』に流れている空気はどんなものかと問うと「愛、そして憎しみと政治」が漂っているという答え。
「1幕では、ロミオとジュリエットの世界は完璧。この世界にはお互いふたりしかいなくて、その他には何も必要がない。目の前にいるロミオを見ると、彼の目を通して自分を見ているのか、彼自身を見ているのか分からなくなる。それぐらい、ふたりはひとり。けれど2幕になると、代々続く家同士の憎しみと政治闘争がふたりの純愛を侵しはじめる。外界が彼らの愛に干渉しはじめる。つまりノイマイヤーはここで愛を必要以上に美化せずに、現実の空気感もきちんと入れ込んだ。だからこそ、とてもリアルで人間的な物語に仕上がっている、すばらしいバレエなのだと思う」
ジュリエットを踊り終えたあとは「あまりにも役柄に没頭しすぎて、体中が痣だらけになっていることもある」と愛らしく笑うクリスティーナ。無垢で、お転婆で、純心で、一途な、とてもジュリエットらしいジュリエットに出逢えそうだ。
photo:David Amzallag