5月2日付けで、「ロミオとジュリエット」のジュリエット役のキャスト変更のお知らせをいたしましたが、初日(22日)と24日にジュリエットを演じることになったスザンネ・グリンデルに岩城京子さんが電話で緊急取材してくださいました。
スザンネは1981年11月30日生まれの27歳。171cmの長身のダンサーで、ノイマイヤー振り付の「人魚姫」のタイトルロールや「ロミオとジュリエット」のジュリエットなど多くの作品で主演しています。芸術監督のニコライ・ヒュッベは彼女のことを「スザンネの長所は、その信じられないほどの美しさと長いしなやかなラインです。また、さまざまな振付に対する人並み外れた鋭い能力があります」と語っています。
"信じられないほど美しいジュリエット"にぜひご期待ください。
●スザンネ・グリンデル インタビュー
二月。筆者のデンマーク訪問時にはまだ来日予定のメンバーには入っておらず、その後、急遽ジュリエットを踊ることが決定し、電話取材を敢行することになったソリストのスザンネ・グリンデル。「ハロー、連絡待ってたわ」と電話口で軽やかな挨拶を投げてきたスザンネは、のんびりとしたペースで話しはじめた。
4歳でバレエをはじめ、7歳でここデンマーク・ロイヤルバレエ団の学校に入学し、17歳でバレエ団の研修生としてカンパニーに参加。気負うことなく淡々と、日々バレエ道を邁進しつづけてきた堅実な生き方が語られていく。だがひとつの習練をひとつの街で、これだけ長きにわたり継続するには、堅実さと共にやはりそれなりの覚悟が必要。ギリシャ神話に登場するニンフのような美しさを誇るスザンネだが、この金細工のごとき繊細な風貌の裏側には、どうやら、容易には折れることのない芯の強さが潜むよう。それは、たとえば彼女が十代のときに哲学、文学、社会学、ヴィジュアル・アーツの勉強に人一倍熱心に入れ込んだという行動にも表れているし、また次のような発言からも端的に読みとれる。

「バレエをはじめた時点では、自分がどれだけ踊ることが好きかなんて考えてもみなかった。けれど歳月を重ね踊り続けていくうちに、自分にはなにがしかの才能があるのかも、その才能によってどこかしらに辿り着けるのかも、という希望が見えてきた。それと共に自分のなかに『なら、できるところまで行ってみたい!』という野心が生まれてきた。そうして私は徐々に、自分の能力を日々試しながら、バレエを強く愛するようになっていったのだと思う」
そんな彼女がいま何よりも入れ込んでいるのは、パ・ド・ドゥを踊ること。他者と一緒に踊ることによって「自分ひとりでは生み出せない感情が生まれてくること」が楽しくてしょうがないのだという。
「異なるパートナーと踊ることにより、異なる感情が生まれてくる。今の私はそうして他者とのコンタクトを利用して、直感的に現場で、自分の踊りを作りあげていくことがとても楽しい。逆にいえば踊るまえに1ミリの狂いもない設計図を用意しておいて、その計画どおりに事を進める創作法はあまり好まない。私はできる限り本番でも振り付けのガイドラインを守ったうえで、そこからはみ出る要素も取り入れていきたい。舞台はライブ。その日その日に生まれてくる感覚を取り入れて踊りを作りあげていかなければ、臨場感のあるステージは決して生まれて来ない」
もちろん『ロミオとジュリエット』で披露する3つのパ・ド・ドゥ ーー、ボールルームの場、バルコニーの場、寝室の場、でのデュエットを踊ることも心から楽しみだと声を弾ませる。
「ロミオがリードする最初のパ・ド・ドゥから、ジュリエットが関係性を推し進める最後のパ・ド・ドゥまで、二人の関係性はダイナミックに変化していく。そしてその変化が、ノイマイヤーの振付によってとてもクリアに浮き彫りにされていく。ちなみに私としては何より、この3つの美しいパ・ド・ドゥを通して、さまざまな形の"愛"を表現したい。憎しみと戦いに溢れた舞台上のこの世界において、唯一、ロミオとジュリエットの二人だけが"愛"を信じて生きている。そして愛を信じて生きているからこそ、彼らは誰よりも強く生きられる。そんな感情が観客に届けば嬉しい」
のんびりとした取材開始時の口調はすっかり影をひそめ、次から次へ熱く質問に答えていくスザンネ。気づけば電話口で50分、休みなく言葉を紡ぎつづけている。暢気そうで熱く、脆そうで強い。そんな彼女が果たしてどんなジュリエットに扮するのか、今から想像が膨らむ。
photo:Martin Mydtskov Rønnep