デンマーク・ロイヤル・バレエ団

最新情報トップ > コペンハーゲン取材vol.7~トマス・ルンド インタビュー

岩城京子さんのコペンハーゲン取材、第7弾はトマス・ルンド。芸術監督ヒュッベから「トマスは、彼が本物のスターであることを、これまで何度も彼のキャリアを通じて証明してきました。劇場とバレエにどっぷりと浸かってきた人間です。そして彼の存在そのものが芸術なのです」と絶賛される、デンマーク・ロイヤル・バレエ団を代表するプリンシパルです。

●トマス・ルンド インタビュー

 物心つくころにはすでに、親戚一同を居間に集め、彼らのまえで演技や踊りを披露して「客を湧かせていた」と笑うのはカンパニーを代表するベテランプリンシパルのひとりトマス・ルンド。幼くして知らずのうちに周囲の人間と「感情をシェアすること」に至上の喜びを感じるようになっていた感受性豊かな少年は、ぼんやりと将来を見据え「なにか人前に立つ仕事がしたい」と次第に舞台に心を傾けるようになっていく。そして当時通っていたボールルーム・ダンスの教師に「体型が向いているから試してみれば」と薦められるままに、ここコペンハーゲンのバレエ学校に足を踏み入れる。以後、彼は「自分の居場所に疑いを持つことなく」まっすぐにこの劇場のなかで生きてきた。
09-04.28iwaki01.jpg 骨格のしっかりとした男らしい身体美に恵まれたトマスは、その濁りのない清潔なテクニックで、早くからカンパニー内で注目を集める。『くるみ割り人形』の王子役や『ラ・シルフィード』のジェイムスといった気品溢れるプリンシパル・ロールに抜擢されたのは二十代のこと。だが元来、自分が目立つことよりも、他人を喜ばせることに人並以上の喜びを覚えるタチなため、気づけば舞台中央に平凡な王子役として立つよりも、端にいてもより面白い役で舞台に貢献したいと願うようになっていく。そして『真夏の夜の夢』のパックや『ロミオとジュリエット』のマキューシオといった道化的な役柄にも果敢に挑んでいく。
「だからどちらかといえば、僕は正統派な王子というよりドゥミ・キャラクテールに近いのかもしれません。もちろん王子役を演じることも可能ですけど、それだけをずっと踊れと言われたらどうしても飽きてしまう。僕は......、たとえば今回日本で上演する『ナポリ』のジェンナロのように、陽気で、等身大で、ふだんの自分を生かして観客を喜ばせることのできる飾り気のない役柄を演じるのが好きなんです。それになにも王子に扮して空高く優雅なダブル・トゥールを披露することだけが、男性ダンサーの使命ではないですからね(笑)。僕は以前80歳の誕生日にコッペリウスを踊ったキャラクター・アーティストと共演したことがあるのですけど、彼は彼にしかできない踊りで観客を存分に沸かせていた。僕もいずれそういうダンサーになれればと思います」
 とはいえ、それは遠い未来のこと。今現在35歳の彼は、バランシンからフォーサイスからブルノンヴィルまで、その軸のぶれないしなやかなテクニックで、すべてを一陣の春風のように軽やかに踊りこなしてみせる。なかでも『ナポリ』や『ラ・シルフィード』といった作品への評価は地元でも高く、今ではバレエ団屈指のブルノンヴィル・ダンサーとして名をはせている。
「僕の意見では、ブルノンヴィル作品では『脚がリズムで腕がメロディ』。このふたつをうまい具合にあわせて、一曲の華麗な舞を奏でていくんです。もちろん、途中で音楽が途切れてしまうことがあってはなりません。だから大きなジャンプでいつ着地して、その直後の短いフレーズにどれだけの数のバッテリーを詰めるか、途中に妙な間が空いてしまわないように、すべてを事前に計算しておく必要があります。またさらにブルノンヴィルを踊るダンサーは『この踊りなら私にもできそう』と観客に思わせるほど平易に踊って見せなくてはなりません。これはとても難しいことですけど、成功すると、観客は自分たちもパーティーの一部に参加できたような高揚感を持って劇場を後にすることができます。日本のお客さんにも、そのような気持ちをお届けできれば嬉しいですね」
 『ナポリ』第一幕----まるで観客に大きな花束を授けるかのごとき華やかなジュテで舞台に登場するトマス。日本の観客がその花束の馨しさにむせて至福の心地よさのなか、劇場を後にすることを願いたい。


岩城京子(演劇・舞踊ライター)
photo:David Amzallag

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