9年ぶりに日本公演開幕までいよいよあと5日となりました。岩城京子さんのコペンハーゲン取材、最終回はディアナ・クニ。16日の「ナポリ」にティム・マティアキスとともに主演します。
●ディアナ・クニ インタビュー
右も左も、きれいに着飾ったフランス人形のような女の子ばかり。7歳のディアナ・クニはここデンマークのバレエ学校にはじめて足を踏み入れた瞬間から、まずこの純絹のレースと花々の薫香に包まれた舞踊世界に唖然とした。それまで自分が生きてきた家庭環境とは大違い。母は元体操選手、父は元アマチュアのサッカー選手。アートというより明らかに体育会系の両親のもとに育てられた壮健な少女にとっては、はじめて目にする豪奢なバレエ世界は、異次元以外のなにものでもなかった。
「私はいまでも、どちらかというとサッカーを見て大騒ぎするのが好きなタイプ。だから規律がかっちり四角四面で、生徒もみな礼儀正しくて、ちいちゃなかわいいバレリーナとして振るまわなければならなかった学校生活は、たまに奔放な私には窮屈に感じられることもあった。けどひとたび舞台に立てば、これらの問題はいっぺんに吹き飛んだ。舞台上で踊れることがあまりにも楽しくて、そうした些細な悩みは帳消しになった」
特に、南イタリアの太陽に祝福された歓喜のディヴェルティスマンが繰り広げられる『ナポリ』第3幕のような、舞台上から自然発生的に陽性のエネルギーが放出してくるような場面に出逢うと、その場に立ち会えている自分にとろけるような至福感を覚えるという。だから彼女自身も、『ドン・キホーテ』のキトリ、『ラ・シルフィード』のエフィー、バランシンの『シンフォニー・イン・C』、フォーサイスの『イン・ザ・ミドル・サムワット・エレヴェイテッド』といった強靱で発散的で陽性のエネルギーが要求される役柄を踊ることを得意とする。
「精神的にも身体的にもストロングな役を踊ることが私は好き。素早いステップやジャンプが多用されるパートは、自分の得意とするところだと言える。でも実はそうした嗜好性が、最近になって少しずつ変わりつつある。『ナポリ』でいうなら勝気で華やかな第1幕と3幕のテレシーナを踊ることより、第2幕のゆったりとしたアダージオを踊ることが楽しめるようになってきている」
それはなぜかとこちらが問えば......、おそらく「ありのままの自分に自信が持てるようになってきたから」と意味深長な答え。92年にカンパニーに入団し、ソリストに昇進したのが00年。その間の8年間は「他者に自分ができることを認めさせること」にやたらと躍起になっていたけれど、近年ソリストとしてのキャリアを積むにつれ「人の意見は気にせず、自分のベストを尽くそうと思えるようになってきた。だからこそ自分の不得意分野にも平常心で目がむけられるようになってきた」と語る。他者尺度ではなく自己尺度で、いちバレリーナとしての自分を客観視する。その作業には自分の欠点を正面から受け止めなければならない辛さも伴うが、現在のディアナは「それを受け止めることで、よりダンサーとしての完全性が高まるから、いまでは課題の多い毎日が楽しい」と健やかに笑う。
人間としてもダンサーとしても成熟期を迎え肩の力がすとんと抜けたディアナ。「とにかく今は、踊るこのできる毎日を、天からの贈りものだと思って楽しく過ごしていきたい」と他意なく語る。汗ばんだ盛夏の肌に心地よい一陣のそよ風のように、溌剌さのなかに柔らかな熟成をはらむ現在の彼女の踊りは、きっと観客に風通しのよい清々しさを届けるはずだ。
photo:David Amzallag










