伝説の名演出「魔笛」〜舞台美術からその魅力にせまる〜後半

公演関連情報 2017年7月19日 20:26

伝説の名演出「魔笛」〜舞台美術からその魅力にせまる〜後半

2017年7月19日


バイエルン国立歌劇場に28年も勤務されている唯一の日本人スタッフ、三浦真澄さん(舞台背景画家)へのインタビュー。
後半では"バイエルン"という劇場そのものの魅力についても語ってくれました。

Q1 これまでのキャリアを教えていただけますか?また、現在バイエルン国立歌劇場で担当されているお仕事の内容をお話いただけますか?

大学を卒業してから28年間、バイエルン国立歌劇場で働いています。もともと日本では西洋画を学んでいたのですが、大学時代ミュンヘンに留学し、ミュンヘン大学の美術史科で2年間勉強しました。もともとオペラが好きで、留学中に舞台美術というものに出会い、1988年にちょうど劇場で実習をする機会があったので1年間参加し、翌年からは正規のメンバーとして働きはじめました。

今は背景画家として、オペラ、バレエの舞台の背景画(幕)を描いています。ちょうど来週からは日本公演で上演する『魔笛』の手直しなどの作業がはじまります。あとはオペラフェスティバルで上演する『オベロン』の幕を描く仕事があります。

1枚の背景幕を一人の背景画家が描き上げる

Q2 三浦さんがバイエルン国立歌劇場で働いてみた印象はいかがでしょうか?

まずは環境がとても整っているということですね。バイエルンの特徴として、1枚の背景幕を一人の背景画家が描き上げるということがあげられます。もちろん、下塗りは何人かに手伝ってはもらいますが、やはり複数の画家が描くと、タッチの違いなどで微妙な「ズレ」が出てきてしまいます。ですが、1名で描くとその心配はありません。日本では1枚の幕を10〜15名ほどで描きますから、これはとても贅沢なことだと思います。

工房は劇場から車で25分くらいのところにあり、幕を床に広げて描けるだけの十分なスペース(25m×90mくらい)も確保されています。

あとは土地柄、明るい人が多いような気がします。ミュンヘンは最北のイタリアの都と言われていまして、一般的にイメージされる、硬い、暗い、生真面目なドイツ人、という感じではないと思います。
劇場もとてもアットホームな雰囲気で働きやすい環境が整っています。

Q3 1枚の幕を描くのにどのくらい時間がかかるものなんでしょうか?

プロダクションによってかなり差はあるので一概には言えないのですが、2か月くらいかかって描くこともあります。

Q4 これまでに描かれた幕の中で、特に印象に残っているのはどの作品でしょうか?

色々ありますが、最近ではR・ジョーンズ演出の『ヘンゼルとグレーテル』が印象に残っています。魔女の舌が出ているような絵なのですが、原画はパステル調というか、水彩で大胆に、いきおいで描いたようなものでしたので再現するのがなかなか大変でした。

Q5 背景画を描くのに特殊な絵の具などを使うのでしょうか?

水性の絵の具(アクリル絵の具)ですね。乾くと耐性ができるというタイプのものです。

Q6 最近はコープロダクションも盛んですから、他の劇場と仕事をされている機会も多いのでしょうか?

コープロダクションといっても様々なかたちがあります。たとえば今年の2月にプレミエを迎えた『セミラーミデ』はロイヤル・オペラとの共同制作ですが、美術や装置などはすべてバイエルンで作っています。

バイエルンでは特にプレミエの場合、初日の1ヵ月前には全部完成していなければならないのです。

背景画の製作の工程

Q7 一か月前、ということはかなり早くはないでしょうか?

なぜ一か月前かというと、バイエルンの場合は初日の4週間前には大道具を搬入し、オリジナルのものを使って歌手が1ケ月舞台稽古をできるようにしているんです。バイエルンは舞台がとても大きいので大変ですね。

あと先ほどの質問で他と違うという点ですが、背景画ということでいえば、その製作の工程には大きく分けると2つあります。ひとつがイタリア式、もうひとつが英国式と呼ばれています。

イタリア式では、布を床にはって、そのうえに立って描きます。イタリアの他、ドイツ、フランスの劇場でよく行われる方法です。一方の英国式では壁に布をつるし、つるした布を少しずつ引き出しながら描きます。どちらの方法も一長一短で、例えばイタリア式はしっかり描きこむことができる反面、製作のために広いスペースが必要で、俯瞰して観ることができません。英国式は離れたところから観て描けるというメリットはあるものの、どうしても絵の具が垂れてしまう・・・など。

背景幕はやはり客席から観るものですから、やはり舞台につって、客席からみてみないとわからない、というのが正直なところです。

Q8 先ほど一人の画家が1枚の画を一人で描く、というお話がありましたが、他にバイエルン国立歌劇場の独自性、「これができるのはバイエルンだからこそ!」という点や、劇場の特徴がありましたらお話いただけますか?

バイエルンの劇場というのは、1818年に創られました。そのとき、当時の国王が 「劇場を市民に開放する」と言って、BOX席をほとんどつくらず、客席に仕切りがないという馬蹄形の劇場にはとても珍しい創りにしたんです。そのため、音響がとても良いのです。特に上の階は本当に音がよく聞こえますから、ファンの中にはあえて上の階の席を選ぶ人もいます。

創立のあとには火事で焼けてしまったのですが、1963年に再建され、今の建物ができました。ですが、地下の古い部分は昔のままなんです。そのせいか、舞台の上の立つとゾクゾクするんですよ。これまでの歴史の重み、昔の香り、そして舞台の誇りというとでもいうのか、目には見えませんが下から伝わってくるような空気があって本当に圧倒されます。

あとは舞台の広さですね。変形四面舞台とでもいいますか、METよりも広いんです。今はとにかく上演する演目が多いので、常に袖には複数の演目がスタンバイしている状況です。使えるスペースはすべて使っています(笑)。

photos:Wilfried Hoesl

★バイエルン国立歌劇場 二次発売は7月22日(土)10:00より

NBSチケットセンター TEL:03-3791-8888

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