『タンホイザー』プレミエ ~初演の公演評 ①~

公演関連情報 2017年6月12日 15:34


去る5月にプレミエをむかえた『タンホイザー』は、ドイツ国内外の多くのメディアによって大々的にその成果が報じられました。公演評(抄訳)を本日から3回にわけてご紹介します。ぜひご一読ください。


南ドイツ新聞  2017年5月23日付

この世界からではなく

このミュンヘンの『タンホイザー』は、理想的世界におけるオペラはどうありうるかを示している。ロメオ・カステルッチの演出は魂の深淵へと導き、キリル・ペトレンコの指揮はセンセーショナルで多面性に富んでいる。そしてまずは合唱が素晴らしい!

ライハルト・J.ブレンベック


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 舞台上は全てが暗く、もやに覆われているようで、暗闇の中。唯一の色は赤で、それが血を連想させる。ゆっくりと回る白い巨大な円盤だけが目に入るが、そこに赤い色が滴り、だんだんと全体に広がり輝いてくる。ワーグナーの『タンホイザー』のロメオ・カステルッチ演出の新プロダクションがミュンヘンのオペラハウスの舞台に展開され、そこでは最も隠された、裂け目だらけの人間の魂の深淵を見出す。
 オーケストラは音楽総監督のキリル・ペトレンコの最高潮の指揮のもと、この深淵を探索するにふさわしいサウンドで演奏する。そこでは原不安と恐怖を体験せねばならず、ノイローゼとノスタルジア、そして脅迫観念と不安感。それらが5時間以上カステルッチの演出で続く。このように舞台と音楽が同じ根本理念を追うことは、大変に珍しいことである。

 カステルッチの演出ではヴォルフラム役は動きが少なく十分にその声を聴かせられるが、それに加えてペトレンコのセンセーショナルな弱音と多面性のある音楽で、この役の影、痛み、絶望などがよく表される。ペトレンコは、オペラが理想の世界ではどうありうるか、そしてオペラを実際の世界でこれまでにないほど良く観客に提示してくれた。その音楽は、後のワーグナーのスコアーをいろいろな色に輝く壊れやすい万華鏡で見るよう

 ペトレンコは各フレーズを、愛情を込めて独自の解釈で息づかせ、ワーグナー初期のスコアーのこれまで見過ごされていたような瞬間をはっきりとさせた。『タンホイザー』は彼の後記のオペラにおける全ての要素を含んでいて、それらは後により精錬されて展開されたことが分かる。ヴェヌスの世界の半音階は、『トリスタン』へと繋がり、コラール(聖歌)合唱は『ローエングリン』と『パルジファル』に繋がる。狭い日常の人間世界の慣習は『マイスタージンガー』へ、聖女または娼婦はクンドリーへと、というように、ペトレンコの『タンホイザー』では、いろいろな色に輝く、壊れやすいが美しい万華鏡で、ワーグナーの後のオペラの仕上がりの形を見るようであった。

 クラウス・フロリアン・フォークトは今回初めてタンホイザーを歌うが、彼のローエングリンは世界的に有名で卓越している。ローエングリンは救済をもたらすが情熱とは無縁で、タンホイザーとは全く反対の人物である。フォークトは明るく、オーケストラのどんなフォルテッシモでも超える声で、難しい箇所でも難なく歌い上げるのは本当に素晴らしい。彼はその明るい声の音色を暗くしたり、制限したりしないので、タンホイザーの苦悩を歌うときは、情熱がないようにも感じられたが、全体としては不可能を極端までに要求していく反逆的タンホイザー像に、ペトレンコの指揮、カステルッチの演出によって導かれたのは幸いであった。



~ 『タンホイザー』プロモーション映像 ~

   
 

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