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ズービン・メータ 日本の観客へのメッセージ ~日本経済新聞記事より~

ズービン・メータ 日本の観客へのメッセージ ~日本経済新聞記事より~

フィレンツェ歌劇場2011年日本公演は、3月11日に発生した、東北関東大震災の影響を受け、フィレンツェ市長から帰国命令が出されたため、3月16日(水)以降に予定しておりましたすべての公演を中止させていただきました。
公演中止が決定した翌日の3月16日、慌しい時間を割いて、フィレツンェ歌劇場主席指揮者のズービン・メータ氏は、日本経済新聞の取材を受けてくださいました。20日(日)の日本経済新聞に掲載された日本の観客へのメータ氏からの力強いメッセージを一人でも多くの方にお伝えできたらと願い、ここに転載させていただきます。



芸術の力信じる日本の友人に深い思い込め
ズービン・メータ


 フィレンツェ歌劇場の日本公演で来日した指揮者のズービン・メータ氏は、米ロサンゼルス地震や湾岸戦争など危機的な状況下でも指揮台に立ってきた巨匠。東日本大震災の影響で、公演は日程半ばで中止に追い込まれた。「日本の友人たちのために何も演奏できず、去るのは悲しい」と涙しながら「音楽の力で人々を励ます場面が絶対に訪れると信じている」と危機的状況における芸術の重要性を訴えた。


 11日はたまたま妻ナンシーの誕生日だった。都内のレストランでお祝いの昼食を終えた直後、激しい揺れを体験した。スマトラ沖地震の津波でバイエルン国立歌劇場時代にお世話になったスポンサー企業の担当者が亡くなっているから、津波の怖さは知っているつもりだった。しかし、今回、ビルの3階まで届いた跡をテレビで見て大きなショックを受けた。
 東京公演の初日(14日)、上野の東京文化会館で「運命の力」(ベルディ作曲)を指揮した。日本人もイタリア人も私も、そこにいる全員が最悪の事態を共有していた。私たち音楽家は深い祈りをこめ、最高の演奏を提供するのが使命だ。奇しくも「運命の力」と名付けられた作品を、大変な苦労で会場にたどりついた観客のため、最善を尽くして上演した。
 混乱を避けて急きょ帰国したデ・カンディアに代わり、メリトーネ修道士役を歌ったアイロルディは合唱団から抜てきした。たった30分の特訓で、素晴らしく任務を果たしてくれた。
 その前日、13日には横浜の神奈川県民ホールでもう一つの演目「トスカ」(プッチーニ作曲)が初日を迎えた。私は追悼のスピーチをした後、タクトを振りおろした。
 カバラドッシ役のベルティはイタリア随一のテノールである実力を示したし、スカルピア役のバス、ライモンディは千両役者だった。トスカ役のニテスクもよく歌った。すべてがフィレンツェでの上演水準を上回った。
 初来日は1969年だった。音楽監督を務めていたロサンゼルス・フィルハーモニックとともに訪れて以来42年間、問題が起きたことは一度もなかった。今回は巨大地震に原子力発電所の事故が加わり、続く電力事情の悪化で公演の維持が難しくなった。歌劇場の母体であるフィレンツェ市の市長が緊急の帰国命令を出すに至った。
 23日には上海公演が始まる。それまで私のスケジュールが空いたので、せめて日本のオーケストラを指揮し、被災者支援のチャリティーコンサートを開けないものかと考えたが、実現は難しいとわかった。
 危機的状況に陥った人々の前でも、音楽は力を発揮できると思う。さすがに豪奢なオペラは難しいが、より抽象的で純粋な音楽作品、例えばJ.S.バッハのカンタータやベートーベンの「英雄」交響曲、モーツァルトの交響曲第40番といった作品が持つ力、悲劇的状況下の人々に放つメッセージの強さを過小評価してはならない。
 91年に湾岸戦争が起きた時、ニューヨーク・フィルとの日程をすべてキャンセルして現地に飛び、(長く音楽監督を務める)イスラエル・フィルと連日、無料演奏会を開いて回った。
 今の東京よりも電力事情が悪い中で、昼間なら照明なしで演奏できると判断し、リハーサルなしで多くの交響曲を日替わりで奏で人々を鼓舞した。最後の曲目はマーラーの「復活」交響曲だった。演奏者も聴衆も全員一丸となり、精神を飛翔させることができたのは得難い体験だった。今の日本にも音楽の力で人々を励ます場面が絶対に訪れると信じている。(談)

(編集委員 池田卓夫)

~日本経済新聞 3月20日(日)紙面より転載~


11-03.28Mehta.jpg3月14日「運命の力」開演前 大震災で被災された方へのお見舞いを述べるメータ氏
(photo:堀田力丸)

2011年3月28日 15:53 メディア情報

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