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2014:10:16:15:28:072014/10/16   

東京バレエ団「第九交響曲」振付指導ピョートル・ナルデリ インタビュー

14-10.16_DAV0264.jpg---管弦楽曲として名高い『第九交響曲』を、モーリス・ベジャール氏は、なぜ、敢えてバレエとして上演したのでしょうか。

「彼は私に言いました。『第九交響曲』は単なるバレエではない、ダンサーの参加なくしては実現しないコンサートの〈prolonge(延長)〉なのだと。オーケストラが演奏し、合唱団が歌い、ダンサーが踊ることによって、この交響曲に織り込まれた壮大なイメージが舞台上に出現するのです」


---ダンサー、そして指導者の目から見た『第九交響曲』の魅力とは?

「建造物のように強固な構造と壮大なスケールを備えた作品です。音楽的な緻密さも併せ持っている。すべてのステップが音楽にリンクしているのです。独奏者の演奏にのってソリストが舞台に現れ、音楽がピアニシモになると振付も穏やかになり、フォルテになるとダンサー達はエネルギーを爆発させる。振付を指導する側になって、ベジャールの先駆性に改めて感服しています」


---初演以来、『第九交響曲』は数千人を収容するブリュッセルの王立サーカスを始め、広大な空間で上演を重ねてきました。

「この作品の上演は、つねに一大イベントでした。ダンサーだけで80人余が出演します。初演時には、二十世紀バレエ団の団員だった浅川仁美やヨーロッパ在住の日本人が出演し、アメリカ公演の際には現地のアフリカ系ダンサーが参加しました。〈人類みな兄弟〉という歌詞にある通り、ダンサーが人種や国籍を超えて一堂に会することが不可欠です。初演から50年目の今年、ベジャール・バレエ・ローザンヌと、数多くのベジャール作品を上演してきた東京バレエ団がひとつの舞台に立つ。彼の思い描いた理想が、東京で実現するのです」


---先ほど見学したリハーサルでは、ベジャール氏が〈日本の息子〉と呼んだ東京バレエ団員の真剣な眼差しが印象的でした。

「集中力があり、私の指示を即座に理解する。 彼らとの仕事は、指導者にとって喜び以外の何ものでもありません」


14-10.16_ABZ3070.jpg---ナルデリさんが、1970年代に二十世紀バレエ団に入団した契機は?

「初めて二十世紀バレエ団を見たときの衝撃は、今でも忘れられません。私はポーランドのバレエ学校で勉強中の世間知らずの少年でした。ダンサーがリアルな男、リアルな女として存在する姿を目の当たりにして、カルチャーショックを受けました。彼の作品を熟知すると、腑(はらわた)の底から感情が涌き上がってくる感覚を会得できます。ベジャール作品を踊ることは、彼のバレエに対する熱い思いを形にすることなのです」


---ベジャールさんの素顔を教えてください。

「 彼はとても寛大な人間で、稽古場では常に穏やかな物腰でした。ダンサーを作品の重要な担い手とみなし、リスペクトしてくれた。私にとって、彼は父親のような存在です。ベジャールから受け取った素晴らしい贈り物を若いダンサー達に引き継がなくては、死んでも死にきれません(笑)」


---『第九交響曲』が15年ぶりに東京で復活するにあたり、メッセージをお願いします。

「ズービン・メータ氏のタクトに導かれて、全出演者がベートーベンの音楽と対峙した時に何が起きるのか。今の私に言えるのは、ただ一つ、この壮大なプロジェクトの成功のために、誰もが全力を尽くし、新たな伝説が生まれるだろう、ということです」


取材・文:上野房子(ダンス評論家)


撮影:細野晋司

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