ローマ歌劇場2014年日本公演

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2013年12月 4日

ローマ歌劇場2014日本公演「ナブッコ」 タチアナ・セルジャン、ルカ・サルシ インタビュー

  2013年11月27日にシーズンが開幕するローマ歌劇場では、連日マエストロ・ムーティの指揮の下に『エルナー二』のリハーサルが行われました。この公演には、来年の日本公演に出演するタチアナ・セルジャン、ルカ・サルシ、フランチェスコ・メーリが出演。公演初日を控えるなか、オペラ演出家でムーティの自伝も翻訳した田口道子氏により、現地で行ったインタビューを速報でご紹介。まずは「ナブッコ」に出演する二人からお届けします!

 

タチアナ・セルジャン
「音域、テクニック、感情表現、あらゆる面で激しいコントラストが要求されるアビガイッレはとても難しい役です。」

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――『ナブッコ』のアビガイッレはローマ歌劇場より以前に歌われたことがありますか?

セルジャン:今年の7月にローマ歌劇場で初めて歌いました。

――アビガイッレは音楽的にも心情表現においても、とても難しい役だと思いますが、初めて取り組まれていかがでしたか?

セルジャン:本当にとても難しい役だと思います。なぜかというと、コントラストが大変に激しいからなのです。例えば、音域にしても高音から低音まで2オクターヴも飛んだり、フォルテから急にピアノになったりと、テクニック的にもこの対照を表現することに苦労しました。今まで自分のレパートリーとしてきたヴェルディの作品の登場人物とは全く異なっていると思います。でも、『マクベス』のマクベス夫人や『アッティラ』のオダベッラを歌ってきたことが大いに役に立ちました。アビガイッレのほうが、オダベッラやマクベス夫人よりも先に誕生している登場人物ですけれど、オダベッラやマクベス夫人を深く勉強したことで、アビガイッレの感情も理解しやすかったです。

――マクベス夫人やオダベッラも強い女ですが、アビガイッレの強さと共通するものがありますか?

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セルジャン:ヴェルディの作品に登場する女性は誰も強い性格を備えていると思います。マクベス夫人は野心が強いばかりではなくて、悪の原動力ですよね。彼女がいなかったらドラマにもなりません。オダベッラは民衆や祖国を護る戦士として、最終的にはアッティラを征服し、殺してしまう強さを持っています。アビガイッレはその両方を備えていますよね。女性戦士だし、野心にも燃えています。その上、嫉妬や恨みの気持ちも物凄く強いので、より一層ドラマティックです。

――ローマ歌劇場での『ナブッコ』のほかにもマエストロ・ムーティとは数々共演なさっていらっしゃいますが、マエストロのオペラ作りはあなたにどのような影響をもたらしていますか?

セルジャン:マエストロ・ムーティとは『マクベス』、『アッティラ』、『二人のフォスカリ』、『エルナーニ』に加えて『レクイエム』も歌わせていただきました。ヴェルディのオペラに対してこれほど深く探求して、知識を備えていらっしゃる指揮者は他にはいらっしゃらないのではないでしょうか。絶対的な信頼をもってマエストロの指示に従っています。この何年かでマエストロと共演する機会が多かったのでたくさん学ぶことができました。


――欧米の著名な歌劇場で活躍されているあなたから見た、ローマ歌劇場の印象は?

セルジャン:ローマ歌劇場への出演はこれで6回目になります。毎回オーケストラと合唱がより素晴らしくなっていると感じます。劇場全体でよい公演を実現するために努力しているということが感じられるので、この劇場で歌えることを嬉しく思っています。


――日本の聴衆にはどのような印象をお持ちですか? 来日に当たってメッセージもお願いします。

セルジャン:私は10年前にスカラ座の日本公演の『マクベス』で初めて日本に行きましたが、それ以後は一度も行っていないので、今からとても楽しみにしています。舞台の出演者と客席の聴衆とは、お互いに与え合い受け取りあう関係にあると思います。良い演奏だと本当に熱心に聴いて、反応を示してくださるので、とても励まされます。日本で成功できたのは日本の聴衆の皆さんのおかげでした。当時はまだ、日本の皆さんがオペラをこんなに愛しているとは知りませんでしたので、あまりに情熱的なのでびっくりしました。前回の来日の時から比べると、舞台経験を積んで少しは成長した私の演奏を聴いていただけると思います。東京でお会いするのを楽しみにしています。




ルカ・サルシ
「ナブッコはバリトンにとって本当に重要な役。3つの幕ごとに全くちがう人格として現れるこの役の変化をうまく表すことで、作品の感動を味わっていただけるように頑張ります」

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――デビューはロッシーニでベルカント・オペラをレパートリーにしていらっしゃいましたね。今はヴェルディのレパートリーがどのような位置づけになっていますか?

サルシ:僕は最初バス・バリトンだったのです。デビューしてから5〜6年はロッシーニとモーツァルトを中心に、ドニゼッティのオペラ・セリアやベッリーニの作品をレパートリーにしていました。今から10年前に、しっかりとしたテクニックを身につけようと思い立って、タリアブーエの弟子であったカルロ・メリチャーニに師事して、イタリアの伝統的なベルカントの歌い方を学びました。声を息に乗せて、決して押し出さずに、顔に響かせる発声を勉強しているうちに声の幅が広くなって、ヴェルディのバリトン役が歌えるようになったのです。それで2007年ごろからヴェルディのレパートリーに取り組むようになって、『ファルスタッフ』のフォード役でデビューして、その後に『椿姫』のジェルモン、そして今ではヴェルディのオペラを15作品くらいレパートリーにしています。

――その多くのヴェルディ作品の中でも今回日本で公演される『ナブッコ』のタイトル・ロールはあなたにとってどのような意味を持つものですか?

サルシ:この役は複雑ですが遣り甲斐があります。とにかく、3つの幕ごとにナブッコは全く違う人格として現れるのですから、その変化をうまく表現できれば、決して難しい役ではありません。第1幕は誰もが恐れる武将として登場し、独裁者としての強さを表わします。第2幕は権力者として驕り高ぶり、頭の中が破裂したかのように狂い、自分を神であると信じてしまいます。そして神からの罰を受けて、それまでとは全く反対に恐れを抱く弱い男になってしまいます。第3幕では夢を見て、自分を反省し、神の許しを得て正気に戻り娘を助けに行きます。このように幕ごとに変化がある役は珍しいですよね。

――マエストロ・ムーティのオペラ作りはあなたに影響をもたらしていますか?

サルシ:僕は今年になってから4本ものヴェルディ作品をマエストロと共演しています。ローマ歌劇場の『二人のフォスカリ』に始まって、『ナブッコ』とシカゴでの『マクベス』、そして今回の『エルナーニ』です。なんだか、デビューして16年経つのに、その16年分を1年のうちに学んだように感じます。今までヴェルディは力強く荒削りな歌い方での演奏ばかりでしたが、マエストロ・ムーティはその荒削りなところを細やかに磨き上げる演奏を求めているのです。ナブッコにしても、90%がメゾ・ピアノ、ピアノとピアニッシモと指示されていて、フォルテは本当に少ないのです。ナブッコの登場の歌いだしもピアノなのです。マエストロが細かく注意してくださらなければ見落としてしまうようなヴェルディが書いた指示に従うことによって、より感情の表現がしやすくなりました。

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――今度の来日に当たって日本の皆さんにメッセージをお願いします。

サルシ:私の演じるナブッコが日本の皆さんに感動をもたらすことができるよう精一杯頑張ります。皆さんの期待に応えられれば本当に嬉しいです。バリトンとしては本当に重要な役であるナブッコをマエストロ・ムーティと日本で共演できることは大変光栄で、とても誇り高いことです。皆さんと東京でお会いする日を今から楽しみにしています。

(インタビュー・文/田口道子 演出家、在ミラノ)

stage photo:Silvia Lelli/Teatro dell'Opera di Roma