【ウィーン国立歌劇場】「ナクソス島のアリアドネ」ステファン・グールドへの期待

インタビュー・レポート 2016年10月20日 18:08


 オペラに配役の変更はつきものだが、今回のウィーン国立歌劇場「ナクソス島のアリアドネ」で、テノール/バッカス役をステファン・グールドが歌うことになったと聞いたときは驚いた。ヨハン・ボータの急逝に伴っての代役だが、もともとこの演出が2012年にウィーンで上演された際のキャストがグールドなのだから、これ以上の適役はない。よくもそう都合よくグールドのスケジュールを調整できたものだ......あれれ? グールドって、10月の新国立劇場で「ワルキューレ」に出演しているのではないの! 初台で10月18日までジークムント役を歌ったグールドが、10月25日からウィーン国立歌劇場来日公演でテノール/バッカス役を歌うことになる。
 なんだか少し奇妙な気分になる。というのも、「ナクソス島のアリアドネ」は劇中劇の趣向が施されたオペラについてのオペラ、いわばメタオペラ。前半の「プロローグ」に登場する「テノール歌手」という役が、後半の「オペラ」のなかで「バッカス」を歌うわけだ。この劇中の「テノール歌手」が、つい先日ジークムント役を同じ東京で歌っていたという現実と地続きになっている。リヒャルト・シュトラウスが巧妙に作り上げたフィクションの世界に、現実の側がワーグナー経由で切れ目なくつながってしまったかのような感覚がある。


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 で、そのグールドは「ワルキューレ」で圧倒的な存在感を見せつけた。世界有数のヘルデン・テノールにふさわしい力強い歌唱は余裕を感じさせるほど。しかも強靭なだけではなく、抒情的な表現もすばらしい。シュトラウスのひねりの利いた趣向を生かすためには、テノール歌手/バッカス役にはいかにもヘルデン・テノールらしいテノールであってほしいもの。グールドはまさにうってつけといっていいだろう。大詰めでのバッカスの歌唱は大きな聴きどころだ。
 ところで「ナクソス島のアリアドネ」って、最後の終わり方が不思議だと思いませんか。劇中劇の「オペラ」から、外側の劇に戻ってくるのかと思いきや、戻ってこない。バッカスが格調高くアリアドネへの愛を歌って、幕を閉じる。あれほどの美しい歌の後には、なにを続けても野暮ってことなんでしょうか。
                                       飯尾 洋一(音楽ジャーナリスト)


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