東京バレエ団50周年プレ企画 バレエ・ブラン・シリーズ2

 デヴィッド・ホールバーグといえば、今もっとも注目を集める男性ダンサーのひとりである。2001年にアメリカン・バレエ・シアター(ABT)に正団員として入団して以来、わずか4年でプリンシパルに登りつめ、早くから次代を担う王子役候補として期待されていた。ことに2011年、半ば電撃的にボリショイ・バレエに移籍して後者の長い歴史の中でも初のアメリカ人プリンシパルとなり、同年秋に新装成った同劇場の開場記念公演で『眠れる森の美女』に主演するに至っては、その踊りの端正さ、ラインの美しさ、そして主役としての存在感は、ノーブルな美貌とともに世界的にも折り紙つきになったといってもいい。にもかかわらず、日本国内では今ひとつ、人気に火が付くのが遅いのではないか――というのは、いち早く彼の魅力に目を留めた一部のファンが、じれったく感じていることではないだろうか。
 なぜ、と記憶をたどっていて思い当たるのは、ひとつには彼が過去の来日時に、大本命ではない立場で淡々と舞台を務める――と見えたのは、本人がもともと過剰なアピールを潔しとしない、どちらかといえば控え目な個性の持ち主だったことも関係していたに違いないのだが――ことが多かったからかもしれない。
 しかも、というべきか、それなのに、というべきか。同時にホールバーグはそれらの舞台でじつに新鮮な、彼ならではの魅力を示してきたのである。国内で主役を踊ったのは、2006年に東京に単身招かれての『レ・シルフィード』が最初だったと記憶しているが、その並はずれて長く形の良い脚や、ABTに入団前の10代の一年間をパリ・オペラ座バレエ学校に留学して磨きをかけたというフットワークには、その頃から何度も溜息を誘われたものだった。  加えて近年は、そうした部分ごとの美しさを超えて、あるいはその総体として全身の醸しだす情感が、じつに豊かで役柄にふさわしいものになってきている。たとえば2008年のABTでのマクミラン版『ロミオとジュリエット』の終盤の見せ場の一つである“墓所のパ・ド・ドゥ”では、仮死のジュリエットをかき抱き、引きずるロミオのナイーブな嘆き以上に熱さが際立っていて、上品で寡黙なことと激しいことは、このようにして一人のダンサーの中に両立するのかと目を見張った。
 さらに忘れがたいのは、2010年の〈マニュエル・ルグリの新しき世界〉に参加した際の『アザー・ダンス』である。オレリー・デュポンとともに登場してきた瞬間に舞台にはただならぬ気配が舞台を満たし、今思い出しても心がしんと静まるほどだった。丁寧に差し出す足先ひとつ、年上のパートナーの手を取る動作ひとつにも、そっと大事なものに触れるような、憧れと親密さとかすかな畏れの入り混じった名状しがたい思いが底に流れる。そして息をひそめ、胸を震わせて観るメランコリックなアダージオから一転、解き放たれて弾むようなアレグロがまた、みごとだった。大きな跳躍から完璧な5番ポジションに降りる柔らかい着地、素直な音取りの合間の遊びごころ、晴れやかな上体の使い方といった確かな技術が、ショパンの曲想とロビンズの振付に誘われて全開になった。
 ホールバーグの舞台を観ていると、その個性を一言では表しがたいと感じることが多い。一見酷薄そうでありながら誠実さも見え隠れするし、ときにはちょっと浮ついた様子を得意げに示すこともある。ただし踊りは一貫して澄み切った美しさで、たとえば脚のドゥミ・ポワントに立ってポーズを決め、その引き絞られた全身がぎりぎりまで音楽を持ちこたえた果てに次の動きへとくずおれていく様はたとえようもなくロマンティック、そしてスプリットされた両脚が跳躍の頂点で一本のラインを描けば、そのまま時が止まればと願わずにはおれないほどである。
 『アザー・ダンス』は、じつにホールバーグに似合いの作品だったわけだが、そしてそれ以上に大きな感情の振れ幅と深い人物造形を要求する『ジゼル』で、彼はどんなアルブレヒトを演じるのだろう。想像できそうなところもあれば、それを裏切られそうな期待もある。ひとつだけ確信されるのは、これが日本でもホールバーグをスター中のスターの地位に押し上げるに違いないということである。           


東京バレエ団50周年プレ企画 バレエ・ブラン・シリーズ2
「ジゼル」全2幕

会場:東京文化会館

2013年
10月12日(土)3:00p.m. / 10月14日(月・祝)3:00p.m.

【予定される主な配役】
ジゼル:上野水香(10/12)、吉岡美佳(10/14)
アルブレヒト:デヴィッド・ホールバーグ

指揮:ワレリー・オブジャニコフ
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

【入場料(税込み)】
S=¥11,000 A=¥9,000 B=¥7,000 C=¥5,000  D=¥4,000 E=¥3,000

*エコノミー券、学生券は9月20日(金)より受付
 エコノミー券=¥2,000(イープラスのみ)
 学生券=¥1,000(NBS WEBチケットのみ)
★ペア割引券(S,A,B席)あり 
★ファミリー券(S,A席)あり

<チケット発売日>
一斉前売開始6月1日(土)10:00a.m.より 

NBSについて | プライバシー・ポリシー | お問い合わせ