「フリーデマン・フォーゲルが初めて東京の舞台に立ったのは1999年、シュツットガルト・バレエ団に入団した翌年のこと。類いまれな踊りの才能、端正で甘さもある美しい容姿、そして若さのままに情熱をほとばしらせるかのような素直な演技力と、現代のダンスール・ノーブルに求められるものの全てに恵まれた彼は、その後またたく間にスターダムを駆け上った。「オネーギン」のレンスキー、「マノン」のデ・グリュー、「椿姫」のアルマンなど、悲恋に身を焦がす青年を踊って比類がないが、なかでも彼の主演者としての成長と共にあったともいえるのが「ロミオとジュリエット」のロミオである。初めて全幕を主演したディーン版、シュツットガルト・バレエ団の誇るクランコ版に続き、この9月にはミラノ・スカラ座バレエ団の来日公演に客演して、日本でも人気の高いマクミラン版を踊る。

――フォーゲルさんにとって、ロミオというのはどんな人物なのでしょう?

「ロミオは“今このとき”だけを生きている青年なんです。たとえばレンスキーやデ・グリュー、アルマンは人生や将来を真剣に見据えていますが、ロミオはその場の感情に翻弄されてしまう。その意味では、とても未熟ですね。全幕バレエの最後まで演じきるので、次の日には動けないほど消耗してしまうこともあります……レンスキーは逆に、決闘によって作品の半ばでいきなり命を断ち切られてしまうので、出番が終わった後、身体より気持ちの面で日常に戻るのがほんとうに難しいんですが」

――ロミオの解釈は、演出が変わっても同じなのですか?

「はい。ロミオの情熱、愛、憎悪といった感情に変わりはなく、同じ内容を別の言葉で伝えると考えています。もちろん演出ごとに違った魅力や難しさがあり、たとえばディーン版では、円形舞台で背後からも観られるという特殊な条件のため、ジュリエットとの場面で精神的に二人きりになることが難しかった。クランコ版は、バレエ史の中に全く新しいロミオ像を生みだした名作で、現代のバレエに必要な要素だけが、白紙のページにくっきりと描かれています。マクミラン版については通しでのリハーサルの前で、いわば僕はまだこのロミオを自分の身体で“生き抜いて”いない段階なんですが……ただ、一人のダンサーが『ロミオとジュリエット』の双璧ともいえるクランコ、マクミランの両方を踊れるというのはめったにないことですよね。同じ音楽に対する二人の振付の違いを実感してゆくのはとても貴重な体験で、バレエに対する新たな目が開かれる思いです」

――今回のジュリエット役は、アリーナ・コジョカルです。

「これまでにも何度か共演の話がありましたが、今回やっと実現します。アリーナは、動きのクオリティやラインの美しさ、フレージングの妙など、どこをとっても素晴らしいバレリーナ。しかもマクミラン版を知りぬいています。パートナーシップというのは、あらかじめ全てを計画することも、結果を予想することもできないものですが、二人の踊りが噛み合えば、現実よりも強い愛が感じられます。リハーサルが佳境に入れば、アリーナ自身が僕の最高のコーチになってくれることと期待しています」

――スカラ座にはこれまでにもたびたび客演し、2011年にはプティパ版『ライモンダ』の復刻でも男性の主役である騎士ジャン・ド・ブリエンヌを踊られています。

 「一世紀以上昔の作品なので男性の踊りが驚くほど少ないうえ、原典になるべく忠実にということで、新しいソロも付け加えてもらえませんでした(笑)。ただ、一からの新制作なので長くイタリアに滞在して、バレエ団にすっかり溶け込めたのがよかった。ガラ・コンサートであれば当日そこに行って踊ることも可能ですが、全幕作品の主役なら明確なヴィジョンを持って臨み、それをカンパニー全体と共有しなくてはいけません。今回の『ロミオとジュリエット』では、主役の二人だけでなく、全員で一つの物語を生きるところをお見せできると思っています」


ミラノ・スカラ座バレエ団 2013年日本公演
「ロミオとジュリエット」 ケネス・マクミラン振付

会場:東京文化会館

2013年
9月20日(金) 6:30p.m./ 9月21日(土) 12:00p.m.
9月21日(土) 6:00p.m./ 9月22日(日) 3:00p.m.
9月23日(月・祝) 1:00p.m.

【予定される主な配役】
ジュリエット:
アリーナ・コジョカル(9/20、9/22)
ナターリヤ・オシポワ(9/21夜、9/23)
ペトラ・コンティ(9/21昼)
ロミオ:
フリーデマン・フォーゲル(9/20、9/22)
イワン・ワシーリエフ(9/21夜、9/23)
クラウディオ・コヴィエッロ(9/21昼)

指揮:デヴィッド・ガーフォース

演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

【入場料(税込み)】
S=¥18,000 A=¥16,000 B=¥14,000
C=¥11,000 D=¥8,000 E=¥5,000
学生券=¥2,000(NBS WEBチケットのみ)
★ペア割引券(S,A,B席)あり ★親子ペア券(S,A,B席)あり

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