シルヴィ・ギエム主演 東京バレエ団初演 「カルメン」

 日本のバレエ団による初のマッツ・エック作品上演となる、シルヴィ・ギエム主演の『カルメン』。準備は着々と進んでいる。10月初旬には、ストックホルムにて振付家自身によるシルヴィ・ギエム、マッシモ・ムッルのリハーサルが行われた。ここには東京バレエ団からM役の高木綾、エスカミリオ役の柄本弾も参加。巨匠振付家の指導におおいに刺激を受けたという二人に、話を聞いた。
 二人は、7月初旬、マッツ・エックと『カルメン』初演ダンサーでエック夫人のアナ・ラグーナによるトライアウトに参加し、それぞれの役に選ばれた。エックの振付に初めて触れたのも、このときのことだ。

高木「衝撃は、大きかったです。バレエでは身体を引き上げるのが基本ですが、マッツさんの振りでは真逆の動きも。重心はずっと下で、普段はあまり使わない腿の筋肉を使って姿勢を保ったり、猫背になったり、と未知の体験でした。この作品にどんなに少しでもいいから携わりたいと思っていたので、選んでいただいてとても嬉しいです」

柄本「オーディションで選んでもらうためには、“このダンサーに踊らせたい”と思ってもらえるような何かがないといけないものですが、マッツさんの作品については、形一つひとつの“正解”がわからなくて、手探り状態、全力でやるのみ、でした。バレエ団初演という大きな機会に、こんな大きな役で関われるのはとても光栄です」
 9月には振付指導のポンペア・サントロ、ラフィ・サディが来日、約2週間のリハーサルが行われた。ここで二人は、エック独特の振付を身体にしみ込ませ、役柄への理解を深めている。

高木「私が演じるMは、死の象徴、母、ホセの婚約者のミカエラ、と場面ごとにいろんな顔を見せます。死を予言したり、カルメンに婚約者をとられて悔しがったり、でも次第にホセを包みこむ温かさが見えて……と、一つに定まらないものを演じます。とても難しいですね」

柄本「エスカミリオは、自分は英雄だと思っている男で、いつも女の子に注目されようとしている。カルメンが現れ、皆の注目を彼女と競い合うけれど、周りに人々がいなくなったとたん、カルメンと心が惹かれ合って……と、周りの状況によって大きく変化する、といわれました。そこをどう見せるか、ですね。マッツさんはダンサーに合わせて振りを変えられるとのこと。細かいニュアンスもすごく大切にされるので、まずは自分のなかでしっかりこの役を創り上げて、ぶつけていくことが大切だと感じているところです」
 その後、二人はストックホルムへと出発。現地でのリハーサルでは、実に多くのことを学んだ。

高木「現地では、“皆で一緒に創りあげよう”という雰囲気があって、私も皆さんと同等に扱ってくださった。一緒に踊るムッルさんは、“このアイデアはどう?”と同じ立場で尋ねてくださるし、先生方も常にディスカッションされていて、より良いほうへ変えてこうとする。素晴らしいチームです。ギエムさんも、息があがるまで100%の力を出して稽古されていました。ギエムさんのカルメンは、強くてセクシーで、女性からみても素敵です。私も、ホセを抱きかかえる場面があるんですよね……。頑張らないと(笑)」

柄本「怒濤の一週間でした! 実は、ストックホルムに行くまでは物凄く緊張していまして(笑)。ところが、いざ現地に入るとマッツさんも、一緒にパ・ド・ドゥを踊るギエムさんも、本当に親切で、集中して稽古できました。充実した時間でした」
 ストックホルムでは、スウェーデン・ロイヤル・バレエ団によるエック振付『ジュリエットとロミオ』公演を観る機会にも恵まれた。

柄本「リハーサルではよく、“無駄に力が入っている。リラックスして”と指摘されました。エスカミリオは力強い存在だからと、力いっぱい踊っていたのですが、それでは強さが出ないというのです。そんなときに、舞台を観た。皆さん、凄く強い踊りなのに、とても柔らかい! 力を抜いているからこそ大きく見えたり、力強く見えたりするんです。とても勉強になりました。“もっと何度も観たい”と自分が思ったように、お客さんに、この『カルメン』をもっと観たいと思っていただけるようにしなければ、と改めて思いました。マッツさんの作品を観ることができる貴重な機会ですので、 ぜひ多くの方に観に来ていただきたいですね」

高木「舞台を観て、例えばダンサーの肘、膝が特徴的な動きをしていると、そのパーツに目が引きつけられることに気づかされました。マッツさんの作品は、そこを追うだけで人物の感情が伝わってくるんです! 細部にも微妙なニュアンスがあり、1、2回観ただけでは全部を受け取ることができないのが悔しいですね。『カルメン』も同じで、隠れたところにも人と人とのセッションがある。それだけに、1度観たら何度も観たくなる作品だと思います。マッツさんの世界を表現しきる──今はただそれだけを目指しています」


シルヴィ・ギエム オン・ステージ2013
シルヴィ・ギエムの「カルメン」

会場:東京文化会館

2013年
11月14日(木)7:00p.m./ 11月15日(金)7:00p.m.
11月16日(土)3:00p.m./ 11月17日(日)3:00p.m.

【予定される演目】
「カルメン」
振付:マッツ・エック
音楽:ジョルジュ・ビゼー/ロディオン・シチェドリン
「エチュード」
振付:ハラルド・ランダー
音楽:カール・チェルニー、クヌドーゲ・リーサゲル

【主な出演】
「カルメン」 カルメン:シルヴィ・ギエム / ホセ:マッシモ・ムッル 東京バレエ団
「エチュード」 東京バレエ団

入場料[税込]
S=¥17,000 A=¥15,000 B=¥13,000 C=¥9,000 D=¥6,000 E=¥4,000

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