アニエス・ルテステュ、「椿姫」でパリ・オペラ座にアデュー

 開幕1時間前、花束を手にジョゼ・マルティネスがパリ・オペラ座に向かう姿が見られた。パトリス・バール、マニュエル・ルグリといった先輩たちも、早い時間から劇場に到着し、かつての仲間たちと談笑。アニエスのファン、バレエ愛好者たちが埋めた会場は開演前からいつもと異なる熱気に包まれ、これが偉大なるエトワールのアデューの晩であると知らずに入った観客も、何か特別なことがこれから起きるのだと理解できるほどだった。第3幕、愛しい人を求めるように空に手を延ばし、命尽きたマルグリット。読み終えた彼女の日記をアルマンが閉じ、そして舞台に幕が降りた。10月10日の夜、アニエス・ルテステュはエトワールとしてのオペラ座での最後の公演をこうして終了した。
 カーテンコールでこみ上げる感動を抑え、チャーミングな笑顔で観客に挨拶するアニエス。42歳という年齢が信じられないほど、愛らしい。観客に背を向けた時、涙をこらえきれぬ様子が背中に感じられたが、優しい笑顔を終止絶やさず。ゴールドの紙吹雪の中、客席からの割れんばかりの拍手に応え、これ以上は進めないというほど舞台の前まで何度も来て観客に挨拶をし、しまいには客席に向かってダイブしたい!というような、お茶目なポーズも見せてくれた。ルフェーヴル芸術監督、ピエール・ラコット、オレリー・デュポンたちの舞台への登場も観客を湧かせたが、誰もが目に焼き付けようと必死になったシーンはジョゼ・マルティネスが白い花束を抱えて彼女を抱擁した時だろう。この感動の一瞬、会場は沸きに沸いた。彼女のダンサーとしてのキャリアを語るとき、芸術面でのベターハーフである彼の存在は欠かせないのだから。
 これで本当にさようなら、というように彼女が花束を舞台に置き、舞台奥に引き下がり、幕が降りた。それでも、今一度!と会場からはその後も彼女を呼ぶ拍手がなりやまず。素晴らしいダンサーというだけでなく、美しく、職業意識も高く、魅力的でノーブルな人柄のアニエスに相応しいアデューの宵だった。 (大村真理子 マダム・フィガロジャポン パリ支局長)

<パリ・オペラ座バレエ団>


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