パリ・オペラ座バレエ団 2014年日本公演

19世紀のパリを舞台に高級娼婦マルグリットと青年アルマンの悲恋が繰り広げられる 「椿姫」は、究極のドラマティック・バレエと呼ばれる名作。今号では、パリ・オペラ座バレエ団の きら星のような主役陣のそれぞれの魅力、舞台を観るポイントなど、 本拠地パリでの舞台を繰り返しご覧になっている大村真理子さんに紹介していただきます。




 アデュー公演でアニエス・ルテステュがステファン・ビュリョンと踊った「椿姫」は、舞台上に感動が漲る忘れがたいものだった。二人のパートナーシップが強く感じられ、かつ特別な舞台であるという意識が出演者全員にあったのだろう。東京で一度限りの二人の舞台で、アニエスは日本のバレエ・ファンにアデューを告げる。パリ同様に素晴らしいものを期待していいだろう。ステファンが演じるアルマンには、世間擦れしていず、女性に対して不器用な青年という面がある。それゆえ、第1幕 でマルグリットに愛を告げるパ・ド・ドゥには情熱と気迫がこもり、第2幕の手紙のヴァリエーションには純粋な心をいたぶられた若者の怒りがこもる。これは見物である。アニエスはといえば、繊細な爪先、腕、脚の動きが彼女の心を物語り、マルグリットそのものだ。アルマンの父とのパ・ド・ドゥは、愛する人への真の愛ゆえに身を引く決意をする心の痛みを感じさせ、 観客に涙を流させる。第3幕、デ・グリューと死を控えたマノンとの間に、愛する人の腕の中で自分も死ねたら、といわんばかりに身を摺り込ませる姿は哀れを誘う。息のあったパートナーのサポートによるアニエス渾身のステージは、見逃せない。





 オレリー・デュポンとエルヴェ・モロー。文句のつけようのない美男美女の組み合わせだ。エレガントで少々勝ち気なマルグリットとノーブルで憂いを含んだアルマンが見られる。視覚的美しさはもちろんだが、この二人の強みは高い音楽性にあるといっていいだろう。全編を流れるショパンの曲の数々は、まるでこのバレエのために作曲されたかのように、マルグリットとアルマンの心の内を饒舌に奏でる。 躊躇(ためら)い、歓び、幸福感、激情、悲しみ。演じることは音楽に乗れば自然についてくる、といわんばかりに、二人の身体はショパンの曲に導かれるようにステップを踏み、物語を紡いでゆく。
 24のプレリュード第24番Op.28の重々しく唸るような低音と強烈な高音がからみあう旋律にのせて、エルヴェの果てしなく長い脚が強く空を突く第2幕の手紙のヴァリエーション。この美しい力強さに、誰もが溜息をつくだろう。第3幕、愛しい人を求めるように空に手を伸ばして息絶えるマルグリットになりきり、頬に涙するオレリー。そんな彼女を包み込むようなピアノ・ソナタ第3番第3楽章の美しさも、涙腺を刺激する。劇場を後にするとき、観客の心の中でこの曲が響き続けるに違いない。





 「マノン」「オネーギン」ではすでに舞台を共にしているものの、イザベル・シアラヴォラとマチュー・ガニオが「椿姫」の全幕を一緒に踊るのは、意外にも東京公演が初めてである。
 ドラマティックな舞台を作りあげるという点で定評のあるイザベル。第1幕では男を破滅に導く魔性の女の匂いを感じさせるが、第2幕の白のパ・ド・ドゥでは一転して、少女のように初々しく…。この見事な女優ぶりとオペラ座きっての美脚を、観客はたっぷりと堪能するだろう。
 一つひとつの動きに優雅さを発揮するマチュー。彼もまた優れた役者ぶりを発揮する。異なる世界の女性を愛した世間擦れしていないナイーブな青年 が、 歓び、傷つき、哀しみを経て成長する過程に観客は立ちあうことになるのだ。
 イザベルが2月28日にガルニエ宮でアデュー公演を行うことを思うと、この組み合わせで「椿姫」を見られる機会は最初にして、最後ともいえるだろう。貴重な舞台を見ることができる日本のバレエ・ファンは、幸運である。



2014年日本公演
パリ・オペラ座バレエ団

「 ドン・キホーテ」

会場:東京文化会館

2014年
3月13日(木)6:30p.m. / 3月14日(金)6:30p.m. / 3月15日(土)1:30p.m. /
3月15日(土)6:30p.m. / 3月16日(日)3:00p.m.

【予定される主な配役】
キトリ:
リュドミラ・パリエロ(3/13、3/15夜)
ミリアム・ウルド=ブラーム(3/14、3/16)
アリス・ルナヴァン(3/15昼)
バジル:
カール・パケット(3/13、3/15夜)
マチアス・エイマン(3/14、3/16
ジョシュア・オファルト(3/15昼)


「 椿 姫 」

会場:東京文化会館

2014年
3月20日(木)6:30p.m. / 3月21日(金・祝)1:30p.m. / 3月22日(土)1:30p.m. /
3月22日(土)6:30p.m. / 3月23日(日)3:00p.m.

【予定される主な配役】
マルグリット:
オレリー・デュポン(3/20、3/22昼)
イザベル・シアラヴォラ(3/21、3/22夜)
アニエス・ルテステュ(3/23)
アルマン:
エルヴェ・モロー(3/20、3/22昼)
マチュー・ガニオ(3/21、3/22夜)
ステファン・ビュリョン(3/23)

演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

※記載の配役は2013年9月17日現在の予定です。 カンパニーの都合等で変更になる場合があります。正式な配役は公演当日に発表いたします。


入場料[税込]
S=¥25,000 A=¥22,000 B=¥19,000 C=¥15,000 D=¥11,000 E=¥7,000

*エコノミー券、学生券は2014年2月7日(金)より受付
 エコノミー券=¥6,000(イープラスのみ)
 学生券=¥3,000(NBS WEBチケットのみ)
★ペア割引券(S, A, B席)あり
★3月15日(土)1:30p.m.公演限定! 親子ペア券(S, A, B席)あり

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