ローマ歌劇場 2014年日本公演


説得力に満ちた堂々たる大祭司ザッカーリア!

 暴君ナブッコに対峙するユダヤの大祭司ザッカーリアは、卓越した人格者であり、ユダヤ人たちの精神的支柱として存在感を示すことが要求されます。ボリショイ劇場での活躍を経て、世界へと活躍の場を広げたベロセルスキーにとってザッカーリア役は、ボリショイ劇場、メトロポリタン歌劇場、ローマ歌劇場ほかで素晴らしい成功を獲得している当たり役といえます。ローマ歌劇場日本公演の直前となる5月上旬には、ウィーン国立歌劇場でもこの役で登場するのです。
 ベロセルスキー演じるザッカーリアの魅力は、何といっても堂々たる説得力に満ちた歌唱にあります。そしてそれは早くも第1幕から! 大祭司ザッカーリアは、ユダヤの敗北を嘆く人々に、神を信じて希望をもつよう語ります。「モーゼは紅海を渡った。ギデオンはわずか300の軍勢で数万のアラビア軍を破った。窮地に陥ったとき神を信じて滅びた者はないのだ」と、イスラエルの栄光の歴史が歌われるこの場面で、ベロセルスキーの朗朗と美しく響く光沢のある声、そして説得力には誰もが聴き惚れてしまうことまちがいなしです。
 また、このオペラ最大の盛り上がりとなる第3幕の合唱〈行け、わが思いよ金色の翼に乗って〉の直後で、バビロニアの崩壊を預言して人々を励ますザッカーリアの大アリアも聴かせどころです。ベロセルスキーの若さゆえの熱気も心を打つ強い印象として迫ります。

フィエスコ役で世界の大舞台へ!

 オペラでは、バス歌手の主要な役柄に年配の人物が設定されることが少なくありません。それだけに、若手のバス歌手にとっては役柄の年齢に応じた表現が難しいといわれる場合もあります。恋人との間に、子どもを産むような年齢の娘をもつとなれば、フィエスコもベロセルスキーの実年齢よりはかなり上ということになります。さらに、プロローグから25年後のアンドレアとなれば、ますますギャップは大きいのはたしか。しかし、ベロセルスキーの深みのある声質と表現力は、彼自身が若いということをまったく感じさせることはありません。たとえば、ベロセルスキーは、『ドン・カルロ』のフィリッポ二世もレパートリーとしていますが、フィレンツェでこの役を演じた際には「完璧なフィリッポ二世を演じた。響きの悪いことで悪名高いコムナーレにおいても、その声は朗朗と響いた。非のうちどころがない」と絶賛されたほどです。
 娘を亡くした悲しみを怒りで覆い、シモンへの憎しみを抱いて生き続けながら、最後には孫娘との再会でその怒りを溶かす……。フィエスコ役を演じるには、この複雑な性格表現も重要です。ベロセルスキー演じるフィエスコは、2012年ローマ歌劇場での新演出初演の際、すでに優れた表現力が高く認められており、今年4月にはプラシド・ドミンゴ演じるシモンを相手にベルリン国立歌劇場《フェストターゲ》に、また10月にはバイエルン国立歌劇場への出演も予定されています。フィエスコ役もまた、ベロセルスキーが世界の舞台に立つ代表的なレパートリーとなるに違いありません。

          



 本紙前号でもお知らせの通り、ローマ歌劇場日本公演開催に合わせ、リッカルド・ムーティの著書『リッカルド・ムーティ、イタリアの心 ヴェルディを語る』が発売されます。
 リッカルド・ムーティは、オペラは文化の産物で、イタリアを代表する芸術として上演されるようになってほしいと切に願っています。こうしたことから、この本では「(楽譜に)書いてある通りに忠実に」の真の意味が、作品を取り挙げながら、マエストロの舞台経験のエピソードとともに語られています。マエストロには『今までこのように演奏されてきたのだから、このように演奏するべきなのだ』という妥協(悪い慣習)はないのです。
 この本は、そのままヴェルディの生きた解説となっているところが、他の書物にない特別な面白さといえるでしょう。たとえば今回の来日公演の演目について、一部を抜粋してみると――
『シモン・ボッカネグラ』については、「ヴェルディの人生は苦悩の連続であった。“ヴェルディ的悲観主義”を彼の作品を通してうかがうことができる」と言い、とくに「『シモン・ボッカネグラ』のフィエスコは、確実にヴェルディ自身の苦悩と悲観主義を、そして彼の人生の悲劇を表現している」と言い切っています。また『ナブッコ』については、「私にとって忘れられない思い出」の作品と語っています。ムーティがミラノ・スカラ座の音楽監督になって、最初のシーズン・オープニングに選んだ曲だからです。そして、ヴェルディは『ナブッコ』を書いて作曲家としての本格的な第一歩を踏み出した、と位置づけています。
 マエストロ・ムーティが今回日本の観客の前に繰り広げてくれるのは、この本にあるような、自分の理想のヴェルディにちがいありません。


ローマ歌劇場 2014年日本公演
『ナブッコ』

【公演日】
2014年
5月20日(火)6:30p.m. 東京文化会館
5月30日(金)3:00p.m. NHKホール
6月 1日 (日)3:00p.m. NHKホール

【入場料(税込み)】
S=¥54,000 A=¥47,000 B=¥40,000
C=¥33,000 D=¥26,000 E=¥19,000 F=¥12,000

【予定される主な配役】
ナブッコ:ルカ・サルシ
イズマエーレ:アントニオ・ポーリ
ザッカーリア:ドミトリー・ベロセルスキー
アビガイッレ:タチアナ・セルジャン
フェネーナ:ソニア・ガナッシ


ローマ歌劇場 2014年日本公演
『シモン・ボッカネグラ』

【公演日】
2014年
5月25日(日)3:00p.m. 東京文化会館
5月27日(火)6:30p.m. 東京文化会館
5月31日(土)3:00p.m. 東京文化会館

【入場料(税込み)】
S=¥54,000 A=¥47,000 B=¥40,000
C=¥33,000 D=¥26,000 E=¥19,000 F=¥12,000

【予定される主な配役】
シモン:ジョルジョ・ペテアン
アメーリア:バルバラ・フリットリ
ガブリエーレ・アドルノ:フランチェスコ・メーリ
フィエスコ:ドミトリー・ベロセルスキー 
パオロ・アルビアー二:マルコ・カリア

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