英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団 2015年日本公演

 英国二大バレエ団の一つ、バーミンガム・ロイヤル・バレエ団(BRB)。バレエ・リュスのダンサー、ニネット・ド・ヴァロワによって1931年に創設されたバレエ団を前身とし、ロンドンのロイヤル・バレエ団とは姉妹カンパニーの間柄にある。ロイヤルの名にふさわしい、英国バレエ伝統の気品溢れるドラマティックなスタイルと、現代の観客の心を捉えて放さない洗練されたウィットとエンターテインメント性を兼ね備え、本拠地バーミンガムのみならず英国内外の幅広い観客から支持されている。
 ロイヤル・バレエ団とは一味違うBRB独自の個性を決定づけているのが、1995年より芸術監督を務めるデヴィッド・ビントリーの存在である。今年6月まで日本の新国立劇場バレエ団の芸術監督も兼任していたビントリーは、ド・ヴァロワ、アシュトン、マクミランの系譜を継ぐ、現代英国バレエを牽引する振付家。クラシック・バレエのステップを柔軟に解釈し、ダンサーの身体と音楽から、巧みに観る者の心に訴えるドラマを紡ぎだすさまは、しばしば「ビントリー・マジック」と形容されてきた。
 ステップでいかに“語る”ことができるかを重視するビントリーが選んだ、少数先鋭のダンサーたちも皆個性派揃い。今回日本公演で上演される二作品も、演技派ダンサーの多いBRBゆえの十八番である。
 今回が日本初演となるビントリー版「シンデレラ」は、2010年11月にバーミンガムで初演され、英国中で大評判となったビントリーの代表作品。「シンデレラ」といえば、ビントリーが敬愛するアシュトンによるバージョンが有名だが、ビントリーはアシュトン版とは異なる物語・登場人物設定を取り入れ、ファンタジックで夢溢れる全く新しい「シンデレラ」を実現してみせた。
 ビントリー版「シンデレラ」の最大の特徴は、うっとりするほど幻想的でありながら、同時に現代の観客が共感できるリアルな感情表現と遊び心を忘れていないことだろう。例えば、物語の鍵となる“靴”を効果的に演出に取り入れている点。第1幕の間ずっと裸足で踊ることで、シンデレラの悲哀は一層際立ち、だからこそ、母の形見の靴(=トゥシューズ)を履いて王子と踊る舞踏会の場面では、きらめく靴を履いたシンデレラの高揚が観る側にもダイレクトに伝わってくる。
 さらにビントリー版はエンディングも秀逸だ。すぐに結婚式の場面になるのではなく、みすぼらしい姿のシンデレラをありのまま受け止める王子の寛容さ、そして階級の差を超える愛を二人で確認し合う過程が丁寧に描かれ、観る者誰もをハッピーにする心温まる演出になっている。暗い英国の冬に、多くの人々の心に希望の光を灯した綺羅星のようなこの作品は、テレビで全国放送されたことも相まって、ともするとロイヤル・バレエ団のアシュトン版を凌ぐ人気ぶりである。


 もう一つの上演作品「白鳥の湖」は、BRBの財産ともいうべき、前芸術監督ピーター・ライト卿が手がけたバージョン(1981年初演)である。ビントリー同様、どこまでも英国的な演劇バレエを追求したライト版「白鳥の湖」は、王子の心理変化を丁寧に描いたドラマティックな演出が評判を呼び、今なお世界中のバレエ団で上演されている。
 従来の「白鳥の湖」には、国王の不在など筋の通らない点が多々あるが、ライト版では、冒頭に国王の葬列を挿入し、王子がすぐにも妻を娶って次期国王として即位しなければならないという状況を設定。第1幕のパ・ド・トロワに加えられた王子のソロでは、愛のない結婚をしなければならないことを憂う王子の、将来への不安と期待が表現される。こうした明確な動機付けによって、死をも超越する真実の愛を知った王子の行動がより迫真に満ちたものとなり、平坦になりがちな第4幕も、ハムレットを彷彿とさせる衝撃的な終幕場面が観客の胸を打ってやまない。2012年、英国でロイヤル・バレエ団のダウエル版とBRBのライト版「白鳥の湖」が奇しくも同時期に上演された際、評論家たちがこぞって絶賛したのは“世界で最も優れた演出の一つ”と評されるライト版であった。ドラマに酔いしれ、バレエを観ることの純粋な喜びを味わうのに、これ以上の作品はないだろう。


2015年日本公演
英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団
「シンデレラ」「白鳥の湖」

会場:東京文化会館

●「白鳥の湖」
2015年
4月25日(土)2:00p.m.
4月26日(日)2:00p.m.
4月27日(月)6:30p.m.

●「シンデレラ」
2015年
5月1日(金)6:30p.m.
5月2日(土)2:00p.m.
5月3日(日・祝)2:00p.m.

【入場料[税込]】
S=¥18,000 A=¥16,000 B=¥14,000 C=¥11,000 D=¥8,000 E=¥5,000
エコノミー券=¥4,000 学生券=¥3,000

*エコノミー券はイープラスのみで、学生券はNBS WEBチケッットのみで2015年3月20日(金)より発売。
★ペア割引(S,A,B席)あり
★親子ペア割引(S,A,B席)あり。1月30日(金)より発売。


【そのほかの公演】

5月6日(水・休)
愛知県芸術劇場大ホール 「白鳥の湖」
[TEL 052-241-8118]

5月9日(土)
兵庫県立芸術文化センター 「シンデレラ」
[TEL 0798-68-0255]

*出演者については近日発表予定

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