英国ロイヤル・オペラ 2015年日本公演

 皆がマノンに夢中になった。
 2010年英国ロイヤル・オペラ日本公演のころ、オペラの世界は「ネトレプコの『マノン』で盛り上がっていた。ベルリンでもニューヨークでもウィーンでも、大スターとなったネトレプコの、迫真のマノンに熱狂していた。次は東京の番だ! これで夢中にならないはずはない。ネトレプコは熱狂に値する魅力的なマノンだった。
 だがネトレプコはひとりでマノンになってるわけじゃない。あの、サン・シュルピスでの誘惑場面を思い出すだけではっきりするはず。マノンがデ・グリューに歌いかけると、ヴァイオリンが、そしてオーケストラが、デ・グリューに働きかける。あの時のロイヤル・オペラのオーケストラは、なんとも官能的だった。
 女が男を誘惑するとはこういうことだと、まずネトレプコがわかっていた。演出家もわかっていたはず。でも、最もよくわかり、実行したのは指揮者だったかもしれない。
 あの時のアントニオ・パッパーノは、遠慮など無く、恥ずかし気もなかった。道徳を大切にする人にとっては、無慈悲というほかない。
 そうだ、パッパーノって、こういう指揮者だったのだと、この指揮者を聞いた時を思い出してしまった。
 いまならこの指揮者が現代有数のオペラの名手であるのは、よく知られている。だがパリで『ドン・カルロス』を指揮したころ、パッパーノはまだ名前が出てきたばかりだった。だが代1幕の、恋するようになった二人が引き裂かれる幕切れは、実に無慈悲だった。
 ここで止めておこうなんて、まるで思わない指揮者なのかもしれません。教会だろうが人目があろうが、あとで困ったことになろうが、マノンはデ・グリューに迫る。神父デ・グリューが「愛している!」と叫び出すまで、その手を緩めない。マスネの『マノン』では、そこにマノンを歌うソプラノに負けないくらい、オーケストラを動かす指揮者の力が働いている。パッパーノはあの時、一線を越えていた。
 いまはよくわかる。オペラ好きがどれほど強く、規範を乗り越えてしまう人物を求めているのかを。
 オペラの舞台には一体どれだけの無作法者が登場するのだろう? カルメンにマノンにマクベス夫人、ドン・ジョヴァンニに、ボリス・ゴドゥノフにヤーゴと、いくらでも名が挙がる。その上、日常生活では絶対に近くにいて欲しくない人たちこそが、劇場で私たちを魅了する張本人なのだ。『ドン・ジョヴァンニ』がロマン派オペラを導いた星なのだとしたら、19世紀のオペラは不道徳な悪人に魅了されて始まったことになる。
 ソプラノやバリトンは、役に扮するのだから必要かもしれないが、指揮者まで恥知らずになるまでもないだろう、という常識的な判断が、あまり常識的でないオペラという芸術においては、まちがっているのだと、パッパーノは改めて教えてくれた。
 コンサートの指揮者としてのパッパーノもすばらしいと、このあいだのローマ・サンタ・チェチーリア国立管弦楽団とのコンサートを聴けば思う。でも、演奏されたロッシーニの序曲を聴くと、その向こうに愉快な男女のうごめく様子がうかがえる。ついオペラ指揮者パッパーノを想像してしまうというもの。あの、艶っぽいマノンを、これでもかとばかり不道徳に、そしてあでやかにしてしまったロイヤル・オペラの音楽監督だ。
 ロイヤル・オペラが今度の日本公演で上演するのが『マクベス』と『ドン・ジョヴァンニ』というのは、音楽監督に合わせたからなのかもしれない。どちらも筋金入りの不道徳な悪人のオペラなのだ。断言できる。舞台では罪作りな所業が行われる。前もって言ってしまおう。気をつけなくてはならないのはアントニオ・パッパーノだ。

          

英国ロイヤル・オペラ 2015年日本公演
ヴェルディ作曲『マクベス』

指揮:アントニオ・パッパーノ
演出:フィリダ・ロイド

【公演日】
2015年
9月12日(土)3:00p.m
9月15日(火)3:00p.m
9月18日(金)6:30p.m.
9月21日(月・祝)1:30p.m.

会場:東京文化会館

【予定される主な配役】
マクベス : サイモン・キーンリサイド
マクベス夫人 : リュドミラ・モナスティルスカ
バンクォー : ライモンド・アチェト
マクダフ : ディミトリ・ピッタス

【入場料(税込み)】
S=¥55,000 A=¥48,000 B=¥41,000 C=¥33,000
D=¥26,000 E=¥19,000 F=¥12,000
エコノミー券=¥10,000 学生券=¥8,000

*E,F券はイープラス、チケットぴあ、ローソンチケット、CNプレイガイドで3月14日(土)より受付。
*エコノミー席はイープラスのみで、学生席はNBS WEBチケットのみで8月7日(金)より受付。

※2演目 [S,A,B券]セット券、 受付開始 3月7日(土)10 : 00a.m.
※一斉前売開始 3月7日(土)10 : 00a.m.



英国ロイヤル・オペラ 2015年日本公演
モーツァルト作曲『ドン・ジョヴァンニ』

指揮:アントニオ・パッパーノ
演出:カスパー・ホルテン

【公演日】
2015年
9月13日(日)3:00p.m
9月17日(木)6:30p.m.
9月20日(日)1:30p.m.

会場:NHKホール

【予定される主な配役】
ドン・ジョヴァンニ : イルデブランド・ダルカンジェロ
レポレロ : アレックス・エスポージト
ドン・オッターヴィオ : ローランド・ヴィラゾン
ドンナ・エルヴィーラ : ジョイス・ディドナート
ドンナ・アンナ : アルビナ・シャギムラトヴァ
ツェルリーナ : ユリア・レージネヴァ
マゼット : マシュー・ローズ

【入場料(税込み)】
S=¥55,000 A=¥48,000 B=¥41,000 C=¥33,000
D=¥26,000 E=¥19,000 F=¥12,000
エコノミー券=¥10,000 学生券=¥8,000

*E,F券はイープラス、チケットぴあ、ローソンチケット、CNプレイガイドで3月14日(土)より受付。
*エコノミー席はイープラスのみで、学生席はNBS WEBチケットのみで8月7日(金)より受付。

※2演目 [S,A,B券]セット券、 受付開始 3月7日(土)10 : 00a.m.
※一斉前売開始 3月7日(土)10 : 00a.m.

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