開幕直前、現地取材! モナコ公国 モンテカルロ・バレエ団 2015年 日本公演 Under the Presidency of H.R.H. the Princess of Hanover LES BALLETS DE MONTE CARLO Jean-Christophe Maillot

——2015年2月の来日公演で上演される『LAC〜白鳥の湖〜』について、お話を伺いたいと思います。まず創作の動機は?

マイヨー 私はストーリーのない、いわゆる抽象バレエもたくさん創作してきましたが、その一方でつねにストーリーを大事にしてきました。具体的には、バレエという身体言語でいかにストーリーを語るかということです。バレエは時代のメタファーでもありますから、古典バレエをそのまま上演しても時代にそぐわない。20世紀を生き抜いた19世紀の古典バレエに新解釈をほどこし、21世紀のバレエとして上演する、それが私のライフワークです。『白鳥の湖』の場合、ストーリーがおろそかにされてきた。つまり、湖畔の場のオデットと王子のアダージオと、黒鳥のパ・ド・ドゥだけ観れば、あとは寝ていればいい、ということになってしまった。私は『白鳥の湖』のストーリーを取り戻したい、とずっと思っていました。

——古典バレエを片っ端から現代風に変えたい?

マイヨー いえ、音楽が魅力的でない古典作品には食指が動きません。たぶん、『ジゼル』や『コッペリア』の改訂版は作らないだろうと思います。その点、やはりチャイコフスキーは偉大です。

——『シンデレラ』、『眠れる森の美女』の改訂版である『ラ・ベル(美女)』、『真夏の夜の夢』を改訂した『ル・ソンジュ(夢)』など、これまではご自分ひとりでストーリーの改作を手がけてこられたわけですが、『LAC〜白鳥の湖〜』ではドラマトゥルクを起用されました。それはなぜですか? しかもそのドラマトゥルクが、ゴンクール賞作家ジャン・ルオーです。彼の『名誉の戦場』(ゴンクール賞受賞作)は日本語にも翻訳されています。どうしてルオー氏を起用したのですか?

マイヨー おっしゃる通り、これまではひとりで考えてきましたが、『LAC〜白鳥の湖〜』では誰かと対話しながら、いわばピンポンをしながら創作してみたいと思いました。その相手は、バレエのことを全然知らない人がいいと思いました。
 ちょっと話が逸れますが、よく公演の後に、見知らぬ男性から、「妻に無理やり引っ張られて来ました。娘がバレエを習っているんです。ずっと眠っているつもりだったのですが、すごく面白かった。ありがとうございました」と言われることがあります。私にとって、全然バレエを知らない人も、コアなバレエ・ファンに劣らず、とても大事なお客さんです。
 で、ドラマトゥルクに話を戻しますと、2006年に7人の作家をモンテカルロに招き、シンポジウムを開催したのですが、ルオーもそのひとりでした。彼も私も楽器を演奏するので、すぐに親友になりました。それで、いっしょに仕事をしたいとずっと思っていました。彼はバレエについて、「男がタイツをはいて飛んだり跳ねたりする踊り」というくらいの知識しかなかったので、アドバイザーとして「理想的」でした(笑)。

——それで、共同作業はうまくいったのですか?

マイヨー はい。バレエのことを全然知らないルオーは、私が予想していなかったような意見を述べてくれ、ひじょうに参考になりました。

——で、古典の『白鳥の湖』はどのように変わったのでしょうか。ビデオで拝見しましたが、全体に暗いですね。

マイヨー 一言でいえば、少年が幼年時代に抱いていた「純粋な愛」のイメージが現実によって砕かれていくという物語です。全体に暗いのは、その底に、私たちが幼児期に抱いていた漠然とした恐怖があるからです。そしてその恐怖をもたらすものは「現実」であり、「自然」です。東日本大震災を経験した日本のみなさんにはとくによくわかるのではないかと思いますが、自然の猛威の前には、人間は無力です。「現実」を描かないバレエは、現代人に感動を与えることはできないでしょう。

——その「現実」「自然」を象徴しているのが「夜の女王」ですね。私はビデオを観て、『魔笛』の夜の女王を思い出しました。

マイヨー その通り。『眠れる森の美女』のカラボスもそうですが、彼女たちは普遍的な「元型」です。

——通常の『白鳥の湖』は、第1幕がとても退屈で、できれば第2幕から観たいなと思ったりするのですが(笑)、マイヨー版では第1幕と舞踏会の場がミックスされていますね。

マイヨー 数十分間我慢してようやくクライマックス、というのでは観客は退屈してしまいますからね。「聖域」とされている第2幕(湖畔の場)にも大胆に手を加えました。ネオ・クラシックの振付家で、『白鳥の湖』第2幕の振付を変えたのは私が最初だと自負しています。

——モンテカルロ・バレエ団にいる日本人ダンサーについて、コメントを頂けますか。

マイヨー 小池ミモザはもう「家族の一員」です。彼女は2003年に入団したとき、すでに完成されていました。テクニックも完璧でした。でもその後の10年間に彼女はさらに成長しました。驚くべきことです。今では「なくてはならない存在」です。2014年に入団した加藤三希央は、このバレエ団に入るために付属のバレエ学校に入学した最初のダンサーです。そして見事、その目標を成就しました。まだ若いけれど、大変な才能の持ち主で、将来が楽しみです。田島香緒理は本当に可愛い子で、彼女を見ていると、つい微笑んでしまいます。彼女も将来有望ですね。

——最後に、日本のバレエ・ファンへのメッセージをお願いします。

マイヨー このインタビューを読んだ方が実際に『LAC〜白鳥の湖〜』を見に来て下さるかどうか、それは私にはわかりません。でも、『白鳥の湖』をよく知っている人も、全然知らない人も、一度これを見たら絶対に好きになる、と確信しています。





マイヨー率いるモンテカルロ・バレエ団と バレエの聖地、モンテカルロ モナコ・ダンス・フォーラム&ニジンスキー賞で世界の熱い視線を集める 振付家 ジャン=クリストフ・マイヨーの手腕

 現代の舞台芸術としてバレエをどう脱皮させていくのか、その問いに具体的に応えることが現代振付家に求められている。バンジャマン・ミルピエを新芸術監督に迎えたパリ・オペラ座をはじめ世界の名門バレエ団では、これまでバレエとは相いれないと思われていた振付作品をもレパートリーに取り入れて、コンテンポラリー・ダンスの創造的エネルギーを吸収しようと強い意欲を見せている。それはバレエ界に新風を吹き込む有効な選択である一方で、バレエ芸術の根幹を揺るがす危険をも孕んでいると言えるだろう。
 そんななかで、ダンス・クラシックの基本を尊重しながら独自の美意識に基づいて斬新な作品を創りつづけるジャン=クリストフ・マイヨーの仕事は、バレエという舞台芸術の魅力を改めて認識させるとして評価が高まっている。マイヨーの創作バレエは音楽と対話する抽象バレエから古典の独創的な読み直しまで多岐にわたるが、常に心がけるのが総合芸術としてのバレエである。画家を父に持ち、絵画を愛するマイヨーには「美しくなければバレエではない」という信念がある。昨年、ボリショイ・バレエが全幕バレエの創作をマイヨーに委ねたことも頷けるところである。
 バレエ・リュスの精神に共感し、現代芸術として時代と響きあうバレエを求めるマイヨーが創作に打ち込む傍ら、モナコ公国の支援の下に2000年から意欲的に取り組んでいるのが2年毎に開催されるモナコ・ダンス・フォーラムの活動である。多目的なホールを抱える巨大なグリマルディ・フォーラムを拠点に、バレエという枠組みを超えて舞踊の可能性を広い視野から探究する場の創設を目指している。新しい舞踊作品の紹介のみならず、照明技術を駆使した実験性の高いインスタレーションや現代音楽のイベントなども企画され、プログラムにはコンテンポラリー・ダンスやヒップホップの作品などダンスの最前線を伝える舞台が登場する。フォーラムを彩るシンボリックな存在がバレエ・リュスにちなむニジンスキー賞で、ダンサーではウラジーミル・マラーホフやシルヴィ・ギエムが受賞しているほか、2002年には当時、新進気鋭だったシディ・ラルビ・シェルカウイが振付の新人賞を受賞、以来モンテカルロ・バレエ団との関係も深く、2004年、2006年にはバレエ団のために新作を振付けている。
 バレエ・リュス所縁のこの地で開催されるフォーラムらしく、2009年末から2010年にはバレエ・リュス百年のイベントを一年がかりで立ち上げ、ベジャール版、ピナ・バウシュ版を筆頭にした『春の祭典』の競演やバレエ・リュス作品の「変奏」と考えられる革新的なダンス作品が集結した。モンテカルロ歌劇場の地中海を望む庭園でマイヨー版の『ダフニスとクロエ』の初演が夏の宵を彩り、舞踊の発展を祝いマース・カニンガム・カンパニーの公演に特別なオマージュが捧げられた。
 若いダンサー達を輩出するモナコ・プリンセス・グレース・アカデミーも統合され、マイヨーの強力なリーダーシップの下でモンテカルロ・バレエ団はいまバレエの最前線を更新し続けている。マイヨー版の『LAC~白鳥の湖~』がその新鮮な息吹を伝えてくれることだろう。


かつてバレエ・リュスが本拠とした
伝統と歴史が息づく街


 20世紀初頭、革新的なバレエ作品を次々と発表し、世界に衝撃をもたらしたバレエ・リュスは、地中海の美しい街、モンテカルロを本拠地とし、ここで数々の作品を生み出した。ウェーバーの音楽で知られる『薔薇の精』(1911)はこの地で初演されている。
 街の歴史的建造物の一つ、モンテカルロ歌劇場は、バレエ・リュスが数々の作品を上演した場所。規模は小さいけれど、バレエの殿堂、パリ・オペラ座ガルニエ宮を手がけたシャルル・ガルニエの設計らしい壮麗な美しさを湛え、バレエと縁の深いモナコの歴史を伝えている。
 そして1985年。その伝統を受け継ぐ新たなカンパニーとして、ハノーファー公妃の意向のもとで誕生したのが、モンテカルロ・バレエ団だ。


数多くのスターを輩出!
バレエ学校は世界でも人気の有名校

 バレエ・ダンサーにとってモナコといえば、20世紀を代表する名教師、マリカ・ベゾブラゾヴァと、彼女が校長を務めたプリンセス・グレース・クラシック・ダンス・アカデミーをはずしては語れない。かのルドルフ・ヌレエフも教えを受けていたというベゾブラゾヴァ。その学校の卒業生には、モーリス・ベジャール・バレエ団のジル・ロマンやシュツットガルト・バレエ団のスー・ジン・カン、フリーデマン・フォーゲルらの名前が連なり、プロを目指す世界の若手ダンサーたちが憧れる学校の一つとなっていた。
 そのベゾブラゾヴァが亡くなった翌年、2011年には、モンテカルロ・バレエ団、モナコ・ダンス・フォーラムとモナコ・プリンセス・グレース・アカデミーは統合され、そのトップに立つマイヨーによる新体制がスタート。昨年のローザンヌ国際バレエコンクールに入賞し話題となった加藤三希央はこの学校の出身で、現在モンテカルロ・バレエ団で活躍中!


多くのことを学んだ街──モナコ
「モンテカルロ・バレエ団日本公演をとても楽しみにしています!」

東京バレエ団プリンシパル 上野水香

 ローザンヌ国際バレエコンクールに入賞後、モナコのプリンセス・グレース・クラシック・ダンス・ アカデミーに2年間留学、多くのことを学びました。モナコはまさに地中海の観光地で、とても美しい街です。のんびりとした雰囲気の中で、毎日朝からバレエに専念できたのは本当に嬉しかった。
 バレエ学校の校舎は赤煉瓦の素敵な建物、規模はこじんまりとしたものでしたが、世界各地から生徒が集まっていました。同級生の多くは卒業後、それぞれが各地でダンサーとして活躍、1学年下にはシュツットガルト・バレエ団プリンシパルのフリーデマン・フォーゲルもいました。
 街には、小さいけれどとても美しい歌劇場があり、私も学校公演やオペラの舞踊シーンでその舞台に立ちました。それはもう素晴らしい体験でしたね。モンテカルロ・バレエ団の公演を観る機会もあり、大いに刺激を受けたもの。2000年にグリマルディ・フォーラムができてから、バレエ団の活動はより活発になっていると聞きます。モナコへの親しみもありますし、マイヨーさんの作品はとても興味深いので、この日本公演をとても楽しみにしています!


芸術監督/振付家ジャン=クリストフ・マイヨーのプレトーク開催!
~評論家、三浦雅士氏を聞き手に迎えて

 モンテカルロ・バレエ団の芸術監督にして『LAC~白鳥の湖~』の振付家であるジャン=クリストフ・マイヨーのプレトークを、評論家の三浦雅士氏を聞き手に迎えて行います。古典バレエを現代作品として蘇らせ、世界的評価を得ているマイヨーの創作の核心に迫るトークを、舞台の前にお楽しみください。

日時:2月27日(金)18:15〜18:45
   2月28日(土)17:45〜18:15
※2/27、2/28夜公演のチケットをお持ちの方が、それぞれの公演前にお聞きになれます。各30分間。



ジャン=クリストフ・マイヨー振付
モナコ公国 モンテカルロ・バレエ団 2015年日本公演
「LAC〜白鳥の湖〜」

会場:東京文化会館

【公演日】
2015年
2月27日(金)7:00p.m.
2月28日(土)2:00p.m. / 6:30p.m
3月1日 (日)2:00p.m.

【入場料(税込み)】
S=¥16,000 A=¥14,000 B=¥12,000 C=¥8,000 D=¥6,000 E=¥5,000
エコノミー券=¥4,000 学生券=¥2,000

*エコノミー券はイープラスのみで、学生券はNBS WEBチケットのみ。
★ペア割引[S,A,B券]あり

※配役はモンテカルロ・バレエ団の方針の方針により、公演当日に発表いたします。
※音楽はすべて特別録音による音源を使用します。

2/27(金)、2/28(土)夜の公演にマイヨーによるプレトークを予定。

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