ウィーン・シリーズ ウィーン・フォルクスオーパー 2016年日本公演 “シルヴァ・ヴァレスクは深く大きな愛に生きた人。彼女の真の美しさを、日本の皆さまに届けたい” アンドレア・ロストInterview

Photo:Barbara Pálffy/Volksoper-Wien

『チャルダーシュの女王』より

 フォルクスオーパー日本公演の『チャルダーシュの女王』にアンドレア・ロスト登場の発表は、オペラ・ファンにとって嬉しい“驚き”だったでしょう。ロストといえば、『椿姫』のヴィオレッタや『リゴレット』のジルダなどで、世界の歌劇場で活躍するプリマドンナなのですから! もっとも、ハンガリー出身のロストは、これまでにもリサイタルやコンサートでオペレッタのナンバーを歌って、故国が誇るオペレッタへの愛着を表してきました。ファンにとっては、待望のオペレッタ全曲出演となります。  2015年12月、フォルクスオーパーへのデビューとなる『チャルダーシュの女王』初日を前に、ウィーンでお話をうかがいました。

――『チャルダーシュの女王』のシルヴァ役は、これまでに歌われたことはありますか?

ロスト:いえ、そもそもオペレッタの全曲で舞台に立つのは、今回が初めてです。『チャルダーシュの女王』はハンガリーでは国民的な人気作品ですから、ハンガリー出身の私としては、シルヴァを歌うのはとても嬉しいことです。

――『チャルダーシュの女王』の魅力とは?

ロスト:まず、ここに描かれているのが、第一次大戦が始まったころの物語だということを、常に頭に置いておかなければなりません。歌の歌詞に“今日、生きていることを感じなければ、明日はもう生きていないかもしれない”というのがありますが、この当時を映す真実の言葉なのです。舞台は賑やかで楽しい雰囲気ですが、当時の社会情況と照らしてみると、そこに潜むメランコリーやドラマティックさが盛り込まれていることがわかります。

――ロストさんといえば、ヴィオレッタやジルダの印象が強いのですが…‥。

Photo:Barbara Pálffy/Volksoper-Wien

『チャルダーシュの女王』より

ロスト:たくさん歌ってきましたからね(笑)。でも、私はヴィオレッタとシルヴァには似ているところがあると思っています。シルヴァは、素晴らしい歌姫として劇場に人生を捧げています。でも、愛するエドウィンと結婚できるなら、そのすべてを捨ててもよいと考えているのです。シルヴァにとってはエドウィンとの愛が唯一望むものなのです。

――でも、実際にはエドウィンが、“離婚した貴族の夫人なら、僕と結婚するのは簡単だ”と言うのを聞いて、“歌姫に戻ります!”と言うんですよね。

ロスト:そう。それもエドウィンの人生を壊さないため。すべてをわかって身を引くのです。ヴィオレッタはアルフレードの父親から請われ、愛するが故にアルフレードの前から去る、シルヴァは結婚の誓約書を破り捨てることで、彼を自由にしてあげたわけです。

――あの場面、シルヴァはプライドから怒りを爆発させたのだと思っていました。

ロスト:もちろんプライドということはあります。でも、やはりエドウィンの人生を壊したくないということが強いのだと…‥、これは私の解釈ですけれどね。

――ヴィオレッタやジルダのような不幸な役と、シルヴァのようにハッピーエンドを迎える役、どちらを演じるのがお好きですか?

ロスト:とても興味深い質問です。まず、どの時点をもって不幸というのか、のとらえ方が関わってきますから。たとえば、私はヴィオレッタは幸せな女性だと思っています。彼女はただ一人の愛する人を見つけ、とても深く愛する感情をもつことができた。現実では、それほど強い愛を知ることなく80歳までの一生を過ごすという女性の方が多いのではないでしょうか。

Photo:Barbara Pálffy/Volksoper-Wien

『チャルダーシュの女王』より

――別れたり死ぬことが不幸なのではなく、本当に愛する人と巡り合えたことを幸せと考えるわけですね。

ロスト:そうです。その感情を、その気持ちを知ることができたことを、です。私は、娘や息子を見ていても感じるのですが、みんな、完全に恋に落ちることを恐れていますよね。すべてを投げ出さなければならないような状況になることを恐れて、感情を入れ込めない…‥。ジルダは愛する人のために自分の命を捧げたわけです。素敵だと思います。
 私はこういう感情を知ることは、とても大切なことだと思っているのです。誰かをとても熱烈に愛するという感情は、多くのことを学ばせてくれるものですから。人生で節約してはいけないものの一つです(笑)。

 アンドレア・ロストが考えるシルヴァの本質――それは、深く一途な愛と強い心をもつ女性。彼女の思いが発揮される舞台が楽しみです。

フォルクスオーパー交響楽団シルヴェスター&ニューイヤー・コンサートから>
フォルクスオーパーを支えるオーケストラの魅力

唇は黙っていても

 唇は黙っていても、ヴァイオリンが囁く。
 わっ、本当だ、ヴァイオリンが囁いているぞ!とゾクゾクすることがある。いつも決まって起こるわけではない。でも大晦日の夜から元旦の朝にかけての『メリー・ウィドウ』では起こった。
 恒例になっているサントリーホールの、フォルクスオーパー交響楽団・シルヴェスターコンサートだ。驚いたのはハンナとダニロがあの二重唱を歌い出すずっと前、『メリー・ウィドウ』が始まってすぐだったからだ。
 まだハンナは登場しない。ダニロも。ポンテヴェドロ公使館に集まった人々が、前に出てくる。コンサート形式なので、オーケストラの前に居並んで、にぎやかに歌う。とてもにぎやかに歌うから、後ろにいるオーケストラの響きは、ほとんど聴こえなくなる。その時だった。耳を澄ませば聴こえてくる管弦楽が甘く囁いているのに気づいたのは。
 公園の木々の奥にある舞踏会場から流れてくるような、外套を預けている時に隣の広間から聴こえてくるような響きだ。その響きは伴奏ではなく誘惑、というよりやっぱり囁きと呼ぶのがふさわしい。
 「唇は黙っていても」の二重唱は、惜しいことに前置きなしで、歌から入ってしまったから、囁きだけを存分に味わうわけにはいかなかったけれど、アンネッテ・ダッシュとダニエル・シュムッツハルトのこまやかな歌にまといつく管弦楽の艶っぽさは愉しめた。
 フォルクスオーパーのオーケストラは、ベートーヴェンの交響曲や、もちろんブルックナーやマーラーの交響曲で、世界の一流に並ぶオーケストラではない。演説が上手な大交響楽団ではないのだ。なるほど楽器はウィーン・フィルに準じているし、団員は国家公務員だ。でも、完璧な技術と演奏能力を誇るオーケストラとして賛美されているわけではない。フォルクスオーパーのオーケストラへの賛美は、小声で、ひそやかになされることになる。抜きんでているのが、囁きや、もっと遠慮なく言えば、音楽の愛撫なのだから。
 サントリーホールの「ニューイヤー・コンサート2016」では、フォルクスオーパーのオーケストラがいくつものワルツやギャロップを演奏した。本領発揮というところ。でも、やっぱりオペレッタの歌に引きつけられてしまう。レハールの『ジュディッタ』からの「私の唇は熱いキスをする」など、ダッシュの歌も艶やかだったけれど、管弦楽も愛撫をくり返した。
 フォルクスオーパーのオーケストラは唇以上に、囁く。

【写真提供:サントリーホール】

左:ペーター・ガラウン氏 (フォルクスオーパー交響楽団代表、トロンボーン奏者)
中:ヘルムート・ヘードル氏 (フォルクスオーパー交響楽団の次期団長、クラリネット奏者)
右:エーリッヒ・ザウフナウアー氏 (フォルクスオーパー交響楽団の現団長、ホルン奏者)

オーケストラ・メンバーに聞く
オペレッタの“楽しさ”を生む秘訣

 「日本のお客さんが事前に準備をして、きちんと楽しもうとして来てくれることは、ウィーンとはちがうところです」と、フォルクスオーパー交響楽団の団長エーリッヒ・ザウフナウアー氏。彼の後任として団長就任が決まっているヘルムート・ヘードル氏も大きくうなずきます。
 オペレッタの魅力は、何よりも楽しいこと。歌だけではなくセリフや演技、踊りが盛り込まれているオペレッタでは、オーケストラはそのタイミングを捉えることも重要です。芝居の役者が“泣かせるよりも笑わせる方が難しい”というのは、オペレッタも同様とのこと。そのために必要なのは「音楽もセリフも、よく聴くこと」。ヘードル氏は『こうもり』のプロンプターができるくらいセリフを覚えているそうです。また、「ロベルト・マイヤー監督は自身が俳優ということもあって、歌手たちにも基本をまもってしゃべることを厳格に要求しています。そうしたことが、お客さんの笑いを誘う重要なことだと知っているからなんです。日本の皆さん、はじめは字幕を見ながら笑って、次は舞台を観て笑って…‥。私たちの公演は何度も観なくちゃね!(笑)」とは、オーケストラの代表ペーター・ガラウン氏。

2016年日本公演 ウィーン・フォルクスオーパー
『チャルダーシュの女王』

【公演日】

2016年
5月14日(土)3:00p.m.
5月15日(日)3:00p.m.
5月16日(月)3:00p.m.

会場:東京文化会館

指揮:ルドルフ・ビーブル
演出:ロベルト・ヘルツル

【予定される主な配役】

シルヴァ:アンドレア・ロスト、ウルズラ・プフィッツナー
エドウィン:カルステン・ズュース、ズザボル・ブリックナー
ボニ:マルコ・ディ・サピア、ミヒャエル・ハヴリチェク
シュタージ:ベアーテ・リッター、マーラ・マシュタリール
フェリ:アクセル・ヘッリク、クルト・シュライプマイヤー ほか

*表記の演目および出演者は、2015年8月現在の予定です。今後、出演団体の事情により変更になる場合があります。

【入場料[税込]】

S=¥39,000 A=¥34,000 B=¥29,000 C=¥23,000
D=¥18,000 E=¥14,000 F=¥10,000

2016年日本公演 ウィーン・フォルクスオーパー
『こうもり』

【公演日】

2016年
5月19日(木)6:30p.m.
5月20日(金)6:30p.m.
5月21日(土)2:00p.m.
5月22日(日)2:00p.m.

会場:東京文化会館

指揮:アルフレート・エシュヴェ、ゲーリット・プリースニッツ
演出:ハインツ・ツェドニク

【予定される主な配役】

アイゼンシュタイン:イェルク・シュナイダー、カルステン・ズュース
ロザリンデ:メルバ・ラモス、エリーザベト・フレヒル
オルロフスキー:アンゲリカ・キルヒシュラーガー、マルティナ・ミケリック
アルフレート:ライナー・トロスト、ヴィンセント・シルマッハー
フロッシュ:ロベルト・マイヤー ほか

*表記の演目および出演者は、2015年8月現在の予定です。今後、出演団体の事情により変更になる場合があります。

【入場料[税込]】

S=¥39,000 A=¥34,000 B=¥29,000 C=¥23,000
D=¥18,000 E=¥14,000 F=¥10,000

2016年日本公演 ウィーン・フォルクスオーパー
『メリー・ウィドウ』

【公演日】

2016年
5月26日(木)6:30p.m.
5月27日(金)6:30p.m.
5月28日(土)2:00p.m.
5月29日(日)2:00p.m.

会場:東京文化会館

指揮:アルフレート・エシュヴェ
演出:アルトゥーロ・マレッリ

【予定される主な配役】

ハンナ:ウルズラ・プフィッツナー、カロリーヌ・メルツァー
ダニロ:マティアス・ハウスマン、マルコ・ディ・サピア
ヴァランシェンヌ:ユリア・コッチー、マーラ・マシュタリール
カミーユ・ド・ロション:ヴィンセント・シルマッハー、メルツァード・モンタゼーリ
ニェーグシュ:ロベルト・マイヤー ほか

*表記の演目および出演者は、2015年8月現在の予定です。今後、出演団体の事情により変更になる場合があります。

【入場料[税込]】

S=¥39,000 A=¥34,000 B=¥29,000 C=¥23,000
D=¥18,000 E=¥14,000 F=¥10,000