ウィーン・シリーズ ウィーン国立歌劇場 2016年日本公演 ニーナ・シュテンメが“現代最高のブリュンヒルデ”と呼ばれる理由

ウィーン国立歌劇場日本公演『ワルキューレ』でブリュンヒルデを歌うニーナ・シュテンメは、 現代最高のワーグナー・ソプラノと認められています。 ウィーンはもとより、ミラノ・スカラ座、メトロポリタン歌劇場、英国ロイヤル・オペラなど、世界の主要オペラハウスにおける活躍ぶりが証明しています。 しかし、彼女は自分が歩んできたキャリアを冷静に見つめているようです。 歌手としての姿勢やブリュンヒルデ役についてなど、過去のインタビュー記事から、興味深い内容をご紹介します。

 シュテンメ自身が「ここまでたどり着くのに10年かかりました」と語っているのは2013年春、ヒューストン・グランドオペラでの『トリスタンとイゾルデ』のイゾルデで大成功をおさめた直後のインタビュー。彼女の言葉はこう続きます。
 「苦労のあとが見えないようにすることこそ私の目標です。難しい箇所にどう取り組むかを学び、今では幸運にもほとんどそれらを容易に感じられるようになりました。それでも、ピットの向こうにいる聴衆に何を伝えるべきか、悩みは尽きません。確信が持てないし、不安です。だから、改善の余地はないか、常に自問しています。事実、改善できるのです。公演ごとに、たとえ些細なことでも改善していくしかないのです」
 歌手として、これ以上真摯な姿勢があるでしょうか!?
 スウェーデン出身のシュテンメがデビューしたのは1989年、イタリアのコルトーナで、歌ったのはなんとケルビーノでした。以来、2000年ごろまでは主にリリックな役柄を歌っていたとは、現在ではちょっと想像が難しいかもしれません。ともあれ、転機はメトロポリタン歌劇場での『さまよえるオランダ人』のゼンタでした。
 「ゼンタが私が歌える限界だと思っていました。でも、上演期間中も、その後も、声が変化し続けたのです」
 3年後の2003年、シュテンメはグラインドボーン音楽祭でイゾルデを歌い、大成功をおさめます。批評家に“恍惚とした”と言わしめたこのときですが、シュテンメは冷静に分析します。グラインドボーンは、比較的劇場が小さく、オーケストラが優秀だったことが幸いしたのだと。弱点を隠そうとして過剰に大きな音で演奏するようなオーケストラだったら、それと戦わなければならなくなるが、そうではなかった、と振り返ります。そしてさらに、「イゾルデ役はリリック・ドラマティック・ソプラノでも歌えます。当時の私がまさにそうでした。当時の私の声は、ドラマティックの典型として必要な声のボリュームがありませんでした。その後数年で、進化したのです」
 自己評価はともかくとして、ニーナ・シュテンメの名はこの公演を機に大きな注目を集めることとなりました。
 「声が進化した」とは彼女自身の言葉ですが、実際には、自分の声が新しい領域のレパートリーにも適応できるように変化していくことに驚きも感じていたようです。
 「どんなレパートリーでも、歌うときはいつもハッピーでなければ、というのが私のモットーです。リリックのレパートリーは歌っていて本当に楽しめました。でも、録音を聴いてみて、あることに気づいたのです。“リリックな箇所よりもドラマティックな箇所の方が、易々と歌っているみたいに聴こえる”と。周囲の多くからは、そっち(ドラマティック)にいってはだめ、声を潰すことになるとも言われました。でも、今も私の声は大丈夫です。ほとんどの場合、私は直感に従います。ですからこのときもこう考えました。“やってみなさい、ニーナ。そうすれば次に何が起こるかわかるから。何かを学べるから”と」

 そうしてシュテンメは2008年、ドラマティック・ソプラノの試金石ともいえるブリュンヒルデを初めて歌います。ブリュンヒルデは《ニーベルングの指環》の4部作のうち、3作に登場します。それぞれ異なったキャラクターとして描かれているので、3つの究極の試金石といえるかもしれません。シュテンメが考えるブリュンヒルデとは……
 「『ワルキューレ』のブリュンヒルデは長靴下のピッピのようだと思います。最初のホヨトホーという掛け声は幸せに満ちています。女神の設定ですから、悩みとは無縁で暮らしてきたのでしょう。『ワルキューレ』のブリュンヒルデは無邪気さと劇的な激しさを兼ね備えていなければなりません。『ジークフリート』では父、ヴォータンに追いやられた挙句、もはや女神ですらなく、ジークフリートに出会って愛の真意を知るひとりの女性として描かれます。3人のブリュンヒルデのなかで最もリリカルで、実際、『ジークフリート』の終末は『トリスタン』の愛の二重唱に通じるパッションが感じられます。そして、『神々の黄昏』では、ジークフリートの裏切りを知ったブリュンヒルデが復讐の執行人と化します。彼女の怒りは“醜悪”です。歌唱はクレージーで、高音、長く延ばす音が多く、劇的で強引です。でも自己犠牲の場面では雛菊のように清々しく聞こえます」
 実はシュテンメは、ワーグナー生誕200年に当たる2013年にバイロイト音楽祭で新演出される《ニーベルングの指環》のブリュンヒルデ役を打診された際、スケジュールの関係で断らざるを得なかったのだそうです。5年も前だったにもかかわらず、彼女にはすでに他の予定が決まっていました。シュテンメは、ブリュンヒルデを歌う機会を増やし過ぎないように気をつけながら、役に取り組んできたのです。
 自身の“進化”とともに、じっくりと、大切に向き合ってきたことが、現代最高といわれるニーナ・シュテンメのブリュンヒルデの魅力であることを知り、ますます公演への期待が膨らみます。どうぞお聴き逃しなく!

ウィーン国立歌劇場特設サイトでは、動画をご覧いただけます。

NBSでは、公式サイトのほか、WEBぶらあぼANNEXの特設サイトで、ウィーン国立歌劇場日本公演に関するさまざまな情報をご紹介しています。文字だけでなく、動画が見られるのはデジタル情報ならではの魅力。どうぞお見逃しなく!

2016年日本公演 ウィーン国立歌劇場
『ナクソス島のアリアドネ』

【公演日】

2016年
10月25日(火) 7:00p.m.
10月28日(金) 3:00p.m.
10月30日(日) 3:00p.m.

会場:東京文化会館

作曲:R.シュトラウス
演出:スヴェン=エリック・ベヒトルフ
指揮:マレク・ヤノフスキ

【入場料[税込]】

S=¥63,000 A=¥58,000 B=¥53,000 C=¥48,000 D=¥32,000
エコノミー券=¥13,000 学生券=¥8,000

2016年日本公演 ウィーン国立歌劇場
『ワルキューレ』

【公演日】

2016年
11月 6日(日) 3:00p.m.
11月 9日(水) 3:00p.m.
11月12日(土) 3:00p.m.

会場:東京文化会館

作曲:R.ワーグナー
演出:スヴェン=エリック・ベヒトルフ
指揮:アダム・フィッシャー

【入場料[税込]】

S=¥67,000 A=¥61,000 B=¥54,000 C=¥49,000 D=¥33,000
エコノミー券=¥13,000 学生券=¥8,000

2016年日本公演 ウィーン国立歌劇場
『フィガロの結婚』

【公演日】

2016年
11月10日(木) 5:00p.m.
11月13日(日) 3:00p.m.
11月15日(火) 3:00p.m.

会場:神奈川県民ホール

作曲:W.A.モーツァルト
演出:ジャン=ピエール・ポネル
指揮:リッカルド・ムーティ

【入場料[税込]】

S=¥65,000 A=¥60,000 B=¥54,000 C=¥49,000 D=¥33,000
エコノミー券=¥13,000 学生券=¥8,000