バイエルン国立歌劇場 2017年日本公演 こうして生まれた伝説の名演出『魔笛』

演出家アウグスト・エヴァーディングと美術家のユルゲン・ローゼによって生み出された『魔笛』は、初演から39年が経つ今もなお、伝説の名演出と呼ばれています。ミュンヘンの人々にも愛され続け、上演が重ねられているだけに、長い年月のなかでの舞台装置や衣裳の劣化は否めません。そこで2004年にはこのプロダクションの原点を保持する作業が行われました。その際、中心的役割を担ったのがユルゲン・ローゼです。インタビューの中から、エヴァーディングとともに、このプロダクションを生み出したときの興味深いエピソードをご紹介していきましょう。

 エヴァーディングもローゼも、『魔笛』に関して湧き上がる多くのイメージやアイデアを、できることならすべて盛り込みたいと思っていたそうです。
「私たちは例えば、夜の女王には豪華なサロンを想定していました。つまり、ザラストロの領域との対比として、非常に女性的な世界を示そうと考えていたのです。ザラストロの世界は、岩場に建てられた厳格な建築をイメージしていました。3人の侍女の外見はどうするか、鳥のような格好をさせて大蛇と同様の寓話的な存在にするのか、あるいは戦士のように見せるべきかなど、さまざまな案を考えました」
細部までの話し合いを記録するために、ローゼはスケッチを書いたのだと語ります。実は当時、二人のこの話し合いの時間を確保するために、ローゼは自宅にエヴァーディングを“監禁”しなければならなかったそうです。
「この時間はすばらしいものでした。エヴァーディングからはアイデアがとめどなくあふれ出て、内容的なつながりや流れ、そしてこの作品の音楽に関する彼の考えは本当に刺激的でした。イメージを具体化したいという気持ちが私を強く駆り立てました」
もっとも、その後実際に稽古が始まると、エヴァーディングはさらに新しく思いついたアイデアを持ち込むことになったとか。エヴァーディングが強く主張したことの一つに、この作品は継ぎ目なく上演されなければならない、ということがあったそうです。
「舞台機構を駆使したとしても、荷台が出入りしたり、数メートルの壁が開閉したりするのに、常に数秒の時間がかかります。そういったとき、場面の進行の途中に舞台転換を組み込むために、演出家が舞台上での動きを考え出す必要が生じることもありました。その点で言えば、エヴァーディングは達人でした」

Photo:Wilfried Hösl

  エヴァーディングがもう一つ重視したのは、登場人物の人間性を浮き彫りにすることでした。たとえば僧侶は18世紀の人間として描かれています。
「これは当時、画期的なことでした。それまでは僧侶は大抵、エジプト風の装飾を身につけ、ファラオの時代の兜を被り、祭儀的な衣裳を着けていたのです。でも、私たちにとって大事だったのは、彼らを人間として表現すること。モーツァルトの時代にいたかもしれないような人間です。私たちの後、ジャン=ピエール・ポネルがザルツブルクの『魔笛』で、同じように僧侶を18世紀の衣裳で登場させたのを覚えています」

Photo:Wilfried Hösl

*本文はバイエルン国立歌劇場プログラムより編纂

 〈パ・パ・パの二重唱〉が歌われる最後の場面で、たくさんの小さなパパゲーノやパパゲーナが登場するのは、この『魔笛』のトレードマークと呼ばれることもあるようですが、ローゼはエヴァーディングの、アイデアをこう分析しています。
「子どもたちを登場させるアイデアを、エヴァーディングは彼の手がけたすべての『魔笛』演出に盛り込みました。それにはまったく個人的な理由もあったのだと思います。エヴァーディングは結婚したのがかなり遅く、それから4人の息子の父親になったのです。このフィナーレは、彼のごく私的な幸福感をも証明するもので、もちろん観客にもいつも喜ばれました。エヴァーディングのような演劇人なら、当然それも計算に入れていたはずです」
 たしかに、このパパゲーノとパパゲーナと子どもたちの場面は、温かい幸福感に満ちています。それが演出家の“策略”だと知ったとしても、自然に微笑んでしまう…‥、これこそが伝説の名演出の威力と言えるでしょう。

 

2017年日本公演
バイエルン国立歌劇場

『タンホイザー』(全3幕)

【公演日】

2017年
9月21日(木)3:00p.m.
9月25日(月)3:00p.m.
9月28日(木)3:00p.m.

会場:NHKホール

指揮:キリル・ペトレンコ
演出:ロメオ・カステルッチ

【予定される主な配役】

領主ヘルマン:ゲオルク・ゼッペンフェルト
タンホイザー:クラウス・フロリアン・フォークト
ウォルフラム:マティアス・ゲルネ
エリーザベト:アンネッテ・ダッシュ
ヴェーヌス:エレーナ・パンクラトヴァ

【入場料[税込]】

S=¥65,000 A=¥59,000 B=¥54,000 C=¥42,000 D=¥32,000 E=¥25,000 売切 F=¥17,000 売切
エコノミー券=¥15,000 売切 学生券=¥8,000

『魔笛』(全2幕)

【公演日】

2017年
9月23日(土・祝)3:00p.m.
9月24日(日)3:00p.m.
9月27日(水)6:00p.m.
9月29日(金)3:00p.m.

会場:東京文化会館

指揮:アッシャー・フィッシュ
演出:アウグスト・エヴァーディング

【予定される主な配役】

ザラストロ:マッティ・サルミネン
タミーノ:ダニエル・ベーレ
夜の女王:ブレンダ・ラエ
パミーナ:ハンナ=エリザベス・ミュラー
パパゲーノ:ミヒャエル・ナジ

【入場料[税込]】

S=¥56,000 A=¥49,000 B=¥42,000 C=¥35,000 D=¥26,000 E=¥20,000 売切 F=¥16,000 売切
エコノミー券=¥15,000 売切 学生券=¥8,000

* E、F 券は指定プレイガイド(イープラス、チケットぴあ、ローソンチケット )のみで発売。
*エコノミー券はイープラスのみで3月19日(日)より、学生券はNBS WEBチケットのみで8月18日(金)より受付。

<2演目セット券 [S, A, B席]>
WEBチケット先行発売[座席選択]
2月27日(月)21:00~3月6日(月)18:00
WEB&電話一斉発売
3月18日(土)10:00より
NBSチケットセンター:03-3791-8888/東京文化会館チケットサービス:03-5685-0650



<単独券 [S 〜 D席]> WEBチケット先行発売 [座席選択]
3月25日(土)~3月31日(金) 一斉発売
4月15日(土)

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