――――今回は急な出演依頼をお受けいただき、ありがとうございました。
『ペトルーシュカ』は(<ルグリと輝ける仲間たち>で踊った)『さすらう若者の歌』と同じようにマスターピースであり、踊る機会をもてたことを嬉しく思います。ちょうどスケジュールが空いていて、本当によかったと思っています。
――――『ペトルーシュカ』にはどんな想い出をお持ちですか?
ペトルーシュカは祭礼的な役柄で、素晴らしい表現でこの役を演じた人がたくさんいました。その中でもヌレエフの見事な表現に感動したのを覚えています。最初に踊ることになったとき、真似するというのではなく、ヌレエフのペトルーシュカにインスピレーションを得て、演じていこうと思いました。
『ペトルーシュカ』を演じるにあたってはギレーヌ・テスマー (元パリ・オペラ座エトワール)に指導してもらいました。女性であるギレーヌが指導するのを不思議に思われるかもしれませんが、彼女は『ペトルーシュカ』でバレリーナを踊った経験がありますし、感性が豊かでこの作品をしっかり理解しており、長い間私のコーチをしてくださっていたので、この作品を指導していただくのに適任だったのです。
――――『ペトルーシュカ』はイレールさんにとってどのような作品なのでしょうか?
私が最近最も注意しているのは、自分に適している役、踊りたい役を厳選するということです。その中でも『ペトルーシュカ』は心から踊りたいと思う作品なのです。
ペトルーシュカは成熟していないと踊れない役だと考えています。円熟すればするほど、より深く、より正確に、この役の本質を表現できると思うのです。
ペトルーシュカは現実の世界なのか、あるいは非現実の世界に存在している人形なのか、人形でないのかがはっきりしていません。だからこそ、さまざまな感情、より幅広い感情を表現しなければならず、人間的な成熟が必要ですし、そういう意味でとても惹かれます。また、日常の生活では経験することのできないような世界での出来ごとを描いている作品なので、演じ甲斐があります。こういう役を演じることにより、アーティストは深いところまで到達できると思うのです。
――――円熟が必要だとおっしゃるペトルーシュカ。今回も素晴らしいペトルーシュカを見せていただけそうですね。
前回踊ったのは5〜6年前なのですが、大好きなこの役を前回より一歩深めて演じられたらと思います。『ジゼル』のように『ペトルーシュカ』は研究し続ける役ですので、私にとってこの作品を踊れるのは本当に幸せなことなのです。
――――最後に今回の『ペトルーシュカ』への意気込みをお話いただけますでしょうか。
舞台はチームワークが一番です。まずは私が東京バレエ団に溶け込みたいと思います。楽しみにしているのはバレリーナやムーア人とのやりとり、そして技術スタッフとの共同作業です。人は必ず他人から学ぶことがあると思っています。そして共有できるものが必ずあると信じています。いろんなカンパニーで仕事をすることは、ひとつの冒険ですが、そういう意味で今回も素晴らしい経験となるでしょう。
作品のテーマも素晴らしいですし、(<ニジンスキー・プロ>の)プログラムの構成も素晴らしい。私にとっても、とても豊かな経験になると確信しています。この作品がもつ素晴らしい価値に見合うようなペトルーシュカが演じたいですし、最高のものをお見せできたらと思っています。そして何より、私が演じることによって、お客さまと感動を分かちあえたらいいですね。