「この鳥の形をしたピアス、フリーデマンからの贈り物なの。彼はシュツットガルトにお店を持っていて、私に“何かプレゼントしてあげるよ”って言ってくれたから、これを選んだのよ。フォーゲルという彼の苗字は“鳥”という意味だから、ピッタリでしょ(笑)」
 ふだんはベルリンとシュツットガルトという離れたカンパニーで活躍しているのに、ポリーナ・セミオノワとフリーデマン・フォーゲルの息の合い方は、こんな思いがけないところにも表れている。
「私にとって理想的なパートナーというのは、私が何か新しいことや挑戦的なやってみたいことを受け入れてくれ、一緒に何かを探すことが出来るパートナーだと思う。こちらが何か提案しても全く相手にしてくれない人もいるけれども、フリーデマンはとてもオープンで、ごく自然に、お互い一緒に努力していこうという気持になれるのよ」
 2人の相性の良さは、今夏の世界バレエフェスティバルの舞台でも明らかだったが、ついに全幕物の「白鳥の湖」で日本のバレエファンの前で踊るというのは一つの事件だ。
「バレエ・ダンサーにとって、白鳥オデットと黒鳥オディールを踊り分けられるくらいエキサイティングなことはないわ。実は「白鳥の湖」というバレエ作品が生まれた時から、このオデットとオディールを2人のバレリーナが踊るというバージョンがあったのは知っているし、現在もそっちのバージョンで上演しているバレエ団もある。でも、一人のバレリーナが違う役を踊るというところに、この作品の醍醐味があるのよ。バレリーナがいかに自分の演技力を発揮できるか。私の場合、オディールを踊っている時は、内面こそ人間の女性だけど、姿が黒鳥であることでもわかるように、どこか動物的で、狡猾で、悪魔ロットバルトに操られてるんじゃなく、自分で進んで相手をだますことをいとわない、という風に解釈してるわ。でもそれと同時に、もちろん美しくて、誰もが惹きつけられるくらい魅力的で、素敵な女性でもあって」
 では、ポリーナ版オデットはどうなのだろう?
「オデットは本当にきれいで、純粋で、神聖で、何者も侵し難い・・・、でもそれ故に、何者にも守られていない、繊細で、弱くて、優しい善なる魂があるの。あまりにも美しいピュアな心を持つために、彼女は自分を救ってくれるであろう愛、つまりジークフリートにしろ誰にしろ、苦しい思いをさせたくないとすら思うのよ。それくらいなら自己犠牲の道を選ぶという・・・」
 軸足が全然ブレないオディールの32回転フェッテを含め、あまりにも軽やかに踊るため、全然苦労などなさそうに見えるが、ポリーナは「とんでもない」と真顔で否定する。
「何回踊っても「白鳥の湖」は難しいバレエ作品の一つで、踊る時は実は緊張してるのよ。技術的にも体力的にも、最後まで踊り切れるかしら?って。でもそんなことを考え続けても仕方がないから、自分の役柄がどういう女性なのか、頭を切り替えて踊っているの。特にオディールみたいな人間というか行動は、自分自身の人生の中ではありえないシチュエーションだから、楽しまなくちゃ(笑)。舞台の上だからこそ、ああいう悪魔のような女性を演じることが出きるんですものね」
 「白鳥の湖」以外で好きな作品、役として「マノン」や「カルメン」などドラマチック&ファム・ファタールの名前が続々あがっていったのも、舞台の上だからこその変身が楽しめるからだろうか。
「オディールの32回転フェッテは、既に100年前から披露されていた。でも当時は、ただただ32回、回るだけが目標で見てくれも何もなかったという(笑)。その点、現在はどんどん技術も複雑になってきて、一つ一つの形にもこだわりがあったり、1回1回の回転でもいろんなコンビネーションを組み合わせたリ、本当に工夫されている。それに、100年前はバレリーナも背が低く、もっとガッチリしていたから、より回りやすかったんじゃないかしら。背が高くて身体も細いと、バランスをとるのが大変なのよ(笑)」