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美女と野獣 コッペリア イントロダクション カンパニー 公演概要
 
 
“幸福のエッセンス”が詰まった、英国正統派のバレエ 	  〜ビントリーと英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団
 
 バーミンガム・ロイヤル・バレエ団(BRB)は、その名の示すとおりイギリス第二の都市バーミンガムにあって、王室から「ロイヤル」の名称を許された由緒あるバレエ団である。けれどもバレエ・ファンの中には、「サドラーズ・ウェルズ」、あるいはもっと短く「サドラーズ」と呼んだ方がピンとくる、という人も多いかもしれない。
 それもそのはず、じつはBRBの歴史を振り返ってみれば、ロンドン北部のサドラーズ・ウェルズ劇場を本拠としていた時代が大部分を占めているのである。1946年、現在の英国ロイヤル・バレエ団(RB)が、コヴェント・ガーデンのロイヤル・オペラハウスに移転することになった。そのとき主宰者のニネット・ド・ヴァロワは、それまで常駐していたサドラーズ・ウェルズ劇場に若手主体の別カンパニーを作って残すことにした。それがBRBの起源である。
  いわば、役割を分担して働く姉と妹。姉の方は大所帯ゆえ主に白亜の殿堂に腰を据え、古典名作や英国のバレエ・スタイルを築いたフレデリック・アシュトン、その後に出た情熱的なケネス・マクミランの全幕バレエを中心に上演する。その周囲で妹は、小さな編成で地方をまめに回ってバレエの魅力をあまねく伝え、若手のダンサーや振付家たちに活躍の場を与える。吉田都や先ごろ引退したダーシー・バッセル、現在の芸術監督であるデヴィッド・ビントリーがロイヤル・バレエ学校を卒業して直ちに入団したのも、ジョン・クランコやマクミランが振付家として活動を始めたのも、すべてサドラーズ・ウェルズ時代のBRBだった。
  いわばスターと巨匠のゆりかごとしてこの国のバレエの発展の一翼を担ってきた彼らが大きな転機を迎えたのが、1990年のバーミンガムへの移転だった。ロイヤル・オペラハウスの組織からも離れ、これからは完全独立のバレエ団である。1977年から芸術監督を務めていたピーター・ライトがまず試みたのは、街に「バレエ通い」を定着させることだった。そもそも世界的に有名な交響楽団(バーミンガム市響)を擁し、文化的に成熟した土地柄である。古典名作のリアリティ豊かな改訂で知られるライトの『白鳥の湖』や『ジゼル』、『コッペリア』が人々の心を捉えるまでに、さほど時間はかからなかった。
  1995年、ビントリーへの芸術監督交代によってBRBはさらに躍進する。就任直後の『カルミナ・ブラーナ』等が当たりをとり、保守的な観客の多いバレエの世界では驚くべきことに、「新作でお客を呼べる」カンパニーとなったのである。そのビントリーが2003年に発表したのが、今回の来日でも上演予定の『美女と野獣』。上演のたび完売だったライト版『くるみ割り人形』に代わるクリスマス時期の新作として作られたこの2幕バレエには、丁寧な物語描写と可憐なヒロイン、そして突如割って入っては場をさらう笑いの要素など、アシュトン以来育まれてきた英国の物語バレエの伝統の“幸福のエッセンス”がたっぷりとつまっている。「『くるみ』の客席には常連客だけでなく、家族連れも多い。彼らは振付だけを吟味しに来るわけではないから、美しい衣装や夢のような装置、効果的な音楽などが一体になった<バレエ>を提供するのが大事」というビントリーの狙いは的中した。
  そして『美女と野獣』は、楽しいだけのバレエではない。彼が参照したのはディズニー映画ではなく、あのジャン・コクトーも夢中になり映画まで作ってしまった、ボーモン夫人による原作に漂う恐ろしさ。すなわち大人の観客にとっては、これはヨーロッパ芸術の懐ともいえる森の暗がりと神秘、それに象徴される心理的な闇につながる作品でもあるということである。
  “幸福のエッセンス”の濃さにかけては、ライト版『コッペリア』も一歩も引けをとらない。通常は変わり者の老人と描かれ、最後は金銭欲を満たされて上機嫌で退場するコッペリウス博士が、真にコッペリアを愛するがゆえに奇跡のハッピーエンドを迎える。詳しくは見てのお楽しみにとどめておくが、バレエという芸術を知りぬいたライトならではのウルトラCの演出は、何度見ても心が洗われる思いがする。 英国のバレエは、頂点に立つ二つのロイヤル・バレエの名称もあって優雅で威厳に満ちたイメージが強いが、その一方で市井の一バレエ教室からスタートした庶民的な顔も併せ持っている。観客との距離の近い人肌の作品を提供する点にかけては、BRBは華麗な姉をも凌いでいるのである。
長野由紀(バレエ研究)
 
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“幸福のエッセンス”が詰まった、英国正統派のバレエ 	  〜ビントリーと英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団
 
 英国ハダーズフィールド生まれ。1976年に彼はサドラーズ・ウェルズ・ロイヤル・バレエ団(現在の英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団)に入団し、並外れたキャラクター・ダンサーとして頭角を現す。16歳で初の振付作品「兵士の物語」を創作し、2年後にはサドラーズ・ウェルズのカンパニーのために初めてプロとして「アウトサイダー」を振付けた。
 サドラーズ・ウェルズ・ロイヤル・バレエ団の常任振付家に任命された後、1986年から1993年まで英国ロイヤル・バレエ団の常任振付家を務め、1995年秋からピーター・ライトの後を引き継ぎ、英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団の芸術監督に就任。ドラマティックなものから、2作品の3幕バレエ『雪の女王』『シラノ』『シルヴィア』、そして純粋なダンス作品『コンソート・レッスン』『ギャランタリーズ』など巾広く、独自の作風や味わいを出すためにテーマを持たせている。
 ビントリーの作品はヨーロッパやアメリカのバレエ団で数多く上演されているが、一方で自分のバレエ団がどう提示されるべきか明確なアイデアを持ち、多用なタイプのデザイナーと仕事をしている。好みの音楽も同様に幅広く、ムソグルスキーからガーシュイン、ストラヴィンスキーからペンギン・カフェ・オーケストラまでと、その才能を刺激する音はどこまでも探求している。彼の代表作『カルミナ・ブラーナ』も、ビントリーならではの曲への着目あっての芸術性と高い完成度と言えるだろう。
 現代風な作品が特長とも思われがちだが、『美女と野獣』のようなファンタジー溢れる作品での成功もあり、まさに現在最も飛躍している振付家として世界中から注目されている。
 
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