平成20年度文化芸術振興費補助金(芸術創造活動重点支援事業)〈東京バレエ団創立45周年記念公演 III〉「白鳥の湖」全4幕

オデット/オディール:上野水香

いま、上野水香は波にのっている。08年春にユース・アメリカ・グランプリ2008ガラ公演に招かれニューヨーク・デビューを飾り好評を博し、08年秋から09年冬にかけてはウラジーミル・マラーホフが芸術監督を務めるベルリン国立バレエにも招待される。“日本人離れした”と形容される抜群のプロポーションや愛らしい顔立ち、高度なテクニックによって新時代のバレリーナとして注目されてきた上野であるが、近年はベジャール作品などにも挑んで表現の幅を広げ、名実ともに日本を代表するプリマとしての地位を確立しつつある。08年秋には「ジゼル」のタイトルロールに挑み新境地を切り開く。第1幕では恋に芽生えた村娘を弾むように踊り、第2幕では精霊役を強靭な技術としなやかな肢体を駆使しつつ透明感ある演技を披露した。ことに足音の全くしないポワント・ワークは驚異的。期待を上回る見事な出来ばえに惜しみない賞賛が相次いだ。「白鳥の湖」のオデット/オディールは過去に何度も踊りこんでいる。「ジゼル」においても相性抜群だった大ベテラン高岸直樹とともにより深まった、それでいて新たな発見をもたらす演技をみせてくれることだろう。


ジークフリート王子:高岸直樹

この人に衰えというものはないのか――。高岸直樹は長年にわたり東京バレエ団の男性舞踊手のトップに君臨、世界の檜舞台でも喝采を浴びてきた。「ドン・キホーテ」「ラ・シルフィード」など古典全幕の主役から「ザ・カブキ」の由良之助、「ボレロ」の“メロディ”といったベジャール作品、「時節の色」の“男”ほかノイマイヤー作品まで幅広いレパートリーを踊りこなして他の追随を許さない。08年夏の「ドン・キホーテ」バジル役ではラテン気質の明るく豪快な踊りで客席を魅了した。回転技に切れがあり、跳躍ものびやか。全身に生気が満ち満ちていた。いついかなるときでも豪放、観るものにぐっと迫り来るような圧倒的な存在感が魅力といえよう。とはいえ王子役を踊る際にはプリマをしっかり献身的に支える懐の深さを発揮する。上野水香とは08年夏の「ジゼル」でも息のあったところをみせた。ふたりがパートナーを組み始めてから4年以上経つけれども、いまをときめく上野と組むことによって高岸も一層若返り、輝きを増した感さえ受ける。「白鳥の湖」においてもすでに共演済み。今回より緊密、深まったパートナーシップがみられるに違いない。


オデット:高木綾

清楚で上品なたたずまいと長身の美しいプロポーション――高木綾は資質に恵まれ飛躍をみせるバレリーナである。ロシアの名門ワガノワ・バレエ・アカデミーに留学、学校公演「くるみ割り人形」では主役のマーシャ役を踊ったという華麗な経歴の持ち主だ。01年、東京バレエ団入団後も着実に才能を開花させている。初の大役は05年「眠れる森の美女」リラの精。オーロラ姫の上野水香、デジレ王子のマチュー・ガニオと共演し、恩寵を司る妖精らしい包容力ある演技によって注目される。楚々として品のある雰囲気はベジャール版「くるみ割り人形」母役でも顕著だった。ベジャールが亡き母への追慕の念から創作した作品の鍵となる重要な役柄。高木はすべてを包みこむような慈愛に満ちた母親像を好演し抜擢に応えた。いっぽうプロポーションのよさを活かし現代作品でも活躍。「カルメン」の運命(牛)やベジャール振付「M」のオレンジではシャープで引き締まった踊りを披露している。今回は「白鳥の湖」オデット役に抜擢された。気品ある風情が魅力であり、スタイルも抜群の高木にはぴったりといえるのではないだろうか。清新な演技に期待したい。


オディール:田中結子

近年、東京バレエ団の若手女性ソリストのなかでも抜擢が目につくのが田中結子だ。硬質で現代的感覚にあふれるシャープな踊りを持ち味としている。02年に入団後、早くからソリスト役を踊っており、06年秋、ロマンティック・バレエの大作「ドナウの娘」日本初演時に脇を締める重要な役どころドナウの女王に大抜擢された。その後も「ドン・キホーテ」ドリアードの女王、「真夏の夜の夢」ハーミアなどを踊って活躍をみせる。ことに強い印象を残したのが08年の〈マラーホフの贈り物〉で踊った「バレエ・インペリアル」のソリスト役だ。主演はポリーナ・セミオノワ&ウラジーミル・マラーホフ。大スターたちに劣らない存在感を漂わせ、のびのびとした演技をみせていた。08年秋には「ジゼル」のミルタ役にも初挑戦。強靭なテクニックとウィリたちのリーダーとしての威厳が求められる難役ながら堂々とした演技をみせ期待に応えた。今回は「白鳥の湖」のオディール役に挑む。これまではバレエブラン(白のバレエ)での印象が強いけれども堅実な技量と舞台度胸の強さは折り紙つきといえる。観るものを強力に惹きつける魅惑の演技を楽しみにしたい。


ジークフリート王子:木村和夫

精確なテクニック、豊かな音楽性、そして役を生きぬける表現力――バレエダンサーにとって理想ともいえる資質・能力をバランスよく、かつ高い水準で備えているのが木村和夫。ベジャール版「火の鳥」やブラスカ振付「タムタム」ではそのしなやかな肉体の躍動と音楽が妙なる共振をみせる。近年は踊りが一層表情豊かになって充実期を迎えている。「ドナウの娘」の主役ルドルフ役では、恋人を主人に奪われ怒りに狂った際の鬼気迫る演技や細かな脚さばきを中心とした超絶技巧満載の踊りを涼しげな顔で躍りこなす抜群のテクニシャンぶりが大好評。とはいえ木村といえば海外からのゲストと共演することが多い「ジゼル」のヒラリオンを思い浮かべる方も多いかもしれない。おもしろいことに木村がヒラリオンを演じると、本来の粗野で荒くれ者という性格のなかにもどことなく気位の高さがにじみ出る。天性ともいえる気品の高さの持ち主であり、王子役こそ得意とするところなのかもしれない。「白鳥の湖」主演は2年半ぶり。ベテランらしくサポートもお手のものだ。高木綾、田中結子を優しく支え、新星たちの主役デビューをきっと成功に導くことだろう。

キャスト紹介:高橋森彦(舞踊評論家)


3月14日(土)6:00p.m.

後藤晴雄 松下裕次 高村順子 佐伯知香 長瀬直義
ロットバルト
後藤晴雄
道化
松下裕次
パ・ド・トロワ
高村順子
パ・ド・トロワ
佐伯知香
パ・ド・トロワ
長瀬直義

3月15日(日)3:00p.m.

柄本武尊 小笠原亮 乾友子 吉川留衣 松下裕次
ロットバルト
柄本武尊
道化
小笠原亮
パ・ド・トロワ
乾友子
パ・ド・トロワ
吉川留衣
パ・ド・トロワ
松下裕次


指揮:井田勝大
演奏:東京ユニバーサル・フィルハーモニー管弦楽団

※上記の配役は2008年10月28日現在の予定です。出演者の怪我等の理由により変更になる場合があります。正式な配役は公演当日に発表いたします。

Photo:Kiyonori Hasegawa



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