マニュエル・ルグリの新しき世界

イントロダクション

これまでとは違う、さらに大きな感動をあなたに。貴公子ルグリの新たな出発!

 2009年春、パリ・オペラ座バレエ団史上に輝く功績を残したマニュエル・ルグリは、大観衆の盛大なブラヴォに包まれ、惜しまれながらエトワールの座を去りました。日本では11年6回にわたってパリ・オペラ座の仲間たちと共に上演した〈ルグリと輝ける仲間たち〉を終了。自らの舞踊人生にひと区切りをつけた今、彼が新たな挑戦として情熱を注いでいるのが本公演です。  ハイライトはなんといっても、シルヴィ・ギエムとの15年ぶりの共演! 1980年代半ばに19歳と21歳で相次いでエトワールに昇格したギエムとルグリは、輝くばかりの美と驚異的なまでに完璧なテクニックを備えた黄金ペアとして随一の人気を誇りました。ギエムのバレエ団移籍に伴ってペアが解消され、芸術の方向性も離れていった二人の、パートナー同士としての再会は、ルグリ自身も「奇跡」と語るほどの事件といえます! また引退直前までパリ・オペラ座でのベスト・パートナーだったオレリー・デュポン、ともに同時代を築いたアニエス・ルテステュという2大エトワール。世界バレエフェスティバルの同僚でもあるフリーデマン・フォーゲルをはじめ、世界に視野を広げた新しい仲間たち。いっぽう、彼が現在もっとも注目する振付家、パトリック・ド・バナと東京バレエ団とのまったく新たなクリエーションも、10月から開始されました!   偉大なるルグリの過去と現在が、新たな様相を見せながら未来へと繋がっていく、前人未踏の舞台にどうぞご期待ください!

マニュエル・ルグリ インタビュー

「いうなれば、マニュエル・ルグリの過去と現在。自分の大好きなレパートリー、好きなのに踊る機会のなかった作品、そして新作を、バランスよくお見せします」。来年2月の公演を、ルグリはこうPRする。2種類のプログラムのうち、ひとつは東京バレエ団に客演しての、パトリック・ド・バナのトリプル・ビル。ド・バナはベジャールやデュアトのカンパニーで活躍したダンサーで、この夏の世界バレエフェスティバルのガラでルグリが踊った『ザ・ピクチャー・オブ…』の振付家でもある。そしてもうひとつは、現在世界で活躍するスターたちを招いてのグループ公演。若き日のルグリと輝かしい名舞台の数々を共にしたシルヴィ・ギエムの出演が、大きな話題である。

ド・バナの作品を知ったきっかけは?

ルグリ(以下、M・L) 彼とはもう20年来の知り合いなのですが、振付家として注目したのは、彼が昨年2月にオペラ座でアニエス・ルテステュのために作った『マリー・アントワネット』という作品を見た時。非常に素晴らしくて、僕のためにも何か作ってもらえないかと思ったのです。

その『ザ・ピクチャー・オブ…』はたいへん音楽的で、あなたのしなやかさ、表現の深さによく合った作品ですね。人生の転機に差しかかったスターのために作られたソロという点では、ウラジーミル・マラーホフの『ヴォジャージュ』にも一脈通じるものを感じました。

M・L 自分が至った成熟、キャリアの分岐点にあって悲しく思う自分と新しい世界に向けて旅立つ気分でいる自分。そうした今の僕と一体化した作品をパトリックは意図していたので、そう言っていただけるとうれしいですね。音楽性は僕にとってもっとも重要なのですが、その点彼は、自分だけの世界を持っていて、また引出しの数がとても多い。しかもその幅広さを、求められる状況に応じて巧みに活かせるんです。僕はいろいろな振付家と仕事をしてきましたが、これが自分のスタイルだという決定的なものをまだ手にしていないと思うことがあります。けれどもパトリックと仕事をしていると、自分はもっと遠くまで行けると勇気づけられ、自分のまだ見ていない世界を見せてもらえる気がします。ド・バナ・プログラムでは、僕はこのソロと、新作の『ホワイト・シャドウ』に出演の予定です。こちらは映画音楽で知られるアルマン・アマーの曲を用いた50分の大作。もうひとつ、フランスでの僕のグループ公演のために委託した25分ほどの作品で、リズミカルな民族音楽を用いた『クリアチュア』を上演します。これは、パトリックの南欧文化へのオマージュともいえる作品です。

9年ほど前、あなたにギエムとの将来の共演の可能性を尋ねたときには「ありえない」との答えでしたよね。今回再び彼女と踊ることになったのはなぜですか?

M・L 僕たちはパートナーを組んだ当初から、非常に大きな成功を収めました。けれども彼女の古典バレエの解釈は現代的で、やがて僕とは全く方向性が違ってしまった。僕たちのダンスは、非常に遠いところに離れていったんです。けれどもダンサーのキャリアは長く、いろいろなことが起こります。たとえばローラン・イレールとは互いにライバル意識も強く、以前なら一緒に踊ることなど考えられなかった。それがやがて二人の立場も変わり、深い話もするようになって、『さすらう若者の歌』のような機会も持てた。シルヴィについても同じです。彼女が5月に僕のオペラ座引退公演を観にきてくれた時に、いろいろなことを思い出し、考えました。彼女とは日本で一緒に踊り始めたようなものだから、長い別離を経てまた出会うにはこの公演がぴったりなのではないか、と。僕が電話で話を切り出したとき、シルヴィは驚いてすらいなかった。それが人生において自然なことのように、ウィと幸せそうに答えてくれました。演目については、もしかするとクラシックのパ・ド・ドゥ、あるいは彼女のレパートリーで僕がまだ踊っていないものに挑戦するかもしれません。日本ではこれまでも常に、新しいものをと心がけてきました。今回もまた扇を広げるように、これまでにないものをお目にかけたいと思っています。

(NBSニュース Vol.273より転載)

長野由紀 (舞踊評論家) ※このインタビューは8月、世界バレエフェスティバル時に行ったものです。

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