20世紀最高の振付家、その大きさ、豊かさを再発見!
ベジャール・ガラ
「中国の不思議な役人」 「火の鳥」/「ギリシャの踊り」 「ドン・ジョヴァンニ」
Maurice Béjart Gala
※音楽は特別録音によるテープを使用します
東京バレエ団 THE TOKYO BALLET
総監督:佐々木忠次 芸術監督:飯田宗孝
〈モーリス・ベジャール没後5年 記念シリーズ1〉
助成:文化芸術振興費補助金(トップレベルの舞台芸術創造事業)
作品紹介
「ぼくは大きくなったらママと結婚するんだ!」
巨匠ベジャールが母への思慕とバレエへの憧憬を語った感動の舞台!
20世紀後半のバレエに革命的変革をもたらし、現代最高の巨匠と謳われたモーリス・ベジャールが逝去して5年。その舞台が与えた驚愕と興奮、深い感動を次代へと伝えていくために、公益財団法人日本舞台芸術振興会では〈モーリス・ベジャール没後5年記念シリーズ〉と銘打ち、3つの公演をお贈りしていきます。
その第一弾は、東京バレエ団によるベジャール振付の「くるみ割り人形」。7歳にして母の死と直面したベジャール少年が、母への思慕とバレエへの憧憬という二つの強烈な感情に押されて、振付家への道へと分け入っていった、巨匠誕生の秘話を解き明かす作品です。
クリスマスの夜、ツリーの下で寂しそうに膝をかかえる少年ビム。1年前に亡くした母を慕って哀しみにくれる彼のそばに、突然、大きなプレゼントを抱えた母が現れます。彼のふくらむ思いは、やがて母を象徴する巨大なヴィーナス像を出現させ、そこから現れた母とビムは美しいパ・ド・ドゥを踊るのです…。
チャイコフスキーが子供時代への郷愁を込めて作曲した「くるみ割り人形」は、三大バレエ音楽の中でも最高傑作と言われています。このベジャール版「くるみ割り人形」は、ベジャール自身の幼年時代を題材としながらも、音楽に込められた繊細な感情を引き出し、音楽と一体となって見る者の心を震わせます。
本公演では、ビム少年の父や師を暗示する“M...”役を実力派ベテランの木村和夫が演じるほか、新キャストも加えて、巨匠を偲ぶにふさわしい珠玉の舞台をお届けします!
STORY
ACT-1
クリスマスの夜、男の子がひとり、ちっぽけなモミの木のそばにすわっている。その枝には、去年のクリスマスからずっと残されたままの飾りが、寂しげに揺れている。母親②は亡くなったのだ。男の子ビム①は、父にもらったくるみでひとり寂しく遊んでいる。部屋には父(M...③)と飼い猫のフェリックス④がいる。と、夢なのか魔法なのか、男の子のそばに白いスーツに身を包んだ母親が現れて、モミの木の下に小さなプレゼントを置こうとする。
背景の幕が落とされ、夢のような夜が始まる。
まず、赤と白のレオタードのダンサーたちがあらわれ、クラス・レッスンが始まる。ビムのバレエとの出会いである。マントを羽織ったM...(ここではマリウス・プティパ)がダンサーたちの間をゆっくりした足取りでみて回っている。ビムもダンサーたちについて一生懸命に踊る。
猫のフェリックスが呪文を唱えると赤いカーテンから、かわいらしい緑のマントをつけた女の子が現れる。ビムの妹である。小さい頃ふたりはよくこんな扮装をして、ビムの大好きな「ファウスト」のお芝居をして遊んだのだ。懐かしい家族団欒の雰囲気に誘われたのか、ふたたび母が、今度はマリンルックで現れる。待ちかねていたかのように母の元に、ビム、妹、フェリックスが集まってきて、M...(ここでは父)は母の手の甲にキスをする。
母や妹が去ってしまい、夢は次の場面へ。M...が杖でリズムをとると、それに合わせて規律正しく行進してきたのは、ボーイスカウトの少年たち。ビムも嬉々として一緒に踊る。やがて疲れ果ててみんなが寝袋に入って眠りについてしまうと、森の奥からまばゆく光り輝く天使⑤がふたり、そうっと現れる。やがてふたりの妖精も加わって、少年たちを見守るように、暖かく包み込むように舞い踊る。朝がきてビムと少年たちは目覚め、ふたたび元気に動き出す。すると、彼らの目の前に現れたのは…
大きくそびえる聖母像だった。ビムは像に母の面影を見出し、一生懸命によじ登ろうとするが、なかなかうまく登れない。ついには足を滑らし、落ちてしまう。M...はそんなビムを突き飛ばし、荒荒しく猛るように踊り出す。
やがて、像がくるりと回転し、美しいほこらが現われ、そこにはビムの捜し求めていた母の姿が。そしてビムと母の愛情溢れるパ・ド・ドゥ。
ビムと母のふたりがほこらに消え、光の天使と妖精たちが踊り出す。と、それに誘われるかのように雪が降りだし、そりに乗ってサンタクロースならぬ、マジック・キューピーが登場。アコーディオンの暖かなメロディーにのせ、華やかなマジックを披露して、やっと母とふたたび出会えたビムを祝福するのだった。
ACT-2
やっと出会えた大切な時間に、互いをいとおしむように踊るビムと母。が、M...に促されビムは、精一杯母を喜ばせようと、趣向を凝らした踊りの数々を母に見せるのだった。闘牛で盛り上がる「スペインの踊り」、自転車に乗った「中国の踊り」、不思議なマジックで始まる「アラビアの踊り」、ダイナミックで華やかな「ロシアの踊り」、そして猫のフェリックスもタキシードの男たちを引き連れて愉快な踊りを披露するのだった。
スペイン、中国、アラビア、ロシア…何かが足りない…そうだ、フランスだ!そして小粋なシャンソンで「パリの踊り」が始まる。ビムも母も一緒にワルツを踊り出す。
楽しく踊るうちに、ビムはバレエの世界に惹き込まれていく。M...(マリウス・プティパがお手本を見せるかのように踊りだし、ビムの目は釘づけになる。
白いドレスを身にまとっている母も、「花のワルツ」にのせて若い娘のように軽やかに踊り出す。タキシードの男たちも加わって、ビムも母も嬉しそうだ。
そしてM...(マリウス・プティパ)の紹介で、グラン・パ・ド・ドゥが踊られる。
場面は冒頭のシーンに戻る。ビムはクリスマス・ツリーのかたわらで眠り込んでしまっていたのだ。夢から覚めると目の前にプレゼントが。包みを開けるとそれは、愛しい母の面影を宿した像なのだった。
①ビム:ベジャールの子供の頃のあだ名。つまり、ビムは子供時代のベジャール自身であり、ワイノーネン版のクララにあたる。
②母:ベジャールが7歳のときに他界。「私から見て、母は世界で一番素晴らしく装った女性であった。」――「モーリス・ベジャール自伝 他者の人生の中での一瞬……」(劇書房刊)より
③M…:ワイノーネン版でクララを夢の世界へと導くドロッセルマイヤーにあたる、ビムの成長を見守り将来へと導く役。ベジャールの父、師として尊敬する振付家マリウス・プティパ、子供の頃から夢中になっている『ファウスト』のメフィストほかの複合像である。
④猫のフェリックス:ビムの飼い猫。愛猫家のベジャールが新たに設定した、愛すべきキャラクター。
⑤光の天使:子ども時代にベジャールが好んで観に行ったショーに登場していたキャラクターに想を得ている。当時から創作のヒントとなっていたようである。
CAST
11/15(土) 11/16(日)
ビム 氷室友 岡崎隼也
母 高木綾 渡辺理恵
フェリックス 小笠原亮 梅澤紘貴
M. 木村和夫 木村和夫
妹のクロード 古閑彩都貴 古閑彩都貴
光の天使 柄本弾、森川茉央 柄本弾、森川茉央
妖精 奈良春夏、田中結子 西村真由美、矢島まい
マジック・キューピー 飯田宗孝 飯田宗孝
グラン・パ・ド・ドゥ 上野水香、後藤晴雄 上野水香、後藤晴雄