そこには胸がしめつけられるような感動がある。

振付家ジョン・クランコによって創設されたドラマティック・バレエの名門、シュツットガルト・バレエ団が3年ぶり10度目の来日を果たします。

言葉のないダンスという表現で長編文学のあらすじを流暢に語り、登場人物の性格や心理を鮮やかに描いてみせる天才、ジョン・クランコ。彼とシュツットガルト・バレエ団は“シュツットガルトの奇跡”と称えられる伝説的な躍進劇をもって、世界の名門バレエ団の仲間入りを果たしました。クランコの死後もその創造の遺志はバレエ団の伝統となって受け継がれ、バレエ界で独自の地位を築いています。

今回上演される「ロミオとジュリエット」と「オネーギン」は、いずれも人類の財産ともいえる著名な文学をもとにクランコが創作した傑作。日本でもこれまでたびたび全幕、あるいは抜粋が上演され、バレエ・ファンからは絶対的な感動を約束してくれる作品として信頼を寄せられています。また、クランコの小品から現代作品までをとりまぜて上演する一夜限りのガラ〈シュツットガルトの奇跡〉も、カンパニーのいまを見せる貴重な機会となるはずです。

シュツットガルト・バレエ団はクランコによる創設時から現在まで、世界中から優秀なダンサーを集める多国籍の集団ですが、彼らのいずれもが「演じること」を強く志向することで一致しています。美しく役者魂あふれるアーティストたちによるドラマで、心がふるえるような感動を体験してください!

Photo:Kiyonori Hasegawa

ドラマティック・バレエの伝統を生み出した、20世紀屈指の天才振付家

Photo:Hannes Kilia

1961年、英国ロイヤル・バレエ団の若き振付家だったジョン・クランコは、シュツットガルト・バレエ団の芸術監督として招かれました。英国で機智に富んだ多彩な作品が人気を博し、レビューも手掛けて大きな成功を収めていた気鋭振付家クランコは、新天地でオーディションによって広く優秀なダンサーを集め、彼らのために新作を精力的に創造しました。「ロミオとジュリエット」で若い恋人たちの物語をみずみずしく描く一方、「白鳥の湖」では古典に新しい解釈を加えて発表。そしてプーシキンの文学をもとにした傑作「オネーギン」を生み出したあと、今度はシェイクスピアの喜劇「じゃじゃ馬馴らし」を大胆なイマジネーションと雄弁な語彙で創作。登場人物の性格や心理、彼らの会話までをもみずみずしく表現するクランコの舞台は、大きな共感と感動をもたらしました。

1969年、シュツットガルト・バレエ団は当時ダンスの中心地と認められていたニューヨークで、初のツアーを3週間にわたって行い、その歴史的な成功は“シュツットガルトの奇跡”と称えられました。

また、つねに自由で創造的な気風に満ちていたシュツットガルトでは、若手振付家の育成のも設けられ、ジョン・ノイマイヤー、イリ・キリアン、ウィリアム・フォーサイスと、次世代の大物振付家たちが育っていきました。クランコの薫陶を受けた彼らは、やがて20世紀のバレエの新たな潮流を生み出していくことになるのです。

1973年、2度目のニューヨーク公演から帰還の途中、クランコは45歳という若さで亡くなり、その早過ぎる死は世界中に大きな衝撃を与えました。しかし残された者たちの結束は固く、クランコが築いた伝統は信念をもって受け継がれることになったのです。