「大きくなったらぼくはママと結婚するんだ!」
母にささげる愛と、バレエへの憧れに満ちた感動作。

クリスマスの夜、ツリーの下で寂しそうに膝をかかえる少年ビム。1年前に亡くした母を慕って哀しみにくれる彼のそばに、突然、大きなプレゼントを抱えた母が現れます。彼のふくらむ思いは、やがて母を象徴する巨大なヴィーナス像を出現させ、そこから現れた母とビムは美しいパ・ド・ドゥを踊ります。この少年こそ、振付家モーリス・ベジャール自身にほかなりません。

バレエに革命的変革をもたらし、現代最高の巨匠と謳われたモーリス・ベジャールが逝って10年。その舞台が与えた驚きと興奮、深い感動を次代へと伝えていく〈モーリス・ベジャール没後10年シリーズ〉第3弾は、東京バレエ団によるベジャール版「くるみ割り人形」。7歳にして母の死と直面したベジャール少年が、母への思慕とバレエへの憧憬という二つの強烈な感情に突き動かされて、振付家への道へと分け入っていった、巨匠誕生の秘話を解き明かす感動作です。

チャイコフスキーが子供時代への郷愁を込めて作曲した「くるみ割り人形」は、三大バレエ音楽の中でも最高傑作と言われています。本作は、ベジャール自身の思い出と重ねながらも、音楽に込められた繊細な感情を引き出し、子どもから大人まで、見る者の心を震わせていきます。

5年ぶりの上演となる今回、多くの新キャストを加えて、巨匠を偲ぶにふさわしい珠玉のステージをお届けします!

Photo:Kiyonori Hasegawa

Photo:Marcel imsand

モーリス・ベジャール
(1927-2007)

哲学者の父のもとマルセイユに生まれる。パリで自らのカンパニーを立ち上げ、振付家として活動を始めた。1959年ブリュッセルのモネ王立劇場で『春の祭典』の衝撃的な成功をきっかけに、翌年「20世紀バレエ団」を設立。87年に本拠地をスイスのローザンヌに移して名称を現在のものに改めた。死の直前まで精力的に取り組んだ創作の数は300をゆうに超す。