英国ロイヤル・オペラ 2010年日本公演
■ページ構成
ストーリー・聴きどころ
登場人物
ヴィオレッタ・ヴァレリー(ソプラノ):パリの高級娼婦。若く、人気があって贅沢な暮らしをしているが、病に冒されている。 アフレレード・ジェルモン(テノール):パリに遊学しているプロヴァンス出身の青年。 ジョルジュ・ジェルモン(バリトン):アルフレードの父親。保守的な考えを持つ紳士。 フローラ・ベルヴォア(メゾ・ソプラノ):ヴィオレッタの友人で、高級娼婦。 アンニーナ(ソプラノ):ヴィオレッタに仕える女中。 ドゥフォール男爵(バリトン):ヴィオレッタのパトロン。 ガストン子爵(テノール):アルフレードの友人
STORY
第1幕
高級娼婦が出入りする19世紀末のパリの<賭博場> ヴィオレッタ・ヴァレリーにより華やかなパーティが開かれている。ドゥフォール男爵は友人たちともに訪れている。招待客の一人であるガストン子爵は、ヴィオレッタに熱烈な思いを抱いている青年アルフレード・ジェルモンを紹介し、ヴィオレッタが先ごろ病気だったとき、アルフレードが毎日彼女の家を訪れ、病状を尋ねていたことを打ちあける。ヴィオレッタは感動し、青年にやさしいまなざしを向ける。アルフレードは、友人たちの励ましを受け、この美しき人のために、そして人生の喜びのために乾杯をと皆を促し、歌う(〈乾杯の歌〉)。 客たちが舞踏の間へと移っているとき、ヴィオレッタが突然の発作で咳込む。ただ一人彼女のそばにいたアルフレードは、ヴィオレッタに健康を気づかうようにすすめる(〈全宇宙の鼓動〉)。ヴィオレッタははじめ、わざと無関心を装っているが、実は彼の告白で心は乱れている。ヴィオレッタは、胸につけていた花をアルフレードに渡し、「この花がしおれたときにまたお会いしましょう」と言う。アルフレードは、また明日来てくださいという招きの意味と解釈して喜ぶ。 夜が明け始めるころ、客たちが帰っていき、一人になったヴィオレッタは、アルフレードのひたむきな求愛の言葉を思い起こしている(〈ああ、そはかの人か〉)。ヴィオレッタは、心からの愛をあらわしてくれる人に、生まれて初めて出会ったのだ。うわべだけの楽しみや束の間の喜びに浸ることに慣れてしまった自分は、彼の言葉を真剣に受け止め、生き方を変えるべきだろうかと惑いながらも、彼女は、愚かな幻を追い求めることはしない、と心に決める(〈花から花へ〉)。しかし、そうしながらも、心の奥底では、この愛情は本物だと感じている。
第2幕
第1場 パリ近郊の別荘 アルフレードの愛情はヴィオレッタにパリとそれまでの生活を捨てさせた。二人がここで安らかな生活を送るようになってから数ヶ月が経っている。アルフレードは、この快適で満たされた日々の喜びを歌う(〈燃える心を〉)が、メイドのアンニーナは、ヴィオレッタのいいつけで、二人の暮らしのために宝石や馬などを売りにパリへ行ってきたことを彼に話してしまう。初めて聞かされた家計の真実にアルフレードは自分の身のふがいなさを感じ、まだ足りない金は自分がなんとかしようと、すぐにパリへと発つ。 二人の居場所をつきとめたフローラからのパーティの招待状を手に入ってくるヴィオレッタ。そこに来客が告げられる。アルフレードの父ジェルモンだ。ジェルモンは、ヴィオレッタが自分の息子を誘惑し、自堕落な生活に陥れているものと信じ、激しくヴィオレッタを非難するが、ヴィオレッタから、真実の愛のため、自分の財産をも全部売り払っていると聞いて心を打たれる。しかし、ジェルモンはなおも、ヴィオレッタにアルフレードをあきらめて欲しいと言う。アルフレードの妹の結婚が決まったのだが、もし、兄のスキャンダルが知れれば、破談になってしまう、どうか別れて欲しいと懇願するジェルモン(〈天使のような清らかな娘を〉)。ヴィオレッタははじめ、アルフレードとの愛がどんなに清らかなものか、健康状態のすぐれないいまの自分にとってはアルフレードだけが頼りであることを話すが、最後には、アルフレードと愛する人々のために、自分の幸せを犠牲にすることに同意する。そして、この悲しみは自分一人だけの胸に止めておきたいから、突然にアルフレードのもとを去る本当の理由は彼には告げないと約束する(〈お伝えください、清らかなお嬢様に〉)。 ジェルモンが帰った後、ヴィオレッタがアルフレードに宛てて別れの手紙を書いているところに、アルフレードが帰ってくる。アルフレードは、何か奇妙な空気を感じて訳を尋ねるが、ヴィオレッタはそれに答えず、急いで立ち去る。わけがわからないまま残されたアルフレードのもとに、ヴィオレッタからの手紙が届けられる。そこには昔の社交界と友人たちとの世界に戻ることにした、と書かれていた。あまりのことに茫然とするアルフレードのもとに、ジェルモンがやってくる。ジェルモンは息子に、生まれ故郷のプロヴァンスで過ごした穏やかな日々を思い出させ、もう一度家族の愛に包まれた平和な日々を送ろうと誘う(〈プロヴァンスの海と陸〉)。しかしアルフレードには父の優しい慰めも役に立たない。そのうちアルフレードは机の上にフローラからヴィオレッタに送られたパーティの招待状を見つけ、愛する人への復讐をしようと、ジェルモンの手を払いのけて、パーティの場へと走り去る。ジェルモンも後を追う。
第2場
第1幕と同じ<賭博場>の大広間 仮面舞踏会が開かれている。アルフレードとヴィオレッタが別れた話を人々が伝えあぅているところに、ジプシーに扮した女たちがタンバリンを打ち鳴らしながら歌い踊り(〈ジプシーの歌〉)、続いて闘牛士に扮した男たちも登場する(〈スペインの闘牛士の歌〉)。ヴィオレッタは、かつてのパトロンであるドゥフォール男爵にエスコートされて現れるが、カードゲームに興じているアルフレードの姿を見て動揺する。アルフレードの方は気づかないふりをしながらもドゥフォールをカードに誘う。なにかをほのめかしてドゥフォールを挑発するという破廉恥なやり方でゲームに勝つアルフレード。騒ぎが起こりかけたところでディナーの時間が知らされ、客たちはダイニングへと移って行くが、ヴィオレッタから話があると告げられたアルフレードはすぐに戻ってくる。ヴィオレッタは、男爵の怒りをかわないうちに、すぐに出て行って欲しい、そうでないと身に危険がふりかかるから、と告げるが、アルフレードは、ヴィオレッタも一緒に来るならば出て行くという。二度とアルフレードに会わないと約束したことを口に出してしまいそうなヴィオレッタは、アルフレードの執拗な問い詰めに、本心を偽り、男爵を愛していると言ってしまう。嫉妬と絶望に駆られたアルフレードは、客たちを呼び集め、自分のために彼女に使わせた金を返すと、彼女に金を叩きつける。ヴィオレッタは気を失って倒れ、アルフレードは客たちから顰蹙を買う。そこにやって来たジェルモンは、息子を叱責する。
第3幕
ヴィオレッタの屋敷の中庭 ヴィオレッタの病状はもう治る見込みのない状態である。医者のグランヴィルがやって来て、アンニーナに、もう長くはないと告げる。ヴィオレッタは、ジェルモンから来た手紙を読み返している。そこには、ヴィオレッタが約束を守ってくれたことに感謝していること、ドゥフォール男爵との決闘の後、外国に行ったアルフレードに真実を話したこと、さらにアルフレードが許しを請うためにヴィオレッタに会いに来ることなどが書かれている。読みながら泣き伏すヴィオレッタ。彼女はやつれ果てた姿を鏡に映し、過ぎ去った幸せな日々を思い出しては、胸の張り裂ける思いだ(〈さよなら、過ぎ去った日々よ〉)。 通りを謝肉祭のにぎやかな行列が通り過ぎようというとき、アルフレードが入って来て、ヴィオレッタを固く抱きしめ、ふたたび二人の生活を築こうと夢を語る(〈パリを離れて〉)。至福に包まれたヴィオレッタは、着替えて出かけましょうと言うが、立ち上がろうとして力尽き、ベッドに倒れ込む。ジェルモンがやって来て、ヴィオレッタを娘のように腕にしっかりと抱く。ヴィオレッタは、幸せだったころの肖像画をアルフレードに渡し、私の思い出を大切にして欲しいと頼む。突然ヴィオレッタは、不思議な力で持ち上げられたように感じるが、それもほんの一瞬のこと。アルフレードの腕のなかで息を引き取る。
Photo:Catherine Ashmore