英国ロイヤル・オペラ 2010年日本公演
■ページ構成
ストーリー・聴きどころ
ものがたり
第1幕
場所:北フランスのアミアン。 道楽者のギヨーとその友人ブレティニーは3人の女優を連れて旅をしている。腹ぺこを訴え、食事の催促をする彼らのにぎやかなアンサンブルは準備が整ってようやく静まるが、間もなく駅馬車が到着する時刻。旅行者を見物しようと人々が集まってくる。彼らとともに軍人レスコーもやって来る。修道院へ行くことになっている従妹マノンを迎えに来たのだ。到着した愛らしい少女マノンはレスコーに、修道院への道のりだというのに、見るものすべてが珍しく心を奪われてしまう、と無邪気に歌う(〈わたしはまだ夢見心地で〉)。レスコーが彼女の荷物を取りに行っている間、一人で待つマノンをギヨーが口説きにかかるが、マノンは相手にしない。それでも馬車を用意するから、と食い下がるギヨーだが、レスコーが戻って来るので退散。様子を察したレスコーは、親し気に男と話したりしてはいけないとマノンに忠告(〈しっかり見ておくれ〉)をして立ち去る。 残されたマノンは、美しく着飾った女性たちの姿を目にして、修道院へ入らなければならない自分の身の上とひき比べながら淋しく歌う(〈さぁマノン、夢は捨てるのよ〉)。そこに騎士デ・グリューがやって来る。運命の出会いの場面だ。故郷の父親の顔を思い浮かべるデ・グリューだったが、現実に目の前にしたマノンの美しさはまるで魔法のように彼の心を虜にしてしまった。マノンから修道院行きの身の上を聞いたデ・グリューは、もう黙ってはいられないとばかりに熱烈に愛を訴える。情熱的な愛に落ちた二人は、ギヨーが用意した馬車で逃走する(二重唱〈パリで暮らそう〉)。
*第2幕のマノンの衣裳デザイン(衣裳:シャンタル・トーマス) *第1幕 宿屋の中庭の舞台デザイン(美術:シャンタル・トーマス)
第2幕
場所:パリのアパルトマンの一室。 デ・グリューが父親に宛てて、16歳の誕生日を迎えたマノンとの結婚の許しを乞う手紙を書き、二人はそれを読み上げる((手紙の二重唱))。マノンとデ・グリューはたしかに愛の巣を築いているのだが、デ・グリューは心当たりのない花束に気づき動揺する。マノンに聞いても知らばっくれるばかりだ。この花、実はマノンに横恋慕するブレティニーから贈られたものだった。そこに、二人の軍人がやって来る。レスコーと変装したブレティニーだ。ブレティニーはレスコーを買収し、ある計略を実行しようとやって来たのだった。レスコーが口実をつけてデ・グリューを窓ぎわに連れて行った隙に、ブレティニーはマノンに近寄り、今夜、デ・グリューの父親の命によって息子が強制的に連れ去られる計画があることを耳打ちする。さらに、この計画をデ・グリューに知らせなければ裕福にしてやると。「あなたは女王になるでしょう」というブレティニーの言葉に、マノンの心は大きく揺れる。来訪の目的を果たしたレスコーとブレティニーは、二人の結婚を祝福するふりをしながら立ち去り、デ・グリューは幸せ気分で手紙を出しに出かける。 一人部屋に残ったマノンは、恋人を裏切ることと裕福で享楽的な生活のどちらを選ぶべきか躊躇する。しかし、遂にはデ・グリューとの別れを決断する。デ・グリューへの愛は変わらないのだけれど、自分のような女は側に居ない方が彼のため、別れは突然である方が二人にはよいのだと、マノンは自分自身に言い聞かせるように泣きながら歌う(〈さようなら、小さなテーブルよ〉)。帰って来たデ・グリューはマノンの様子をいぶかりながらも、気を取り直して夢に見た二人の愛の生活を語る(〈夢の歌〉)。やわらかな音楽に満ちた美しい愛の場面は、激しくドアをノックする音で緊張の場面へ。別れを決意したはずのマノンだったが、デ・グリューの胸でドアを開けないようにと懇願する姿は、彼女自身の心の揺れを表わしている。マノンを押し退け、ドアを開けに行ったデ・グリューは連れ去られ、マノンは部屋に残される。
*第2幕のマノンの衣裳デザイン(衣裳:シャンタル・トーマス)
第3幕
第1場
場所:パリの散歩道クール・ラ・レーヌ。 間奏曲につづいて、人々が華やかに祭りを祝う声が聞かれる。レスコーは新しい恋人のために、居合わせた物売りたちに品物を全部買い取ると約束する(〈倹約なんか何になる〉)。人々のざわめきのなかに、美しく着飾ったマノンが登場し、皆の称賛を欲しいままに集める。マノンはもはやパリ中の美人の中でも自他共に認める“女王”としての暮らしを、得意満面にうっとりとそして歌う(マノンのガヴォット〈どこの道を歩いても〉)。有無をいわさぬ華のあるマノンの圧倒的な存在感が示される場面だ。やがてデ・グリューの父親である伯爵がやって来て、旧知の仲であるブレティニーに息子デ・グリューのことを話す。それとなくマノンの耳に聞こえたのは、彼がサン・シュルピスの修道院で神父となっているということ。用事を言いつけてブレティニーを追い払ったマノンは、伯爵にデ・グリューの様子を尋ねる。伯爵の口から、息子はもはや恋人のことは忘れていると聞いたマノンは激しいショックを受ける。伯爵が去った後、ギヨーがマノンの気を引こうとバレエ団を連れて来るが、彼女の心はここにあらず。マノンはデ・グリューの居るサン・シュルピス修道院に向かう。
*第3幕第1場 パリの散歩道クール・ラ・レーヌの舞台デザイン(美術:シャンタル・トーマス)
第2場
場所:サン・シュルピス修道院。 婦人たちがデ・グリュー神父の素晴らしさを讃えている。そこにデ・グリューと父の伯爵が入って来る。伯爵は息子に聖職者として生きるより、良い妻を見つけることを勧めるが、デ・グリューは強く拒絶する。この拒絶は父への反抗心でもあり、彼自身が悩み葛藤していることをも表わしている。伯爵が帰った後、デ・グリューはどんなに努力しても、マノンへの想いを消し去ることができないのだと本心を吐露するのだ(〈消え去れ、面影よ〉)。 修道院にやって来たマノンは、デ・グリューを待つ間、彼の愛が再び戻るよう、神に祈る。現れたデ・グリューは、マノンを見て驚き、はじめは冷たく拒むが、「愛を想い出して」と請うマノンの魅力に抵抗できる時間は長くは続かない(二重唱〈あなたが握る手は、私の手じゃないの?〉)。デ・グリューは、どんな天罰が下ろうとも、自分はマノンなしには生きていけないと覚悟をもって、マノンへの愛を叫ぶ。
第4幕
場所:パリのホテル・ド・トランシルヴァニア、賭博場。 人々が賭けに興じている。例の3人の女優たちとともに、大儲けしてご機嫌のレスコー、何度もマノンに袖にされたことを根にもっているギヨーも居る。そこにマノンとデ・グリューがやって来る。手持ちの金が乏しくなり、マノンにそそのかされてやっては来たものの、デ・グリューは気が進まない。マノンは慰めようとしながらも、私を愛しているなら賭けに勝って大金を手に入れて欲しいと訴える(〈言うことをきいてくれないの?〉)。デ・グリューはマノンのこの手に逆らうことはできず、ギヨーに申込まれた勝負に渋々応じることになる。ところが結果はデ・グリューの大勝。有頂天のデ・グリューの傍らで、大金を失ったギヨーは烈火のごとく怒り、脅しめいた捨てぜりふを残して立ち去る。マノンはデ・グリューに金を持ってこの場を離れようと言うが、いかさまを働いたと言われたデ・グリューは、自尊心からその場で身の潔白を明らかにしたいと動かない。すると警官を連れて戻って来たギヨーが、デ・グリューはいかさまの主犯、マノンは共犯だと訴える。デ・グリューが反撃に出ようとしたそのとき、父親である伯爵が現れ、息子を押しとどめる(〈私はお前を恥から引き離しに来た〉)。マノンとの破廉恥な生活は家の恥になるという父に、デ・グリューは許しを請うが聞き入れられない。伯爵は警官に、デ・グリューの一時拘束を命じ、ギヨーはマノンの収監を望む。
*第4幕のマノンの衣裳デザイン(衣裳:シャンタル・トーマス)
第5幕
場所:ル・アーヴルへ向かう街道。 デ・グリューは、ほんの一時の留置で釈放されたが、マノンは他の囚人たちとともに植民地であるアメリカへ流刑されることになった。デ・グリューはレスコーとともに護送の馬車を襲い、マノンを助け出そうと、港へと続く街道で待ち構えている。ところが、レスコーが雇った男たちが、怖じ気付いて逃げてしまった。近づく護送の兵士たちの前に今にも飛び出さんとするデ・グリューをレスコーが押しとどめる。レスコーは護送の兵士に金を渡し、マノンをひととき自由にするよう頼む。 デ・グリューの目の前に現れたのは、痛々しく弱ったマノンだ。すでに死が近いことを感じているマノンは、一緒に逃げようと言うデ・グリューに、これまでの不実を許して欲しいと詫びるばかり。(〈死別の二重唱〉)サン・シュルピス修道院でマノンが使った愛を思い出させる言葉を、今度はデ・グリューがマノンに向けるが、彼女にはもう時間は残されていない。ほんの短い最期のときに、マノンはようやくデ・グリューと心から愛し合う喜びを感じ、「これがマノン・レスコーの物語」とつぶやいて息絶える。
*第5幕 ル・アーヴルへ向かう街道の舞台デザイン(美術:シャンタル・トーマス)