英国ロイヤル・バレエ団 2008年日本公演 最新情報

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英国ロイヤル・バレエ団 ティアゴ・ソアレス インタビュー

先日のプロモーションの際、空港からホテルに荷物を置いただけで、まっすぐにNBSに駆けつけてくれたティアゴ・ソアレス。彼の最初の取材がこの岩城京子さんのインタビューでした。「目が充血しているから、サングラスをかけたままでもいいかな・・・」と言いつつ、丁寧に質問に答えてくれたティアゴ。バレエを始めて10年足らずで、彼がいかにしてロイヤルのプリンシパルまで上り詰めたのか・・・興味深いインタビューとなりました。

ティアゴ・ソアレス インタビュー
岩城京子(演劇・舞踊ライター)

生まれつきの気品漂う物腰とラテン系ならではの情熱的な色香で、コヴェントガーデンの客席を桃色吐息でうめつくすティアゴ・ソアレス。バレエを習い始めて5年強でロイヤル・バレエ団への入団を認められてしまった恐るべき身体的素養の持ち主である彼は、実は『白鳥の湖』のジークフリートから『眠れる森の美女』のカラボス(!)まで踊りこなせる無二のアクターダンサーでもある。カリスマ・テクニック・演技力のすべてにおいて並ならぬポテンシャルを抱く27歳の若きブラジリアン・プリンシパルにその生い立ちから話を訊いた。

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――16歳で本格的にバレエを始めたと聞きました。これは一般的にはかなり遅いスタートですよね。

確かにそうだね。けど僕は8〜9歳の頃から兄と一緒に地元のヒップホップ大会に出場してたし、あと食事面での生活が保証されることもあって同時期にサーカスの訓練学校にも通っていた。僕はブラジルのとても貧しい家庭で育ったから、ストリートから抜け出すためならなんだってチャレンジしてたんだ。で、そんなおり16歳のときにある男性が僕のもとにやってきて「君にはすばらしいバレエダンサーになれる才能があるよ」と言ってきた。それで僕は初めてリオにあるバレエ学校に出向くことになって、本当に一目でバレエが好きになってしまった。だからそれからは毎日バレエ漬け。一日少なくとも6時間はレッスンを受けていた。でもそうしたハードな訓練の成果もあって、2年後の98年にはパリ国際バレエコンクールで銀賞をとれるまでに成長していたよ。

――あなたはその後、母国のリオ・デ・ジャネイロ市立劇場で数年間プリンシパルとして活躍して、02年にロイヤル・バレエ団に移籍します。その経緯について教えてください。

01年に僕はモスクワ国際バレエコンクールで金賞を受賞したんだけど、その受賞者のガラ公演にちょうどロス・ストレットン(当時の芸術監督)が来ていたんだ。それでよりインターナショナルな場で踊ることを切望していた僕は、彼にそのとき直接オーディションを受けたいと申し出た。それがきっかけで半年後にバレエ団に呼ばれることになって、僕はモニカ・メイスン(現芸術監督)の前で審査を受けたんだ。そのときモニカは僕に「あなたには確かに才能がある。けどまずは私たちと同じ身体言語を覚える必要がある。だからまずは群舞からはじめなさい。すぐにソリストにしてあげるから」と言ってきた。当時すでにブラジルでプリンシパルとして踊っていた僕としては、いきなり宮廷で槍を持って突っ立ってるような役に戻るのは正直つらかったけど(笑)、でもダンサーにとってのロイヤル・バレエは役者にとってのハリウッドみたいなものだから。すぐに「イエス」と応えたよ。

――入団後数年間は、王子から、カラボスから、シンデレラの義理の姉妹まで、本当に幅広い役を演じていましたよね。

僕が最初に主役を任されたのはナターシャ(ナタリア・マカロワ)版の『眠れる森の美女』。そのときはジョニー(ジョナサン・コープ)が体調を崩して、僕が代役を務めることになったんだ。けどそのとき僕はカラボスも踊ってたし、ペザントのパドドゥも踊ってたし......、君がいま言ったようになんでもかんでも踊っていた。その頃は本当に何か役柄に空きがあるとまわりの人たちが「ティアゴ、ゴー!」って言って僕を送り込んでいたんだ(笑)。一度なんか同じショーで「王子とカラボスの一人二役ができないか」って提案されたときがあってね。さすがにそのときは「ノー」って断ったけど。

――あなたがオリオンを踊った『シルヴィア』を、1月のコヴェントガーデンで観ました。悪役であるにも関わらずどこかシンパシーを感じてしまう人間味のある役作りが印象的でした。

ありがとう。それは嬉しいコメントだね。オリオンというのは本当に、ただの獣ではないんだ。彼は単純に絶望的なまでにシルヴィアの美しさに惚れていて、彼女をモノにしたいがために無理矢理に連れ去ってしまう。なぜなら彼はそれしか術を知らないから。奴隷を従えるような身分の彼にしてみれば、人間はモノとして扱って手に入れてもいいものなんだ。だから僕からしてみればオリオンは確かに荒々しい男ではあるけど、彼は彼なりに精一杯生きてるだけ。ただの悪役ではまったくない。あとはお客さんには是非アシュトンの、最高に知的な振付けを堪能してもらいたい。特に第3幕のパドドゥでは振付けそのものが"人物像の対比"を語っている。つまりアシュトンはおのずと女性が神のように強く美しく見えるように、そしてそれに対比して男性がもろく素朴に見えるようにと振付けを構成しているんだ。本当に見事なできばえの芸術作品だよ。きっと日本のお客さんにも楽しんでもらえるんじゃないかな。

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マリアネラ・ヌニェスとともに(NBS事務所にて撮影)

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