「ラ・バヤデール」~誕生から現在まで~ (3)
「ラ・バヤデール」~誕生から現在まで~ (3)
バレエ評論家の村山久美子さんによる連載もいよいよ最終回。今回は、マカロワ版「ラ・バヤデール」の誕生秘話と特徴を解説してくださいました。
ナタリア・マカロワ版『ラ・バヤデール』
マカロワは、バレエ王国ロシアで最も伝統があり、バレエ史上の最重要人物マリウス・プティパが数々の古典名作バレエを生み出したマリインスキー・バレエの中心的バレリーナの一人だった。そのマカロワが自由な芸術活動を求めて西側に亡命したのが1970年。欧米諸国がソ連と自由に交流できなかった時代、古典作品や、そのスタイルを熟知している彼女の力を、欧米のカンパニーが頼りにしたのは当然である。そして1980年、アメリカン・バレエ・シアターが彼女に『ラ・バヤデール』の演出を依頼した。
知的で研究熱心なマカロワは、『ラ・バヤデール』の演出にあたって、ハーバード大学のシアーター・コレクションに所蔵されているマリウス・プティパの作品を記録保存した資料(舞踊譜)を解読し、20世紀以降に失われていた部分を再現しようとした。この舞踊譜は、ステパーノフ式というシステムで書かれており、かつてはロシアのバレエ学校でこのシステムの解読の仕方を教えていた。
舞踊譜を研究した結果として、マカロワの新演出の大きな特徴となったのが、20世紀以降失われていた最終幕のガムザッティとソロルの結婚式と、それに続く寺院の崩壊と、ニキヤとソロルの亡霊がやっと結ばれる最後のシーンである。現在は、2002年にマリインスキー・バレエが原典版を忠実に復元し、原典版を知ることができるが、それまでは、マカロワ版のみが、プティパの最終幕の内容を伝えるものだった。マカロワの最終幕は、マリインスキー劇場に保管されているスゴアを探し出すことができなかったためであろう、ジョン・ランチベリーが前幕までのスタイルに類似した曲を、新たに作曲した。プティパの原典版では各曲が完結している組曲のようになっているが、マカロワ版では、音楽が途切れずに物語の流れを作り、スピーディに展開するドラマティックなシーンが出来上がっている。寺院崩壊後のラストシーンの、浄化された美しさも格別である。
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