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ウィーン国立歌劇場ドミニク・マイヤー総裁 記者懇親会レポート(音楽評論家:加藤浩子)

2012年5月 7日 16:19

5月1日、ウィーン国立バレエ団日本公演に合わせて来日したウィーン国立歌劇場総裁ドミニク・マイヤー氏の記者懇親会が開催されました。
音楽評論家の加藤浩子さんに懇親会の模様をレポートしていただきました。




選り抜きの3本に、特別なお土産!
〜ウィーン国立歌劇場総裁ドミニク・マイヤー氏、来日公演を語る



音楽評論家:加藤浩子

12-05.07WienSO01.jpg オペラハウスは数あれど、総合的な意味で世界一のオペラハウスはどこかときかれたら、ウィーン国立歌劇場に指を折るひとは多いのではないだろうか。公演の水準の高さ、内容の幅広さ、回数の多さ、建物の豪華さ、雰囲気の素晴らしさ、そして、チケットが毎夜ほぼ完売という人気・・・そのすべてが揃っている歌劇場は、他にない。
 ウィーン国立歌劇場総裁、ドミニク・マイヤー氏が強調するウィーン国立歌劇場の最大の長所はこれだ。「世界一のオーケストラがピットに入ることです。歌劇場では「ウィーン国立歌劇場管弦楽団」と呼ばれるこのオケは、コンサートホールでは「ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団」と呼ばれるのです」。
 世界一のオーケストラ、ウィーン・フィルが演奏するオペラを体験できるのは、たしかにここだけだ。そのオペラを享受する贅沢を、日本のオペラファンは1980年以来満喫してきた。ちなみに来日公演のような外国公演の間も、ウィーンでは公演が続けられる。こんなオペラハウスもまた、他にない。
 8度目の来日となる今回の演目は、《サロメ》《フィガロの結婚》《アンナ・ボレーナ》。マイヤー総裁によれば《サロメ》は、2010年に音楽総監督に就任したウェルザー=メストの希望だという。「メスト氏がシュトラウスを得意にしていることは、よく知られています。そして、かつて音楽監督をつとめたこともあるシュトラウスの作品は、国立歌劇場ではとても愛されているのです。なかでも《サロメ》は毎年のように上演されており、オーケストラのメンバーは暗譜でも弾けるほど作品になじんでいます」(マイヤー総裁。以下M)
タイトルロールに抜擢されたのは、ドイツが生んだドラマティック・ソプラノ、グン=ブリット・バークミン。チューリッヒでも《サロメ》を歌っており、「メストじきじきの希望」(M)だという。若い才能を見出すことには定評のあるウィーンのこと、耳の肥えた日本のオペラファンをも満足させてくれるに違いない。

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 若い才能をきらめかせる作品といえば、モーツァルトのオペラほどそれに適した作品はないだろう。ソロとアンサンブル、双方の聴きどころが揃ったモーツァルト・オペラは、スターから新人まで、ありとあらゆる歌手の力を発揮させる力を持っている。大傑作《フィガロの結婚》では、これぞウィーン、と喝采したくなるポネル演出の名舞台で、ベテランのシュナイダーの棒のもと、大スターとフレッシュな顔ぶれが競演する歌手たちが最大の魅力だ。伯爵夫人に、この役を歌わせたら右に出るひとはいないバルバラ・フリットリが扮するのをはじめ、カルロス・アルヴァレス(伯爵)、アーウィン・シュロット(フィガロ)らトップスターが揃うのに加え、27歳!のチャーミングなルーマニア人ソプラノ、ハルティッヒ(スザンナ)ら、専属歌手として活躍する若手が大胆に起用されている。「ハルティッヒはモーツァルトの諸役で聴衆を魅了し、すっかり人気者になりました。昨年は代役で《ラ・ボエーム》のミミをスカラ座で歌い、大成功を収めています。今後メトなどでもミミ役を歌う予定です。ウィーンではこのように優秀な若手を専属にし、抜擢して、将来のスターを育てているのです」(M)

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ウィーンが世界に誇る専属歌手のシステムが将来のスターを育んでいることは、数々の実例で証明されている。このほど「オーストリア宮廷歌手」の称号を得たフリットリも、90年代の一時期を専属歌手として過ごした。
だからウィーンでは、素晴らしい歌手の伝統が絶えることなく続いているのだ。
 専属歌手から巣立った大スターといえば、まっ先にあげたい名前がエディタ・グルベローヴァ。ドニゼッティやベッリーニのベルカントオペラの傑作がウィーンで復活し、また上演され続けてきた大きな理由は、グルベローヴァの存在にある。日本公演でも語り草となっている数々の名演を残しているのは、オペラファンならご承知だろう。
 そのグルベローヴァが今回披露するのは、ドニゼッティの出世作《アンナ・ボレーナ》。ヘンリー8世の2番目の王妃アン・ブーリンをヒロインに据えた「女王もの」で、2010年に制作されたばかりのプロダクション(ジェノヴェーゼ演出)だが、何とその時がウィーン国立歌劇場初演だったという。「このような傑作がまだ上演されていなかったのは、大きな驚きでした。私は幸運だった(笑)」(M)。本作のようなウィーンでは知られていない傑作を、積極的に国立歌劇場で初演したいというマイヤー総裁にとって、願ってもないプロダクションだったことだろう。グルベローヴァがこのウィーンのプロダクションに出るのは来日公演が初めてとなる。残念ながら、グルベローヴァ&ウィーン国立歌劇場の来日公演はこれで最後になるとのこと。私たちの記憶に永遠に残る舞台になるのではないだろうか。

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 共演者も選り抜きだ。アンナのライヴァル、ジョヴァンナ役を歌うのは、ベルカントメッゾの最高峰、ソニア・ガナッシ。私事で恐縮だが、この3月にフィレンツェで聴いた同役は圧倒的だった。完璧なベルカントのテクニックに、色めいた艶のある声で聴き手を引き込む。現役の歌手では世界最高のジョヴァンナだろう。エンリーコ8世には、人気沸騰中のイタリア出身のバス、ルカ・ピサローニ。美声と色気、そして「パーソナリティがある」(M)魅力的な歌い手だ。やはり専属歌手から出発し、今やスター街道ばく進中のメッゾ、クールマンが歌うスメトンにも注目して欲しい、とマイヤー総裁。「ワーグナーもレパートリーにしているほど声がフレキシブル。暗い声質もズボン役に向いています」(M)。ベルカントオペラの第一人者、エヴェリーノ・ピドの指揮も楽しみ。「デセイが初めてベルカントオペラに挑戦した時に指導をした、この方面のベテランです」(M)。

12-05.07WienSO02.jpg 今回の来日公演では、この豪華3演目に加え、とびきりの手土産が用意されている。「ウィーンでとても重要な位置を占めている」(M)という、《子どものためのオペラ魔笛》がそれ。「ウィーンに住んでいる子どもに、オペラを観たことがあるかどうかアンケートを取った時、「観た」と答えた子どもの8割が《子どものためのオペラ魔笛》を観ていました」(M)
 何事も大切なのは、「はじめの一歩」。とくに感受性の鋭い子どもには、本物に接してもらいたい。そう思う方は少なくないだろう。ウィーン・フィルと国立歌劇場の専属歌手たちによる《子どものためのオペラ魔笛》は、演目も含めて理想的な「はじめの一歩」ではないだろうか。劇中随一の人気者のパパゲーノを歌うのは、専属歌手として活躍する甲斐栄次郎。もしかしたらその日の客席から○○年後、「第2の甲斐栄次郎」が現われるかもしれない。


舞台写真クレジット
WienerStaatsoper/MichaelPoehn(「サロメ」「アンナ・ボレーナ」)
WienerStaatsoper/Axel Zeininger(「サロメ」「アンナ・ボレーナ」)


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