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エディタ・グルベローヴァ 共同インタビューが開催されました

本日(11月4日)のウィーン国立歌劇場2012年日本公演『アンナ・ボレーナ』が日本最後の公演となることを表明しているエディタ・グルベローヴァが、2日(金)都内ホテルでマスコミ各社との共同インタビューを行いました。

1980年の初来日以来32年間で15回もの来日を重ねてきたグルベローヴァ。
終始笑顔で、日本での数々の想い出を語ってくれました。

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この共同インタビューの模様は、後日、当サイトでお伝えいたします。


ウィーン国立歌劇場2012年日本公演 記者会見レポート

明日(10/14)の開幕を前に、ウィーン国立歌劇場2012年日本公演の記者会見が、東京文化会館で行われました。
『サロメ』のオーケストラリハーサル終了後に行われた記者会見には、ドミニク・マイヤー総裁、日本公演で『サロメ』と『フィガロの結婚』を指揮するペーター・シュナイダー、『サロメ』のタイトルロールを演じるグン=ブリッド・バークミン、ヨカナーン役のマルクス・マルカルトが出席。日本公演への抱負を語りました。

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ウィーン国立歌劇場総裁 ドミニク・マイヤー

今回がウィーン国立歌劇場にとって8回目の日本公演となります。
私が総裁になりましてから、初めての日本公演ですが、私以外の歌劇場のスタッフ、オーケストラのメンバーたちは、何度も日本に来ていますので、みんな「家に帰ってきたような気持ち」と言っています。

ウィーン国立歌劇場は年間300回の公演をウィーンで行っているため、世界中から客演の依頼をいただいていますが、なかなかお応えすることができません。しかし、日本では4年ごと公演を行っており、それからみても、ウィーン国立歌劇場にとって、日本公演のプライオリティがいかに高いかがおわかりいただけると思います。

皆さまもご存じのように、音楽総監督であるフランツ・ウェルザー=メストが腕の怪我のため来日することができなくなってしまいました。毎日治療を続けなければ、今後の指揮活動にも支障をきたすということで、医師からの指示により来日を断念いたしました。マエストロもこの日本公演をとても楽しみにしていただけに、本当に残念に思っています。

代わって『サロメ』を指揮してくださる、ペーター・シュナイダーさんはウィーン国立歌劇場の『サロメ』をもっとも多く指揮している指揮者で、"『サロメ』指揮者"と言ってもよいほどです。先ほどのリハーサルも素晴らしく、ウィーンの聴衆から愛され、ウィーン国立歌劇場管弦楽団のメンバーからも愛されているシュナイダーさんに『サロメ』を指揮していただけることは、私どもにとって大きなプレゼントだと思っております。この場をお借りして感謝の気持ちをお伝えします。

今回の日本公演では、若い歌手たちをぜひ日本の方々にご紹介したいと思っています。
その一人が、『サロメ』のグン=ブリッド・バークミンさんです。シュナイダーさんとは初めての共演ですが、今日のリハーサルでも、新しいサロメが、これだけの素晴らしい歌と演技で表現できる人はいないと褒めていらっしゃいました。
そして、もう一人、ヨカナーン役のマルクス・マルカルトさんです。ドレスデン国立歌劇場とウィーン国立歌劇場という二つの大きなオペラハウスに定期的に出演され、活躍されているマルカントさんをヨカナーン役に迎えられて嬉しく思っています。

最後に<小学生のためのオペラ『魔笛』>についてお話ししたいと思います。2003年からこの作品を上演していますが、つい最近オーストリアの子どもたちに「オペラを見たことがあるか」というアンケートをした際、90%の子どもたちが「ある」と答え、そのうちの90%がこの『魔笛』を見たと答えました。未来のオペラの観客を育てるという意味でもこの作品は貢献していると思っています。
最初の頃は、小澤征爾さんが指揮をしながら、子どもたちにお話しをしてくださっていました。日本公演でも解説をしていただきたかったのですが、残念ながら健康状態がお許しにならないので、今回はパパゲーノ役の甲斐栄次郎さんに歌いながら、日本の子どもたちの間にコミュニケーションを取っていただきたいと思います。オペラだけでなく、楽器の解説もありますし、きっと素晴らしい子どもたちのイベントになると思っています。

こうしてウィーン国立歌劇場のオペラを4年毎に日本でご覧いただけることは私どもにとって大きな喜びです。これからもよろしくお願いします。


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ペーター・シュナイダー(『サロメ』『フィガロの結婚』指揮者)

私が初めて日本を訪れたのは1986年です。ウィーン国立歌劇場と共に来日し、『ばらの騎士』を指揮しました。それから、さまざまな演奏会や公演で何度も来日していますが、日本の観客の皆さんのリアクションはいつも素晴らしいです。ドイツとオーストリア以外の外国では、日本での指揮の回数が多いのではないでしょうか。大好きな日本に、ウィーン国立歌劇場と一緒に帰ってこられたことを嬉しく思っています。

今回は『フィガロの結婚』だけのつもりでしたが、『サロメ』も指揮することになりました。若干やりすぎかなとも思いますが、『サロメ』はこれまでウィーン国立歌劇場で何度も指揮していますし、来年2月も指揮することが決まっています。今回のお話をいただいたときにも、「このウィーン国立歌劇場で」、「このウィーン国立歌劇場管弦楽団で」、「この『サロメ』という作品なら」・・・ということで、お引き受けしました。
このオーケストラは、私がどのように『サロメ』を指揮したいのか、この作品で何をしたいかということをよく理解してくれています。今日も予定より随分早くリハーサルを終えることができました。
今日のリハーサルはとても上手くいきましたが、『サロメ』は歌手だけでなく、オーケストラにとっても、指揮者にとっても、毎回大きな挑戦となる作品なのです。ぜひ皆さん楽しみになさっていてください。


グン=ブリッド・バークミン(『サロメ』サロメ)

日本に来られて、しかも東京に来られて本当に嬉しいです。
今回が、私にとってウィーン国立歌劇場のデビューとなります。ですから、私が今回の公演をどんなに意義深いと思っているかをわかっていただけるのではないでしょうか。きっと、私とって忘れられない公演になると思っております。体調も万全ですし、皆様方のご期待にお応えしたいと思っています。



マルクス・マルカルト(『サロメ』ヨカナーン)

今回、日本に初めてまいりました。ウィーン国立歌劇場と共にソリストとして日本に来られたころを幸せに思っています。
先ほどまで『サロメ』のリハーサルを行いましたが、東京文化会館は素晴らしい音響でした。また日本のオーガニゼーションの素晴らしさにも感動しています。
すでにウィーンでは、シュナイダーさんの指揮で『サロメ』を歌っておりますので、力を十分に発揮できると思っています。よろしくお願いいたします。


【ウィーン国立歌劇場】 コンサートマスター フォルクハルト・シュトイデ インタビュー ~『サロメ』の演奏は、大嵐の中飛行機を着陸させるようなもの~

2012年9月28日 11:34

ウィーン国立歌劇場日本公演もいよいよ目前となりました。
開幕を飾る『サロメ』は、" オーケストラのオペラ"と呼ばれることもあるほど、管弦楽が重要な作品です。音楽総監督フランツ・ウェルザー=メストは「まず、オーケストラありき、でこの作品を選んだ」と語りました。
それもそのはず、ウィーン国立歌劇場管弦楽団で演奏するのは、世界に冠たるウィーン・フィルなのですから。
日本公演開幕を前に、『サロメ』でコンサートマスターを務めるフォルクハルト・シュトイデさんに、緊急電話インタビューを行いました。



「私たちのオーケストラには、R. シュトラウスが好きだったサウンドが
 知識と経験によって受け継がれ、息づいているのです」



12-09.28.jpg――ウィーン国立歌劇場では、名だたる名指揮者たちが『サロメ』を振ってきました。たとえば、ヘルベルト・フォン・カラヤンは、ウィーンを去った後も多くの録音をしましたが、こと、『サロメ』に関しては、ウィーン・フィル以外とは演奏されなかったそうです。いわば世界最高の演奏を認められた『サロメ』演奏です。オーケストラのもつ最大の"威力" はどんなところにあると思われますか?

シュトイデ:まず、『サロメ』のようなオペラを常にレパートリーとして演奏できるオーケストラは、たしかに少ないと思います。私たちは『サロメ』を含む年間約50 本の作品をレパートリーとしています。ですから、『サロメ』のようにオーケストラにとって難しいオペラでもすぐに演奏できるのです。2 ~ 3 年上演機会が無く、最初からやり直してリハーサルするのは大変だと思います。
次に、なぜ私たちのオーケストラがこの作品をうまく演奏できるかという理由としては、オペラがオーケストラの中に生き続けているからだと思います。R. シュトラウスは、ウィーン・フィルが好きだったと思いますし、私たちのサウンドを敬愛していました。自ら指揮もしています。このように作曲家が、あるオーケストラをとても近く感じていたということは、その間には、きっと目に見えない絆、そして人間的な絆もあると思うのです。オーケストラの団員は、学んだことを必ず次の世代に伝えていきますから、その当時どう演奏されたかが、全部でなくとも継承され続けていきます。もちろん、オーケストラ自身も変わっていきますし、サウンドも変わっていきますが、その当時の記憶や特別なことは、残り伝わっていくものがあるのです。たとえば私たちの楽譜のなかには作曲された時代からのものもあり、そこには当時の楽団員による書き込みがあります。単に古い昔の楽譜というのではなく、その作品がまだ生き生きと息づいているのです。そのような楽譜を開くと作曲家の息吹が感じられます。楽譜の書庫に行き様々なオペラの楽譜を手にすると、私たちはオペラハウスのオーケストラとして多くのオペラをレパートリーとしてこれまでに演奏してきたことが良く分かります。楽譜だけでなく、その作品演奏の知識もまた、受け継がれているのです。
私は「ウィーン・フィルの伝統」「伝統」とあまりに言われすぎるので、「知識と経験が次の世代に受け継がれる」という言い方をしたいと思いますが、これは、とても家庭的で、家族の中で受け継いでいくような感じなのです。大好きでよく演奏していた曲についての知識や、それを偉大な指揮者のもとで演奏した時の思い出などと共に次の世代に伝えていくのです。そうすると、とても特別な、興味深い演奏へと繋がっていくのです。R. シュトラウスの作品は、彼の人間性や感情の表現だと思います。彼の作品には、その気持ちが天才的に表現されています。ですから彼が好きだったオーケストラで、そのサウンドで演奏することは、きっと作曲家の気持ちに近いものが表現できると思うのです。


――コンサートマスターとして、また個人的に、「サロメ」演奏について特に重要に考えていらっしゃることはありますか。

シュトイデ:R. シュトラウスのオペラは特別で、バランスをとることが大変に重要です。とても濃厚なオーケストレーションで多くの楽器が演奏しますが、同時に舞台上で歌う歌手の歌詞が大切なのです。
この美しい詩的な歌詞がオーケストラに掻き消されて聴こえないのは大変に残念なことですから。でもオーケストラピットで演奏していると、R. シュトラウスのオペラの音楽はシンフォニーのように素晴らしく、オーケストラとしてブレーキが利かなくなりそうなほどなのです。まさに交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」を演奏する時のように演奏したくなるのですが、それは抑えなければなりません。それが、コンサートマスターとしての役目の一つでもあります。どうしても音が大きくなりがちなときに、同僚を押さえる方向に持っていくようにも努力しています。楽譜に書いてあるフォルテ、ピアノだけではなく、演出により歌手が舞台の後ろの方で歌わなければならない場合は、楽譜がフォルテになっていても、歌手の声が聴こえる大きさにしなければならないのです。そういう強弱は楽譜には書いてありませんから、舞台上の歌手の声を聴きながら、よいバランスを探って演奏することが大切です。




「オペラ『サロメ』の演奏は、例えて言えば、
 大嵐のなかに飛行機を着陸させるようなもの。
 強力な体制で最高の演奏に臨みます」



―― "香りたつような" という表現がぴったりの豊かな響きは聴衆に陶酔感を与えることになりますが、演奏していらっしゃる方たちも、『サロメ』の演奏中に他のオペラとは異なる感覚を持つことはあるのでしょうか。

シュトイデ:このオペラはとても官能的で魅惑的ですよね。特にサロメの踊りのシーンはエロチックな音楽です。豊かで、非常に深くインテンシブな感情に満ち溢れ、メロディーが雰囲気をかもし出すところだけでなく、パーカッションが入るところなどのリズムも、本当に魅惑的なオペラです。
A私は、『サロメ』は、緊張感溢れる映画のようだと思っています。この作品が書かれた当時の人たちは、現在の私たちが映画館で"すごい映画" を見るような感覚をもったのではないでしょうか? ストーリーの最後は、死人の首が運ばれて、それにサロメは接吻するのですから、何と恐ろしい話でしょう。これは恐ろしくぞっとする映画のよう。特にサロメがヨカナーンの首に接吻するところでは、鳥肌が立つほど! 恐ろしい話ですが、その音楽がすごくて、ゆっくり、ゆっくりと恐ろしさが忍び寄ってくるのです。単にあっと驚くのではなく、徐々に忍び寄る恐ろしさ、その音楽には、演奏するたびに特別の感情を持ちます。


――『サロメ』は1幕のなかに濃縮したドラマと音楽が詰まった作品です。演奏に際して、今回の日本公演のほかの2作品と異なる点は?

シュトイデ:『サロメ』は、オーケストラへの要求度が最も高いオペラです。もちろんモーツァルトが簡単というわけではありません。モーツァルトは微妙に難しいですが、大切なのは演奏スタイルとサウンドです。モーツァルトの演奏自体も、この50 年で変わってきてはいますが、ウィーン・フィルは、やはり他のオーケストラとは違うモーツァルトを演奏していると思います。しかし『サロメ』は、例えていうなら、大嵐の中に飛行機を着陸させるようなものなのです。オーケストラの最大の力を出して、演奏しなければなりません。今回の日本公演では、コンサートマスターは私一人なので、『サロメ』には、リタイヤーしているヴェルナー・ヒンクさんにも手伝ってもらうことになりました。彼は経験豊かな私たちの誇るコンサートマスターでしたし、日本が大好きですし、強力な体制で最高の『サロメ』をお聴かせできると思います。
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「ウェルザー=メストの指揮で演奏すると、
 躍動していくような音が出せるのです」


――コンサートマスターの立場から、マエストロ ウェルザー=メストのR.シュトラウス作品における音楽づくりの魅力や特徴はどのようなところにあると感じていらっしゃいますか。

シュトイデ:『サロメ』以外のR. シュトラウスのオペラ『アラベラ』や『影のない女』も、マエストロの指揮で演奏しています。とても良いですよ。特に彼の指揮は、常に落ち着きがあり、決して硬くならないのです。指揮者によってはR. シュトラウスを指揮すると、手も身体もこわばらせてしまうことがあったり、または演奏中に何か問題が起こると、指
揮の動きが止まってしまう場合もよくあるのですが、彼の場合はそうしたことはまったくない。力を込めすぎて指揮されると、オーケストラも変に硬くなってしまうのですが、彼の指揮は、オーケストラからとても良いR. シュトラウスのサウンドを引き出します。彼の指揮で演奏すると、躍動していくような音が出せるのです。素晴らしい指揮のテクニ
ックの持ち主だと思います。また、指揮者によっては"寸分たがわずこうあるべき"、と決め付けてかかってくることもありますが、彼の場合は"上から強制する"という指揮ではありません。私たちにパルス( 脈拍) を与えてくれるのです。指揮者ですから、もちろんオーケストラや歌手をリードするのですが、彼はとても繊細で、しかも私たちの自由裁量に任せてくれる部分もあり、それがオーケストラから良いサウンドを引き出すのに貢献していると思います。大きな音量のところでも、指揮者の圧力で押し出されるのではなく、とても自然に、大きな音がでて、それが良いサウンドになります。

――最後に、日本のファンへのメッセージを。

シュトイデ:日本の皆さまのクラシック音楽に対する造詣の深さ、その愛情の深さを、こころから尊敬しています。世界の反対側に、こんなにたくさんの音楽を愛する人たちがいることは、感激です! 多くの音楽ファンのいる日本に行けること、そしてそこでオペラを演奏できることは大いなる喜びです。皆さまに喜んで頂けるよう最高の演奏をお約束します。


NBSニュースvol.308より転載
(電話インタビュー:松田暁子)

舞台写真:WienerStaatsoper/Michael Poehn


エディタ・グルベローヴァ ウィーン・レポート(音楽ジャーナリスト:山崎睦)


"エディタ、ダンケ!"沸き起こるウィーンの拍手と歓声


12-07.03_02.jpg 目下、ウィーン国立歌劇場のマーラー・ザールでは伝説の写真家、リリアン・ファイアーの95才の誕生日を祝って歌手の写真展が開催され、オペラの幕間には大勢の人々で賑わっている。ドミンゴ、シュヴァルツコップ、テバルディなど、戦後を代表する世界的名歌手が綺羅星のごとく並ぶなかで、ほぼ中央に位置を占めているのが等身大より大きなエディタ・グルベローヴァのパネルだ。マスネ『マノン』のタイトルロールに扮し、ポネルのデザインによる、目の覚めるようなパープルの衣装を纏った当時37才のグルベローヴァがまっ先に目に飛び込んでくる。ウィーン・デビューから13年、ツェルビネッタ、ルチアと連戦連勝を重ね、オペラ界の頂点に立った頃の艶姿であり、眺める人それぞれに彼女の栄光の軌跡を辿ることになる。
 ウィーンにおける最近のグルベローヴァの実際の活動は、まず4月29日の国立歌劇場での独唱会で、アレクサンダー・シュマルツのピアノ伴奏によりシューベルトの「4つカンツォーネ」などイタリア語による作品と、「ズライカ」、「糸を紡ぐグレートヒェン」等、ヴォルフ「ヴァイラの歌」、「庭師」、「子供と蜜蜂」等、R.シュトラウス「花輪を編みたかった」、「あなたの歌が私の心に響くとき」等、非常に凝ったプログラム。それでアンコールは、やはりシュトラウスの「響け」、そしてデラックワ「ヴィルネル」、ミレッカー「私たち、哀れなプリマドンナ」の3曲で会場を熱狂させた。このプログラムでベルリン、ミラノ・スカラ座等を一巡している。
 その後、5月26日から6月10日にかけてドニゼッティの『ロベルト・デヴェリュー』を4回歌った。共演はホセ・ブロス(ロベルト・デヴェリュー)、ナディア・クラステヴァ(サーラ)、甲斐栄次郎(ノッティンガム公爵)で、指揮はエヴェリーノ・ピド。現在の彼女の当たり役のひとつ、エリザベッタ(エリザベス1世)で老境のイギリス女王の悲哀を余すところなく歌い演じて、まさに圧倒的な大舞台だ。大きなアッチェレランドをかけて音楽を追い上げ、旋律線が上へ上へと駆け上がって、ドラマティックな緊迫度を高めていく彼女のアジリタ技法は依然として最大の武器であり、最強のソプラクート(3点ドより高い音)で最後を決める迫力は比類がない。
 カーテンコールになって、ステージ寄りのロージェ(ボックス席)の手すりに「エディタ、ダンケ!(ありがとう)」と大書された垂れ幕が掛けられ、忠誠を誓う昔からの親衛隊が相変わらず張り切っている一方、立見席に居並ぶ、ほんとうに若い客層からも元気な拍手歓声が飛んで、そのような光景が30分は続いている。ウィーンはグルベローヴァにとって揺るぎない牙城なのだ。ニューヨーク・メトロポリタンオペラでカルロス・クライバーと共演した『椿姫』やミラノ・スカラ座でのドニゼッティ『シャモニーのリンダ』等の成功の後、近年はこれらの劇場からは距離を保っているものの、ヨーロッパではウィーンの他にミュンヘン、チューリッヒ、バルセロナと、彼女の崇拝者はとどまるところがない。
 なお、『ロベルト・デヴェリュー』の指揮者、ピドはグルベローヴァとは今回がはじめての共演になり、今秋の日本での『アンナ・ボレーナ』でも指揮することになっている。誇り高いプリマドンナをサポートしなければならないのが指揮者の役割だが、いまやベルカント・オペラの第一人者たるピドは、その辺の呼吸も確かで、今回の『ロベルト』公演を輝かしいフィナーレに導いた功労者に違いない。

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 さらに、6月20日からはじまる国立歌劇場の今シーズン最後の演目、ドニゼッティ『ランメルモールのルチア』4公演で大混乱が生じている。予定されていたディアナ・ダムラウの不都合により、はじめの2公演がロシア人のヒブラ・ゲルスマーワに交代。ところがそのヒブラもダウンして、1回目はフランクフルト専属のアメリカ人、ブレンダー・レーを登場させるという二転三転ぶり。
 周知のように、従来この演目はグルベローヴァが長年歌っていて、キャンセルもほとんどなく、つねに抜群の安定度を誇っていたものだが、彼女がこの役を歌わなくなった途端の騒動だ。ウィーンのランクの劇場でルチアを歌える歌手を探すのが困難なわけで、この様子では今後ますますベルカント・オペラの上演は減少するだろう。そこで、あらためてわかるのが、"不世出のディーヴァ"、グルベローヴァの偉大さなのだ。


山崎 陸(在ウィーン 音楽ジャーナリスト)
NBSニュース vol.305より転載



※写真は4月29日に行われたリサイタルより(photo:Wiener Staatsoper / Michael Poehn)

◆ウィーン国立歌劇場公式サイト「アンナ・ボレーナ」>>>


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