2011/08/16 2011:08:16:17:40:25[NBS最新情報]
『エオンナガタ』は、常に新しいフィールドに挑み続けるバレエ界の女王シルヴィ・ギエムが、鬼才演出家ロベール・ルパージュと気鋭の振付家ラッセル・マリファントとともに、2年の歳月をかけて創作した作品。2009年ロンドンのサドラーズ・ウェルズ劇場で世界初演されました。
この作品で描かれるのは、18世紀に活躍したシュヴァリエ・デオン(Chevalier D'Éon/本名シャルル・ド・ボーモン)の生涯です。"シュヴァリエ"とは"騎士"を意味するフランス語で、"シュヴァリエ・デオン"は"エオンの騎士"という意味になります。女装で活躍した"エオンの騎士"と歌舞伎の"女形(オンナガタ)"を組み合わせて『エオンナガタ』という、不思議な響きのタイトルが誕生しました。
前半の49年をルイ15世直轄の優秀な外交官兼スパイ、軍人として、男性の性を生き、後半の33年間を王の命令によって女性として生きた、シュヴァリエ・デオン。彼の数奇な運命を、ダンス、演劇の垣根を越え、歌舞伎の手法を取り入れながら描いた壮大なコラボレーション作品、それが『エオンナガタ』なのです。
『エオンナガタ』特集では、ギエム、ルパージュ、マリファントのインタビュー、そしてシュヴァリエ・デオンについてのキーワ―ドを通して、この作品をより深く紹介していきます。
●シュヴァリエ・デオンを知るキーワード(1)
シュヴァリエ・デオン(シャルル・ド・ボーモン)の名前を今回初めて知ったという方も多いのではないでしょうか。
『エオンナガタ』は彼の生涯について具体的に描いている作品ではありませんが、シュヴァリエ・デオンについての予備知識があると、舞台をより楽しんでいただくことができます。"女装の騎士"シュヴァリエ・デオンを知る、いくつかのキーワードをご紹介していきます。
*洗礼名
1728 年10月5日、ブルゴーニュ・ワインの生産地であるフランス・トンネールでシュヴァリエ・デオンは誕生した。洗礼名はシャルル=ジュヌヴィエーヴ=ルイ・オギュスト=アンドレ=ティモテ・デオン・ド・ボーモン。 "ジュヌヴィエーヴ"という女性名が入っていることが、エオンの未来を暗示すると言う歴史家もいたという。
*女装のスパイ
シュヴァリエ・デオンは、優れた外交官兼スパイとして華やかに歴史の舞台に登場した。ルイ15世の個人的な秘密外交機関「王の機密局」の一員となったエオンは、王命を受け、女装してロシアに潜入。
輝くブロンドの髪、髭も体毛もなく、華奢で色白の美青年エオンは、美貌の女性リア・ド・ボーモンとして、ロシアの女帝エリザヴェータに朗読係として接近し、当時絶縁状態にあったフランスとロシアの国交を回復させるという重要任務を見事に果たした。
*龍騎兵隊隊長
若い頃から剣の修行に励んだエオンは、優れた剣士としても知られる。七年戦争では龍騎兵隊隊長として活躍。数々の武勲をあげた勇敢かつ優秀な軍人でもあった。
*イギリス
七年戦争の後、ルイ15世の命を受け、大使館付き秘書官としてイギリスに渡ったエオン。時に男性として、時に女装して縦横無尽に活躍し、外交官としてスパイとして活躍を続けた。ロンドンでは彼の性別が話題となり、彼が男性なのか、女性なのかという賭けが行われていたという。
【参考資料】
窪田般彌『女装の剣士 シュヴァリエ・デオンの生涯』(白水社 1995年刊)
池田理代子『フランス革命の女たち』(新潮社 1985年刊)
冲方丁/文芸アシスタント『シュヴァリエ』(日経BP 2006年刊)