What's NewNews List

2018/01/25 2018:01:25:22:09:08

ノイマイヤー、「ニジンスキー」を語る【前編】
 『ニジンスキー』はその名のとおり、20世紀初頭、ヨーロッパにセンセーションを巻き起こしたバレエ・リュスのスター、ヴァスラフ・ニジンスキーを描いた作品です。ニジンスキーの熱烈な信奉者、研究者、資料のコレクターとしても知られるジョン・ノイマイヤーが創作し、ニジンスキー没後50年の記念の年、2000年にハンブルク・バレエ団により初演されました。初演時にプログラムに発表されたノイマイヤーの回想には、彼がいかにニジンスキーに惹かれていったのか、その熱い思いが語られています。その中の一部をご紹介しましょう。

_____________________________________________________


 ノイマイヤーがニジンスキーの存在を知ったのは、故郷、米国ウィスコンシン州ミルウォーキーで過ごした少年時代。近所の図書館で見つけた数冊のバレエの本の中に、『ニジンスキーの悲劇』(アナトール・ブールマン)という本があり、ノイマイヤー少年はこれをむさぼり読んだ、といいます。

 私はこの本を手放すことができなくなり、休み時間に校庭で読んでいたことをいまだにはっきりと覚えています。担任だったメハイル先生は、私に近づいて来て聞きました。「君は何を読んでいるの?」私は厳粛な面持ちで先生に本を見せました。私はその時の先生のまなざしを決して忘れないでしょう。先生は、その本がまるでいかがわしいものであるかのように見て、ショックを隠し切れない様子で言いました。「きみはなぜそんな本を読んでいるのですか!」。今でも私はその時に先生が言わんとしたことも、なぜそのような反応をしたのかもわかりません。いずれにせよ、先生がどうやら私に示して見せた懸念によって、この本はより一層わくわくする、謎めいた、特別な本になり、同時にニジンスキーは私にとって生身の人間になったのです。

niji1.jpg


 ニジンスキーとの最初の出会いを果たしたノイマイヤー。その後もたびたび、ニジンスキー、バレエ・リュスとの出会いに導かれ、振付家への道を歩んでいきます。バレエに関する書物は、とくに大きな役割を果たします。

 『The Dictionary of Modern Ballet(モダンバレエ事典)』というタイトルの本で、その中には、バレエ・リュスのプロダクションの、カラーのイラストを主とした、かなりの数の挿絵が記載されていました。それらは小さい、きわめて小さいイラストでしたが、そのかわり数が多く、私には良い刺激で、心が躍りました。たとえば、『シェエラザード』の絵は、私の想像力をかきたてました。それは華やかさと異国情緒のみならず、その中で展開されるストーリーによるものでした。それは、私にとって、バレエをどのように創ることができるか、つまりバレエとは謎めいたドラマである、という方向性を示す原型となったのです。

niji2.jpg


 大学生のノイマイヤーは、その後、地元ミルウォーキーでのバレエ・リュス・ド・モンテカルロのツアー公演、『シェエラザード』にエキストラとして出演する機会を得ました。

 エキストラが出演するのは最後の場面です。シャリアール王が当初の予定よりも早く帰宅したところ、外界とは隔離された後宮で愛妾ゾベイダが他の後宮の女たちとともに、家の奴隷たち──その中にはニジンスキーの有名な役柄である黄金の奴隷もいます──とともにきわめてエロティックで快楽的な宴に興じていました。王の出現でパニックが起き、皆が逃げようとするところに、番人が呼ばれます。ここで私たちエキストラの登場です。大きな弧の形をしたサーベルで皆を情け容赦なく殺害する役目です。もちろんリハーサルはなく、私たちはいきなり舞台に送り出されました。大学で勉強を始めたばかりの私は──スタニスラフスキーの演技法を頭にたたきいれ、役になりきって舞台へと走りました。

niji3.jpg



 この刺激的な体験にくわえて、ニジンスキーの妻・ロモラによるニジンスキーの伝記を読んだことで、ノイマイヤーは、ますますこの天才舞踊家への思いを深めていくのでした。

~後編につづく~



ハンブルク・バレエ団公式サイトはコチラ>>>