英国ロイヤル・オペラ 2015年日本公演

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ジョイス・ディドナート(「ドン・ジョヴァンニ) ビデオ・メッセージ

インタビュー・レポート 2015年9月16日 02:00
「ドン・ジョヴァンニ」でドンナ・エルヴィーラ役を演じる、美しく華やかな歌姫ジョイス・ディドナート。彼女が来日直後に語ってくれた、とっておきのメッセージをお届します。マエストロ アントニオ・パッパーノの指揮のもと、この上なく豪華なキャストで贈る英国ロイヤル・オペラの「ドン・ジョヴァンニ」、ぜひお見逃しなく!





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サイモン・キーンリサイド「マクベス」を語る(メッセージ動画)

インタビュー・レポート 2015年9月14日 22:46
サイモン・キーンリサイド「マクベス」を語る(メッセージ動画)

 英国ロイヤル・オペラ2015日本公演の開幕を飾った「マクベス」で、タイトルロールのマクベスに鋭い洞察を加えて、陰影深く演じ歌いきってみせたサイモン・キーンリサイド。来日直後、そのキーンリサイドが日本の観客に向けてビデオメッセージをくれました。今回自らが歌い演じるマクベス役についての解釈を、妻のマクベス夫人との関係や物語の構造の中で解説するこのメッセージを聞けば、もう一度舞台を観たく、聴きたくなるはずです!
 
 
 写真は2015年日本公演より photo:Kiyonori Hasegawa
 
 
 キーンリサイドのインタビューはこちら
 
 
 
 
 英国ロイヤル・オペラ2015日本公演の開幕を飾った「マクベス」で、タイトルロールのマクベスに鋭い洞察を加えて、陰影深く演じ歌いきってみせたサイモン・キーンリサイド。来日直後、そのキーンリサイドが日本の観客に向けてビデオメッセージをくれました。今回自らが歌い演じるマクベス役についての解釈を、妻のマクベス夫人との関係や物語の構造の中で解説するこのメッセージを聞けば、もう一度舞台を観たく、聴きたくなるはずです!
 




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 写真は2015年日本公演より photo:Kiyonori Hasegawa
 



英国ロイヤル・オペラ 開幕記者会見 開催

インタビュー・レポート 2015年9月12日 03:16
 英国ロイヤル・オペラの5年ぶり5回目の日本公演の初日を明日に控えて、本日(9/11)開幕記者会見が行われました。登壇したのは、英国ロイヤル・オペラハウス支配人のアレックス・ベアード、英国ロイヤル・オペラ音楽監督のアントニオ・パッパーノ、オペラ・ディレクターのカスパー・ホルテン、そして『マクベス』に主演するサイモン・キーンリサイドとリュドミラ・モナスティルスカ、『ドン・ジョヴァンニ』に主演するイルデブランド・ダルカンジェロ、ジョイス・ディドナート、ローランド・ヴィラゾンと、華やかな顔ぶれを揃えて行われました。

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 挨拶の口火を切ったベアードは、まず「ロイヤル・オペラハウス(ROH)と日本はたいへん良い関係を築いています」と話し、その背景を、「定期的なロイヤル・バレエ団の来日公演や、ロイヤル・オペラの過去4回の来日の実績はもとより、私たちのフェイスブックやYouTubeに関わる数がイギリス、アメリカに次いで多いのが日本です。またツイッターのフォロワーは、ドイツとフランスを足した数よりも日本のほうが多いのです」と実務家らしい根拠をもって説明しました。
 
 前回公演と同様に二つの演目で指揮をする音楽監督パッパーノは「今回、いずれも私自身の心に近い2作品を上演できるのは大きな挑戦であり、喜びです。アイコン的な主人公を中心に展開する官能的な『ドン・ジョヴァンニ』。ヴェルディ、シェイクスピアという二人の天才による『マクベス』。両作品とも超常的なもの─ミステリーや死者との邂逅を描いている点で同じ様相を備えているのです」と独自の視点を語り、「ROHはオーケストラ、合唱、技術スタッフの全員が来日しており、そしてこのテーブルにそろった才能溢れるアーティストたちの顔ぶれを見るにつけ、このような好条件の下で指揮ができる自分は本当に運がよいと実感しています」と公演への自信のほどを示しました。

 いっぽうオペラ・ディレクターのホルテンは、『マクベス』について「英国人演出家フィリダ・ロイドによる演出ですが、そこには日本やアジアの方々にも通じる美的世界が展開されています。物語の核となるのはある夫婦の力関係と葛藤。歌うのは最高の歌手たち─キーンリサイドとモナスティルスカです」と説明した後、自身の演出による『ドン・ジョヴァンニ』について、「中心となる人物像を描きだし、その心理が浮き彫りになるよう心がけました。彼らは何者なのか、何に魅せられているのか、ドン・ジョヴァンニの本質とは何なのかといったことを、新しいテクノロジーを使って表出させようと試みました。しかし仕掛けはドラマの本質や歌手たちを支えるものに過ぎません。優れた歌い手ダルカンジェロが演じるドン・ジョヴァンニは、このプロダクションではある意味において現実味があり悲哀を感じさせる人物です。ディドナートは魅力的で真実味のある女性を表現すると同時に、ドン・ジョヴァンニにとって最後のチャンスともいえる愛の本質を表現します。ローラン・ヴィラゾンが歌うドン・オッターヴィオもまた、物語のリアリティを際立たせるために重要な役割を担っています」と、詳細な解説を加えました。

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 つづいて主演のソリストたちが挨拶。『マクベス』で表題役を歌うキーンリサイドは、「日本の映画監督である黒澤明はシェイクスピアを愛してやまなかったと聞いています。その意味で今回は日本の観客の皆様の趣向にあった舞台をご覧いただけるのではないでしょうか」。マクベス夫人役のモナスティルスカは「5年前に一度来日して日本の温かい歓迎に心を打たれました。今回、ロイヤル・オペラ公演で再び日本を訪れることができて嬉しく思います」。
 
 『ドン・ジョヴァンニ』表題役を演じるダルカンジェロは、「演出家のアイデアをいかに具現化するかが課題。過去に演じた解釈を忘れて取り組むことは簡単ではないが、こうして素晴らしい共演者がいるし、なによりも今回はマエストロ パッパーノが指揮を振ってくださいます」と公演への意欲を見せました。ドンナ・エルヴィーラ役のディドナートは「世界で危機的状況が起こる中、自分には何ができるのかと自問するの。でもアメリカ人の私のほかに、ここにはイタリア、イギリス、メキシコ、ロシアと各国を代表するアーティストが並び、聴衆も含めた多くの人たちが、国を超えて、人類が成し得た最高の芸術であるオペラを分かち合うのだと思いを馳せると、思わずこみ上げてくるものがあるわ」と熱い胸の内を語りました。最後にドン・オッターヴィオ役のヴィラゾンは、「マエストロ パッパーノは音楽を知り尽くしていると同時に、彼の音楽には真実のドラマがある。そこが彼の指揮するオペラの魅力です。ジョイスさんが語った通り、集うべくして集った才能が一つになる場は美しい。そして私自身は常々日本の文化に感銘を覚えています。日本の作家の文学もたくさん読みましたが、何より気に入っているのは『トトロ』です!」とサービス精神たっぷりに会場を盛り上げました。



photo:Rikimaru Hotta





開幕直前! ローランド・ヴィラゾン インタビュー

日本公演開幕を控えて、《ドン・ジョヴァンニ》でドン・オッターヴィオを演じるローランド・ヴィラゾンが、メールでインタビューに答えてくれました。

Q:歌手を志したきっかけを教えてください。
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子どもの頃、私の家族にとって、クラシック音楽はあまり馴染みのあるものではありませんでした。でも、私は歌うことや演じることが大好きで、例えば(ディズニーの)"ジャングル・ブック"の曲などをよく歌っていました。ある日、私が家の中で歌っていた時、窓の外で近くの学校の先生がそれを聴いていたのです。彼は私の家に来て、両親に私をその芸術学校に入れるように勧めました。それ以来、私は歌い、演じ続け、ついにプロのオペラ歌手になるためにメキシコシティにある国立音楽院に入学したのです。


Q:あなたはアントニオ・パッパーノと、モーツァルトのコンサート・アリア集を録音していますね。モーツァルトの音楽に対して特別な思いがありますか?

モーツァルトの音楽は、まるで音の万華鏡のようです。いつも完璧で、新しく、人間の魂のあらゆる色彩を映し出しています。私がモーツァルト作品を本格的に演じるようになったのはこの数年ですが、既に彼は私にとって最も大切な作曲家の一人となり、私のキャリアにとって重要な意味を持つようになりました。彼の書簡を読んで、この天才をとても身近に感じるようになったのです。これらの貴重なコンサート・アリア集をトニー・パッパーノと録音したことは、得難い経験でした。音楽は素晴らしく、変化に富んでおり、そしてトニーと仕事をすることはいつだってこの上ない喜びです。


Q:《ドン・ジョヴァンニ》の中で、特に面白いと思うシーンはどこですか?

第2幕の六重唱〈暗いところにただひとり、ひとりでいると〉"Sola, sola in buio loco"と第1幕の最後の六重唱が大好きです。いつだってモーツァルトのアンサンブルを歌うことはこの上ない喜びです!アンサンブルの中でこそ、モーツァルトの"万華鏡"が最も鮮やかに、驚くべき輝きをみせるのですから。


Q:あなたは世界中の名だたる歌劇場で歌っていらっしゃいますが、英国ロイヤル・オペラはあなたにとってどのような劇場ですか?

数多くの劇場での初舞台の中で、英国ロイヤル・オペラでのデビューは、私にとって最も素晴らしいものでした。この劇場はいつも私の心の中で特別な位置を占めています。劇場全体に、芸術への愛が満ちています。演じるのには最高の場所です!

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ヴィラゾン演じるドン・オッターヴィオとドンナ・アンナ役のシャギムラトヴァ







開幕直前! サイモン・キーンリサイド シェイクスピアとオペラ『マクベス』を語る

英国ロイヤル・オペラ日本公演開幕を直前に控え、《マクベス》のタイトルロール役のサイモン・キーンリサイドが、メール・インタビューに答えてくれました。シェイクスピアとオペラ《マクベス》について、知性派のキーンリサイドならではのさまざまな視点から作品を紹介してくれています。


オペラの中で「演じる」ということ

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 どんな役であっても演技力は必要です。
 シェイクスピア作品にはどこか気持ちを高ぶらせる魅力があり、それだけに舞台の内容はよくできていて当たり前という期待もあります。でもそれはちょっと違います。そもそもシェイクスピア作品かどうかにかかわらず、あるいはシェイクスピア作品を原作にした劇だろうとオペラだろうと、主眼をはっきりさせ、完成度を高めようとするひたむきな姿勢が欠かせません。仮に作品があまり良くなかったとしたら、その分、観客になんらかのメッセージを届けるために、もっともっと努力しなければならないと思うのです。
 私にとっては、舞台でどの面を際立たせるかは、作品によって異なります。
 例えば、モーツァルトの《魔笛》に登場するパパゲーノを演じる場合、 歌唱よりも肉体表現のほうがはるかに大きな課題です。技巧を凝らせと言っているわけではありません。むしろそんな必要はまったくないのです。この場合、あくまで肉体表現、対話もですが、こういうものがおそらくは歌唱よりもキャラクターを的確に描き出せるということなんです。
 逆に、ヴェルディの《椿姫》に登場するジェルモンのキャラクターの"描写"は、ほぼ全面的に歌唱に依存しています。この場合、"Prima la voce(プリマ・ラ・ヴォーチェ)"、つまり「歌唱第一」なのです。肉体表現による"色付け"は比較的単純です。とにかくメッセージの一番重要な部分を占めているのが歌唱なのです。
 思うに、普通の人を演じるよりも、極端な役を演じるほうが簡単でしょうね。もっとも、このオペラにそもそも普通の人がいるのかという声もあるでしょうけど、それはまた別の機会に譲りましょう。


黒澤明の『乱』と同様に、ヴェルディの『マクベス』は、名作のオマージュ

 シェイクスピア作品はいつの時代も絶えずいろいろな形に翻案、改変され続けています。日本が誇る巨匠・黒澤(明監督)の『乱』という名作があります。あれはシェイクスピアの『リア王』を下敷きにしたものです。それでいて作品自体、名作に仕上がっていて、決して『リア王』ではありません。
 これはヴェルディの手がけた『マクベス』にも言えることです。もはやシェイクスピア作品ではなく、これもまた1つの名作のオマージュにすぎないのです。


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マクベスを演じる、歌ううえで大切なこと

 マクベスは極端な役、どちらかといえば単純な男です。割と単純な使命を胸に、軍人として生き抜いた男です。性格はといえば無骨で大雑把で粗野ときている。ストーリーの中では作品のタイトルにもなったアンチヒーローですが、ある意味で小人物なんですね。はるかに邪悪でずる賢いマクベス夫人の手のひらで転がされているのですから。この夫婦の間で力関係が目まぐるしく変わっていく。そこは本当におもしろい部分だと思います。
 マクベスを歌う上で大切に考えることは・・イタリア語で「キアロスクーロ」という言葉があります。明暗の対比を常に変化させる表現手法ですが、これでマクベスの性格を描いています。つまりマクベスの優柔不断な部分、弱みといってもいいでしょうね。これを音楽にはっきりと反映させています。常に揺れ動く力関係と性格を描くうえでヴェルディが意図したのは、生身の人間の姿をさらけ出すことでした。周囲の状況や誘惑、権力、チャンスに振り回されて苦しむ----そんな弱い人間の姿です。それがあるからこそ、マクベスは、よくある漫画のキャラクターのような存在に堕落しないでいられるのです。
自分の歌声でそういう方向性を極めていけたらいいと思います。


■ 現代人の共感を得られる、《マクベス》のストーリー

 誰もが身に覚えのありそうな状況に苦しむ生身の人間を演じたら、おそらく観客の共感を得やすいと思います。もちろん、オペラとか舞台という装置は、どうしても極端なストーリーを見せがちです。でもそうすると、観客は他人事のように感じてしまうはず。説教だらけの話を聞かされても、おもしろくないでしょう。
 マクベスが抱える権力闘争も、悪の道への誘惑も、その根っこの部分は同じです。現実の生活にも通じるところがあります。実際、我々は日常生活でこういう私利私欲に心が揺れているでしょう。さすがに殺人はないにせよ、ちょっと大げさに真実を語ったり、嘘をついてみたり。野心といえばいいのか、それとも単なる嘘なのか。為政者も理念より "現実主義"に走るでしょう? そこに大きな違いはないと思うんです。嘘も方便なのか、それとも野心的な夢を語っているだけか。そう考えれば、真実と偽りの境目は微妙なんですね。

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stage photos: ROH/Clive Barda, 2011



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