ウィーン・フォルクスオーパー ロベルト・マイヤー総監督 インタビュー
「大晦日に三つの劇場で同時にフロッシュを歌いますよ!」と、いきなり驚かせるのが、フォルクスオーパー(VO)総監督のロベルト・マイヤーだ。「ただし、体が三つあったら、ですが」。つまり彼が現在『こうもり』のフロッシュ役を演じているフォルクスオーパー、それに2001年以来連続出演して一斉を風靡し、いまも出て欲しがっているウィーン国立歌劇場、そこへミュンヘンのバイエルン国立歌劇場からもオファーが来ているからだ。
オーストリア政府から"宮廷俳優"の称号を授与されている舞台俳優のマイヤーは、1974年以来33年間にわたってドイツ語圏屈指の格式を誇るウィーン・ブルク劇場で活躍。2007年以降はVO総監督を務め、同劇場の舞台に立つ他、映画・TVに出演し、演出でも成功。前記のフロッシュ役が"最強"の折り紙付きで、さらに後述のように『メリー・ウィドウ』のニェグシュ役が大評判となっているところだ。この二つの役柄を今回の日本公演でも演じるから、これは必見!
『メリー・ウィドウ』
―――まず、5月にプレミエになったばかりで大評判のプロダクションですね。
M(マイヤー):ここではパリにおけるポンテヴェドロ公館が舞台であって、台本上、必ずしもウィーン仕様に拘束されるわけではありません。この作品が全世界で、様々な形態で上演されている理由でもあります。だいたい国名自体が旧ユーゴースラビア共和国の南端、モンテネグロからの造語であって、実在する国ではありませんからね。そこでマルコ・アルトゥーロ・マレッリには演出の様々な可能性があり、彼の持ち味であるオシャレで洗練された特徴が十二分に生かされたインターナシュナル志向になっています。これまでの舞台とは、まるで異なり、フォルクスオーパーにとっても新しい挑戦ですので、是非期待してください。
―――フォルクスオーパーが演じると、それでもウィーン色が濃厚に出ますよね。
M:それは我われのアンサンブルだからこそ、ですよ。いずれにせよ、ポンテヴェドロは南バルカンの小国であり、パリ公館にしても、それほど立派な建物のはずはないわけだけど、マレッリは自分で担当した美術でもアール・デコ様式で豪華に飾り立てています。
―――エッフェル塔を背景とした一等地ですし。
M:ただ、この国にはお金がないのも現実だから、執事のニェグシュを演じる私が登場するときは高級車ではなくて自転車で、ちゃんと"ポンテヴェドロ公国公用車"のプレートが付いていますから注意して見ていてください。
―――この演出ではニェグシュが目立ちまくりですね(笑)
M:たしかに、しょっちゅうステージに立っていますよね。当初のプランよりは出演シーンが多くなって、控えめな執事が徐々に前面に出てくるようになるとか(笑)
―――マイヤー総監督扮するところのニェグシュの才覚と機転で主役の二人が結ばれ、公国も財政危機から救われるのだから、勲章もらってもバチは当たりませんよね。
M:ポンテヴェドロ公国にお伝えください(笑)
―――出演歌手が豪華に揃いましたね。
M:ハンナ役のアネッテ・ダッシュは現在ドイツのトップ・ソプラノで、来年6月のプレミエ、レオ・ファルの『マダム・ポンパドゥール』の出演交渉をしている際に『メリー・ウィドウ』にも話が及びました。最初は戸惑っていましたが、その後ジュネーヴでハンナを歌って、すっかり自信を付けました。もう一人のハンナ、アレクサンドラ・ラインプレヒトはウィーン国立歌劇場専属で幅広く評価されている歌手です。ここでダニロに扮するダニエル・シュムッツハルトの日本デビューを強調しないわけにはいきませんね。チロル出身のバリトンでメキメキ頭角を表し、世界に向けて将来の大成が期待されている"秘密兵器"ですよ。
『ウィンザーの陽気な女房たち』
M:以前、我々が日本で上演したフロトー『マルタ』の系列に属するシュピールオーパー(演劇性の強いオペラ)の代表的な演目で、VOの得意なジャンルでもあります。ドイツのヴェテラン演出家、アルフレード・キルヒナーの舞台は堅固なコンセプトに裏付けられ、うるさ方の目にもかなう奥の深いものです。
―――バイロイト音楽祭の『ニーベルングの指環』等、オペラの分野でも著名な重鎮ですよね。
M:森の中で動物を手下にして一人で暮らす老人、ファルスタッフの世界が、どのように展開するか楽しみにしていてください。この役を演じるフランツ・ハヴラタについては多言を要しないでしょうが、豪放磊落な役どころで、その隙間に見せる弱さ、脆さの表現に人間味がありますね。
『こうもり』
M:言わずと知れた"オペレッタのなかのオペレッタ"で、日本公演には欠かせない演目です。現在、伝統的な従来の舞台をハインツ・ツェドニク校訂版で上演しています。アイゼンシュタイン役のモルテン・フランク・ラーセンは二枚目というだけではなく、チューリッヒなどにも呼ばれるほど評判だし、やはりファンの多いセバスティアン・ラインターラーは次のシーズンからウィーン近郊のバーデン歌劇場で監督に就任します。ロザリンデを実力者が歌うことで『こうもり』自体の上演レヴェルが高まると考えていますので、その意味でメルバ・ラモスはかならず満足していただけるでしょう。
―――前のニェグシュに続いて、ここでは"十八番"のフロッシュですね。
M:他に『ウィンザー』の給仕役のカヴァーも兼ねているので、もしかしたら3作品全部に出るかもしれませんよ(笑)。
photos:Dimo Dimov / Volksoper