ローマには18世紀後半から19世紀前半にかけて、ロッシーニやドニゼッティ、そしてヴェルディの傑作が初演されたことでも知られる劇場が複数ありました。こうしたオペラを愛する気運を背景に、現在のローマ歌劇場の前身であるコスタンツィ劇場が開場したのは1880年のこと。ここでも、『カヴァレリア・ルスティカーナ』やプッチーニの傑作『トスカ』の初演ほか、ベルクの『ヴォツェック』をはじめとするドイツ・オペラのイタリア初演などが行われました。ローマ歌劇場の歴史には、オペラ史に輝く傑作の初演の数々が並んでいるのです。
もっとも、“過去の栄光”にすがるだけでは、世界のトップ歌劇場としての価値はありません。ローマ歌劇場がリッカルド・ムーティを首席客演指揮者として迎えて3シーズンが経ったいま、この間に世界に伝えられた大きな成功の数々は、それまで陰りを見せていたローマ歌劇場の復活を証明するものとなっています。そして特筆すべきは、オーケストラと合唱団の飛躍的な充実が、その上演を支えていること。「オーケストラや合唱団の成長は、音のコンセプトが一つの方向に確立していることがもたらしたものです」とムーティ。なるほど、ローマ歌劇場のオーケストラは、世界に広がりつつある音や響きの画一化とは対極にあることを守りつづけ、それをたしかに活かしてくれる指揮者を迎えて、そのパワーを全開させたのです。優れた指揮者のもとで輝きを放つオーケストラと合唱の威力を備えた歴史あるオペラハウスが、その魅力を最大に発揮するべく選んだのが、今回のヴェルディの2本。ムーティいわく「地中海的性格というか、血潮がもたらすもの」が炸裂する熱い舞台を、どうぞお見逃しなく!
「ローマ歌劇場の魅力はイタリア人のアイデンティティがあること」とムーティは語ります。『ナブッコ』最大の聴きどころである合唱曲「行け、わが思いよ、金色の翼に乗って」は、囚われ人が故郷をしのぶ美しい合唱。初演当時、諸外国の支配下にあるイタリア人たちの心情にマッチしたこの曲は、イタリア統一運動を推し進める原動力となったといわれ、いまもイタリア人にとって第二の国歌として親しまれています。今回上演される『ナブッコ』は、2011年のイタリア統一150年を記念するものとして新演出されました。
統一記念日当日、歌手たちも観客も、ともに感動の涙を流す記念公演となりました。この作品では、イタリア人の魂そのものを聴かせることができると、ムーティは語っているのです。 タイトルロールにルカ・サルシ、祭祀長ザッカーリアにドミトリー・ベロセルスキー、アビガイッレにタチアナ・セルジャン、フェネーナにソニア・ガナッシ、イズマエーレにアントニオ・ポーリと、実力派が揃います。
【公演日】
2014年
5月20日(火)6:30p.m. 東京文化会館
5月30日(金)3:00p.m. NHKホール
6月 1日 (日)3:00p.m. NHKホール
【入場料】
S=¥54,000 A=¥47,000 B=¥40,000
C=¥33,000 D=¥26,000 E=¥19,000 F=¥12,000
【予定される主な配役】
ナブッコ:ルカ・サルシ
イズマエーレ:アントニオ・ポーリ
ザッカーリア:ドミトリー・ベロセルスキー
アビガイッレ:タチアナ・セルジャン
フェネーナ:ソニア・ガナッシ
「このオペラのためには良いキャストがそろわなければならない。ずっと待っていたんだよ!」とムーティは語ります。海運共和国として栄えたジェノヴァを舞台に、父と娘の情愛、権力闘争を背景とした策略、対立の末の和解が複雑にからむこのオペラでは、3人のバリトンとバスによる低音の魅力が第一に不可欠ですが、うずまく暗黒の男社会のなかで天使のような光をもつ存在となるソプラノ、そして彼女の愛するテノールと、いずれも脇役とはいえない歌手の力量が必要となります。
今回のキャストには、シモン役にルーマニア出身で目下欧米で大活躍のジョルジョ・ペテアン、フィエスコ役にヴェルディのほかベル・カント・オペラでも高評をもつリッカルド・ザネッラート、パオロ役に目下イタリアの若手バリトン、ナンバーワンと称されるマルコ・カリア、そしてアメーリアには当代きっての歌姫バルバラ・フリットリ、その恋人ガブリエーレ役に人気実力ともに世界トップ・クラスのフランチェスコ・メーリと、ムーティお墨付きの布陣です。
【公演日】
2014年
5月25日(日)3:00p.m. 東京文化会館
5月27日(火)6:30p.m. 東京文化会館
5月31日(土)3:00p.m. 東京文化会館
【入場料】
S=¥54,000 A=¥47,000 B=¥40,000
C=¥33,000 D=¥26,000 E=¥19,000 F=¥12,000
【予定される主な配役】
シモン:ジョルジョ・ペテアン
アメーリア:バルバラ・フリットリ
ガブリエーレ・アドルノ:フランチェスコ・メーリ
フィエスコ:リッカルド・ザネッラート
パオロ・アルビア二:マルコ・カリア
「ローマ歌劇場は、『トスカ』や『カヴァレリア・ルスティカーナ』の初演をはじめ、オペラ史に残る作品の初演が次々に行われたという素晴らしい歴史をもっています。しかし、残念なことに、歌劇場の歴史においては輝きを放つ時期ばかりとはいきません。私はローマ市長から、この歴史ある重要な歌劇場を生まれかわらせるために協力してほしいと招かれました。
オーケストラからも合唱団からも、音楽監督に、と望まれましたが、すでにシカゴ響との契約があった私は、オペラハウスとオーケストラの重責を兼務することの難しさを経験しているのでお断りしたところ、劇場側は、純粋に演奏や上演に関われるように「終身名誉指揮者」というポストをつくって迎えてくれたのです。
いま、イタリアのレパートリーという点でいうなら、ローマ歌劇場は他に比べてずば抜けて素晴らしくなっている、と明言します。最大の理由は、イタリア人のアイデンティティがあること。現在、世界ではイタリア・オペラに不可欠な、音色、ドラマティックなアクセントは失われつつあります。ローマ歌劇場には、そうしたイタリアのスタイルや様式が完成しつつあるのです。
ヴェルディの生誕200年のメモリアル・イヤーである2013年、私はローマ歌劇場で『シモン・ボッカネグラ』と『ナブッコ』、それに『二人のフォスカリ』を指揮します。日本公演でも、このうちの2本を観ていただくことができることを、とても良い機会だと思っています。日本の聴衆のみなさんは、イタリアの様式というものをちゃんとわかっていて、本物を見分ける力があります。私は1975年のウィーン・フィルを振っての日本デビュー以来、何十年もの間、来日を重ねて、日本の皆さんと関係を深めてきましたから、今回、本物のイタリア・オペラをもって行けることは、本当に嬉しく思っているのです。ぜひ、大いに楽しんでください。」