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 母を亡くし、気弱な父と性格の悪い二人の義姉のもとで下働きに追われるシンデレラ。仙女からの贈り物で王女のようなドレスをまとい、姉たちを追って宮廷の舞踏会に出かけた彼女は、王子と夢のようなひとときを過ごし、12時の鐘とともにその夢と別れます。あとに残ったのは、片方のガラスの靴・・・。
 ロイヤル・バレエ団創設時からの振付家フレデリック・アシュトンが、イギリスの振付家として初めて創作した全幕バレエであり、半世紀余にわたってイギリスの観客に愛されつづけているのがこの『シンデレラ』です。プティパの古典バレエに憧れつづけたアシュトンは、誰もが知るおとぎ話を題材に、妖精が登場する夢幻の世界や華麗な宮廷を経て、シンデレラが幸福をつかむまでの物語をバレエ化しました。独特のスピード感と叙情、清楚な魅力に満ちた振付は、古典の端正さとは一味違った気品溢れる英国バレエのスタイルとなり、ヒロインの可憐で温かい性格は全編を包み込む穏やかな魅力ともなっています。
 また、この作品に独特のユーモアを添えているのが、シンデレラの義姉たちです。イギリス伝統の大衆演劇の手法を使って男性が演じる義姉たちは、コミカルな演技で喝采を浴び、夢物語に強烈なスパイスを振りまきます。2003年暮れ、ロイヤル・バレエ団は本作の美術を華やかに一新するとともに、往年の名ダンサー、アンソニー・ダウエルとウェイン・スリープを義姉に起用して話題を巻きました。
 英国バレエの香りに溢れた本作を、匂いたつプリマたちが日替わりで演じる舞台は、何度見ても新たな魅力を発見できるに違いありません。

没落した田舎紳士の娘、シンデレラは幼い頃に母親を失いました。心優しいけれど気弱な父親は再婚しましたが、二人目の妻も亡くし、とても意地悪な連れ子の姉妹を引き取ることになってしまいました。義姉たちはシンデレラと父親に酷い仕打ちをし、シンデレラを召使のように扱き使いました。シンデレラは朝から晩までホウキがけや床磨きをしなければならなかったのです。

 義姉たちはお城で開かれる舞踏会に招待され、大興奮していますが、シンデレラは家で留守番をしていなければなりません。一人になれたのも束の間、シンデレラは母親がまだ生きていた幸せな頃に想いをめぐらせます。父親もその頃を懐かしむ気持ちは同じなのですが、シンデレラを慰めようとすれば不機嫌な義姉たちが激怒することを恐れているのです。
謎めいた乞食の老婆が施しを請いに現れます。義姉たちは追い返しますが、シンデレラは老婆に幾らかのパンを与えます。すると、老婆はシンデレラを優しい眼差しで見つめ、消えてしまいます。
義姉たちの舞踏会の準備のために仕立屋、髪結い人、宝石屋などが家を訪れ、ダンス講師がガヴォットを教えにやってきます。そして父親と義姉たちが舞踏会に出掛けてしまうとシンデレラは一人寂しく家に残されてしまいます。
 乞食の老婆が再び現れ、自分は仙女と告げます。魔法使いはシンデレラを灰色の日々の生活から救い出して、星に囲まれた魅惑的で美しい幻想世界に連れて行ってくれます。ここでは四季の精たちがシンデレラにそれぞれの季節の贈り物をしてくれます。
シンデレラの優しさへのお礼に、仙女はシンデレラを舞踏会で一番美しいドレスに身を包んでお城に行かせてくれることを伝えます。しかし、真夜中を過ぎるとすべての魔法が解けてしまってシンデレラは元の召使いのような格好に戻ってしまうので、真夜中前に帰らなければならない、と忠告します。
華々しく舞踏会に到着するため、シンデレラは小さな菜園で育てていた銀色のカボチャを取ってくるように言われます。そのカボチャはあっという間に豪華な馬車に姿を変え、まばゆい白いドレスをまとったシンデレラは舞踏会へと出発します。

 宮廷の道化が舞踏会の始まりを待っています。シンデレラの父親と義姉たちを含む招待客が次々に到着します。高らかなファンファーレが王子の登場を告げます。
神秘的な音楽と共にカボチャ馬車に乗ったシンデレラが到着します。彼女があまりに美しいので皆が彼女を姫と間違えます。義姉たちでさえシンデレラだということに気づきません。彼女の美しさに息をのんだ王子は地上で最も珍しいフルーツであるオレンジをシンデレラに贈ります。客たちが散っていくと、残された王子とシンデレラはお互いへの愛を打ち明けます。ワルツが再開すると、踊りに夢中になったシンデレラは仙女の忠告を忘れてしまいます。
 突然時計が12時を告げ、シンデレラはあわてて城を後にします。途中、片方の靴を階段のところで落としてしまいます。靴を拾った王子は、戸惑いながらも、最愛の姫を必ず探し出すことを誓います。

 シンデレラは自分が再び家の暖炉の前にいることに気づきます。すべては夢だったのでしょうか? 転んだ弾みに突然ポケットに隠されていた靴を見つけ、やはりシンデレラは実際に舞踏会に行って王子と踊ったのだという確信を持ちます。やがて義姉たちも帰宅し、舞踏会での活躍ぶりをシンデレラに自慢します。
 王子が靴を落とした女性を探しにやってきたと、父親が告げます。王子が現れると、義姉たちは自分がその女性だと主張し、無骨な足を無理やりに小さな靴に押し込もうとやっきになります。手伝おうと跪いたシンデレラのエプロンからもう片方の靴が転がり落ちます。その瞬間、王子はこの地味なシンデレラこそが舞踏会で最も輝いていた女性だと気づきます。仙女が現れ、恋人たちは結ばれ、幸せの黄金の光の中を歩いていきます。
 
 
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