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東京バレエ団ウラジーミル・マラーホフ新演出「眠れる森の美女」
公演概要 キャスト ベルリン初演レポート
溢れんばかりのバラの香りに包まれた「眠れる森の美女」
 マラーホフの花が開くと、緑は青々と萌え出す。人々はバラの花に目を向ける。ベルリン・ドイツ・オペラのエントランスで、あるいは上り階段で、ロビーでさえも。そして、美術家のワレリー・コングロフによってフランス風の庭園に変えられた舞台においても。
 「庭園とは魔法がかけられた場所」であると、「花を愛する」ウラジーミル・マラーホフは公演パンフレットで語っている。まるでおとぎ話のように、マラーホフに命を吹き込まれた花や木々。妖精たちがバラの木の茂みから舞い降りる。「妖精たちの存在は、いわば花や木々がモティーフになっているのです。」と、芸術監督ウラジーミル・マラーホフは説明するが、それが踊りの本質をなしているわけではなく、ベルリン国立バレエ団の「眠れる森の美女」においても、妖精たちはこれまでのように完璧にプティパの精神を受け継いで演じている。「プティパの振付に基づいて」とプログラムには書かれているとおり、マラーホフは、実際、チャイコフスキーのバレエ「眠れる森の美女」をヴァレンティナ・サーヴィナの強力なサポートのもとに演出した。彼女はプティパの弟子であるエリザヴェータ・ゲルトに師事していたため、オリジナルの振付を知っていたのである。
 とはいえマラーホフは、そのために自由な演出ができなかったわけではない。むしろその逆で、彼は自らの趣向でこのバレエ作品を創り上げた。いわゆるピョートル・チャイコフスキーの真の傑作である第2幕のパノラマの場面と、それに付随する移行のシーンもなくなり、オーロラ姫は、まだ愛の喜びが開花していない、キスによる目覚めのときに、自分がすでに結ばれていることに気づく、といったように。
 マラーホフは「城のもつ重厚な具象性」を避けて、バレエの舞台を明るい魔法の庭園に移し替え、「眠れる森の美女」を自然現象のように演出したが、根拠は希薄である。コングロフは舞台全体を巨大なバラの生け垣に変えたので、オーロラ姫が棘で怪我をするためのカラボスの必要性も薄れてしまった。
 ベルリン国立バレエ団の妖精たちはどちらかと言えば脇役に追いやられており、このバレエの演出効果を最大限に発揮させるためには、その分、すべてに抜きん出たカラボスが必要だろう。その点で、初日にこれを演じたミヒャエル・バンジャフはひじょうに沈着な演技であった。
衣裳はやや過剰でフリルが多く、舞台装置は振付のあらゆる輪郭を無秩序におおいつくすきらいはあるものの、ともあれマラーホフ演出の「眠れる森の美女」は成功を収めた。
 オーロラ姫がバラの花にあふれた過去に別れを告げると、ようやく彼女の花の夢が実る。世界のトップバレリーナ、ディアナ・ヴィシニョーワが、観客の期待に応え、あらゆるキッチュから解放され、彼女のテクニックを惹き立たせるロイヤルブルーのチュチュを身にまとって踊り出したのだ。
 このカンパニーのゲストプリンシパルであるディアナ・ヴィシニョーワは、ウラジーミル・マラーホフと共にまさしくその実力を誇示し、導入部分を慌しくすませてから、誰もが夢見てやまない崇高さをかもし出す。また、マラーホフ自身はパートナーとして望まれる完璧な踊りでデジレ王子を演じ、リラの妖精のベアトリス・クノップはあらゆる批評を超越する踊りを見せた。観客はしばらくすると、マラーホフの意思が、溢れんばかりのバラの香りを漂わせていることに気づくのだ。きたる日本公演でも、きっとうっとりするような美しさの中で「眠れる森の美女」の香りが広がることだろう。
ハルトムート・レーギッツ (ベルリン在住)


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