破壊力バツグンの似た者同士が
夫婦になると、どうなるの?

連綿と続くバレエの伝統の上に、洗練された美意識と卓越したアイデアを注ぎ込み、現代人の物語を紡ぎだす振付家ジャン=クリストフ・マイヨー。その彼が「ロミオとジュリエット」「真夏の夜の夢」などに続くシェイクスピア戯曲のバレエ化として取り組んだのが「じゃじゃ馬馴らし」です。同名タイトルのバレエとしては、物語バレエの天才、ジョン・クランコの振付(音楽はスカルラッティ)が有名ですが、マイヨーはこの題材にショスタコーヴィチの映画音楽(「ハムレット」「女ひとり」「馬あぶ」等)を中心に選び、コメディへの挑戦を試みました。

近所で評判のじゃじゃ馬娘のキャタリーナ。妹の愛らしいビアンカには3人の求婚者がいますが、父のバプティスタは長女の結婚が先だと考え、妹とその求婚者たちを落胆させています。そこに現れたのが豪快で自信家のペトルーチオ。彼は持参金目当てでキャタリーナとの結婚話にのり、持ち前の押しの強さで彼女に迫ります。キャタリーナは反抗するものの、しぶしぶ結婚を承諾。夫婦としての二人の生活が始まりますが…。

当初ボリショイ・バレエのために創作された本作は、至るところにダイナミックなバレエの技巧を散りばめながら、第1幕の結婚までをコメディタッチで描き、ぞんぶんに笑いを誘います。第2幕はキャタリーナとペトルーチオの結婚生活。ここでマイヨーは、似た者同士の男女の探り合いから和解までを、独創的で官能的な舞踊言語を駆使して描きます。そしてエピローグには、往年のヒット曲「二人でお茶を」を編曲したジャージーな「タヒチ・トロット」に乗せて、すっかりお似合いのカップルになった二人の姿が。見れば必ずハッピーになれることウケ合いの、現代的で洗練された「じゃじゃ馬慣らし」は必見です!

Photos: Alice Blangero

バプティスタは、裕福なブルジョワジーで、キャタリーナとビアンカという2人の娘の父親である。彼の家にひしめく求婚者は皆、優美な末娘しか目にないのに、時代の慣習に従い最初に長女を結婚させる義務さえなければ、万事は順調なのだろう。本当のところ、バプティスタは娘たちの幸福にはさして関心がない。彼は婿が欲しいのだ。そして長女キャタリーナの態度から、この願いが決して叶わないと、彼は絶望するのである。

キャタリーナには申し分ない財産があるから、男たちの気をそこそこ引くことができるだろう。しかし同時に彼女は、結婚の候補者を挫けさせる凶暴な性格も備えている。妹のひ弱な求婚者たちへの軽蔑の他に、キャタリーナの凶暴さに何が隠れているのかはわからない。キャタリーナには、“ほどほど”がないのだろう。先鋭的な人間嫌い、それとも常軌を逸した気難しさだろうか? 怒り狂う彼女は、人生のぎりぎりのところにいる。

末娘ビアンカは、キャタリーナの態度の人質だ。姉が結婚相手を全員拒絶する限り、彼女は群れをなし行列する求婚者を目にしなければならないだろうから。厄介なのは、彼女の姉が不愉快で気難しいぶん、ビアンカはすべてを備えていることだ。このすべては、資産、優美、美しさ、従順さという、理想の女性を規定する社会規準も明示する。だが彼女の姉は、そんなことには聞く耳を持たないのだ。

グレミオは年寄りの貴族で、スザンナの水浴をのぞき見する好色な二人の老人の一人の役にうってつけと思われる(※)。グレミオにとってのスザンナは、覗き魔を容赦なく追い払うだろう凶暴なキャタリーナではありえない。彼にとってのスザンナは、清らかなビアンカだ。彼にはその年齢と不快な外見も、熱心な口説きの障害にならない。莫大な財産もまた、彼の自己イメージを歪ませているのだ。

※注:ティントレットの絵画『スザンナと長老たち』(1555頃)より

もう一人のビアンカの求婚者、ホーテンショーは、とりわけ風采と上流社会のしきたりを気にするダンディで、自分の鏡像のような若い娘にしか関心を持たない。しかしホーテンショーは、彼の人間関係に、正反対の人物を加えることになるだろう。それはペトルーチオという名の、礼儀作法をほぼ尊重しない一種の無作法者だ。この男が、状況を解決することになるのである。

ルーセンショーは、金持ちのおぼっちゃまだ。良家の子息で、チャーミングで、学もあるらしい。ビアンカと彼は同じ世界に属し、同い年で、二人が惹かれ合うのはあり得ることだ。「二人を結婚させましょう、二人を結婚させましょう、二人はそっくりなのだから」と、私たちはジュリエット・グレコと声を合わせて歌うだろう(※)。誰にも文句のつけどころはなかったはずだ。キャタリーナを除いては。

※注:ジュリエット・グレコのシャンソン『似合いの二人(Marions-les)』より

ペトルーチオとは怪物である。恐ろしいキャタリーナを誘惑しないまでも、少なくとも結婚を承諾するとホーテンショーが考えた男、それがペトルーチオだ。ホーテンショーは、彼はキャタリーナに興味を持たないだろうと考えた。ホーテンショーは、その点で誤っており、友人と主張するこの男を全く理解していなかった。というのも、上辺は粗野で繊細さの無いペトルーチオは、キャタリーナに無関心ではなく、彼女に「会いに」行くからだ。そして彼は、キャタリーナが自分に相応しいことを理解する―それは世間の常識外においてなのだが。こうして私たちは、怪物だけが慧眼を持つことを知るのである。

ペトルーチオの従者グルーミオは、臆病で、これ以上望めないほど従順だ。ただそれだけを、人は彼に望んでいる。彼は主人のたくらみの共犯者にもなるだろう。

寡婦は見たところ打ちひしがれてはいないし、寡婦のままでいるつもりも全くない。2番目の夫が自分の世界に属し、裕福であるなら、彼女はそれ以外には目を瞑るだろう。彼女はホーテンショーをものにしようと、すぐに目をつけるだろう。

この家で働くようになって以来、女家庭教師は主人のバプティスタに対して影響力を持っているようだが、バプティスタは娘たちのことしか考えていない。そこで彼女は仕方なく、じきに娘たちが結婚すれば家は空っぽになると考え、年老いたグレミオの前払い金を待ち望んでいる。それで彼女は、愛はないものの快適で豊かな老後が保証されるだろう。そしてその傲慢さと金銭を得てはじめて、上流社会に接近できるだろう。

ジャン・ルオー

Photos: Alice Blangero

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