英国ロイヤル・オペラハウス管弦楽団・合唱団 特別演奏会 ヘンデル作曲「メサイア」



神の降臨に立ち会える、“本家本元”の「メサイア」
英国ロイヤル・オペラ来日記念特別演奏会 アントニオ・パッパーノ指揮 ヘンデル作曲 「メサイア」
(モーツァルト編曲・英語) 英国ロイヤル・オペラハウス 管弦楽団・合唱団 特別演奏会
ロイヤル・オペラハウスゆかりのヘンデルの最高傑作! パッパーノ指揮のもと、あのハレルヤ・コーラスが天井から降り注ぐ!
英国ロイヤル・オペラによる≪メサイア≫の特別演奏会は、オペラ上演に勝るとも劣らない、注目の公演である。 ロンドン中心部、おしゃれなメイフェアは、曾ての大英帝国の栄光を今に伝える街並みが印象的な一角だ。なかでも、高級ホテル「クラリッジス」や。名レストラン「ル・ガブロッシュ」、あるいは米国大使館などが並ぶブルック・ストリートには、音楽ファンなら、何をおいても、一度は足を運びたい。 ブルック・ストリート25番地―――この地にジョージ・フレデリック・ヘンデルが居を構えたのは1723年夏、38歳のときのことだった。爾来、36年の永きに渡って彼はここを活動の本拠とした。≪王宮の花火の音楽≫、そして何より≪メサイア≫などの名作は、このブルック・ストリートで生み出されたものだ。そして、1759年、彼はここで天に召された。 現在、曾てのヘンデルの家は、「ヘンデル・ハウス博物館」として一般に公開されている。ここでは、コンサートやレクチャーも行われ、毎回、そのチケットは早々に売り切れてしまう人気だと言う。 因に、博物館に隣接するブルック・ストリート23番地に、60年代末、かの伝説のギタリスト、ジミー・ヘンドリックスの住まいがあったこともまた、知る人ぞ知るところだろう。現在、そのスペースはヘンデル・ハウス博物館の一部として、展示や催しに用いられている。 ヘンデルの名を耳にして、誰もが≪メサイア≫を、そしてその「ハレルヤ・コーラス」をまず思い出すのも、無理からぬことである。何も現代の愛好家に限ったことではない。≪メサイア≫は、1742年ダブリンでの初演の後、ヘンデルの生前に既に70回近い演奏が行われていたほどの成功作だった。その名声は、大作曲家の死後、更に高まって行く。ヨーゼフ・ハイドンの代表作である≪天地創造≫や≪四季≫が作曲されたのは、彼がロンドン滞在中に、他ならぬ≪メサイア≫など、ヘンデル作品の高い人気を目の当たりにしたのが故のことだった。さらにベートーヴェンの≪ミサ・ソレムニス≫に、≪メサイア≫からのモティーフの引用がなされていることもまた、広く知られるところだろう。 ≪メサイア≫の、かくなる栄光の歴史の端緒となったのが、1743年、コヴェントガーデンのシアター・ロイヤル(英国ロイヤル・オペラの最初の劇場)におけるロンドン初演だった。 英国ロイヤル・オペラハウスは、言わば≪メサイア≫の本家本元、ということだ。 と言うものの、オペラハウスで≪メサイア≫を演奏する機会は、稀である。東京でのロイヤル・オペラの≪メサイア≫は、地元ロンドンでもなかなか聴くことのできない、ファン垂涎の的の演奏会だろう。 歌劇場の素晴らしいオーケストラと合唱団、そしてパッパーノの信頼厚い精鋭たち、若手から働き盛りのソリストを揃え、モーツァルトのヴァージョンが用いられるという特別演奏会は、この名作の輝かしい受容の歴史を誰もに実感させるに違いない。加えて、オペラとコンサートの両面で八面六臂の活躍をつづけるパッパーノのタクトさばきを堪能する格好の場ともなるはずだ。 [岡部真一郎 音楽評論家]