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Photo:  Karolina Kuras

2021/02/17(水)Vol.416

ENB芸術監督タマラ・ロホ BBC「ハードトーク」に出演
長引くパンデミックのなかでの情熱
2021/02/17(水)
2021年02月17日号
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Photo: Karolina Kuras

ENB芸術監督タマラ・ロホ BBC「ハードトーク」に出演
長引くパンデミックのなかでの情熱

「今の私たちに最も足りないのは、人間らしい体験を共有すること」

2021年1月、BBCのインタビュー番組「ハードトーク」に、イングリッシュ・ナショナル・バレエ(ENB)の芸術監督、タマラ・ロホが出演した。ジャーナリストのスティーヴン・サッカーが各界の著名人に単刀直入に、時に辛辣な質問をぶつけるスリリングな内容が売りの番組だが、ロホの真摯で情熱を感じさせる回答ぶりが印象深い回となった。

インタビューの前半は、クリエイティブ業界へのコロナの影響がテーマ。ENBでは、1度目のロックダウン時にロホの自宅キッチンから配信したオンラインレッスンが400万ビュー、アーカイブのバレエ作品の配信が100万ビューを獲得し、生の舞台では考えられない数の観客にリーチすることが出来た一方、公的助成金はバレエ団の収入の3分の1にすぎず、「バレエ団として存続するためには、公演を行うことが不可欠」と切実な現状を訴えた。ENBはいつまで持ちそうなのか?との質問には、英国政府からの300万ポンドの緊急助成金と雇用維持制度によって一度は苦境から救われたものの、「できることはすべて行いましたが、4月以降のことは先行き不安な状態」と告白。ここまでパンデミックが長引くとは誰も予想していなかった今こそ、再び新たな施策が必要であると主張した。

クリエイティブ業界存続のため、英国政府のアドバイザー役も務めているロホ。コロナ禍の今、なぜそこまで舞台芸術が重要なのか?という問いに対しては、舞台芸術がいかに英国経済に貢献し、そのアイデンティティの一部となってきたかという背景を説明したうえで、「今の私たちに最も足りないのは、人間らしい体験を共有すること。私たちが何者であるかをシェアし合うこと、共感し合うこと、お互いの物語に耳を傾けることなんです。これは人間が何千年も行ってきたことであり、この先もずっと必要なことなのです」と力説。接触、空間、集会を不可欠とするダンスは、コロナ禍において最も実現が難しい舞台芸術のひとつと認めながらも、常に制限と隣合わせで発展してきたダンスの強みを強調した。「私たちには、状況に順応する力、そして革新力があります。これからも創造し続け、観客にそれを届けるための道を切り拓いていきます。簡単なことではありませんが」。

インタビューの後半では、これからのバレエのあるべき姿について、特にバレエ界における女性振付家不足問題に話が及んだ。監督就任以来、女性振付家作品に特化したミックスプログラム「She Said」と「She Persisted」を通じて多くの女性振付家にチャンスを与え、バレエ界に一石を投じたロホ。「何かが変わりました。今、女性振付家の作品なしのシーズンを考える芸術監督はいないのではないでしょうか。とても良い方向に向かっていると思っています」。

そんなロホ自身も、『ライモンダ』の新制作で振付家としてのデビューを控えている。中世の姫が登場するクラシックの名作を、クリミア戦争で活躍したナイチンゲールを着想源に、自らの人生を切り拓く現代的な女性を描いた作品に読み替えるとのことで、2020年最も期待値の高い作品のひとつだったが、残念ながら公演は2021年後半以降に延期に。ちなみにこのロホ版『ライモンダ』は現在、「FEDORA-ヴァン クリーフ&アーペル バレエ賞」のファイナリストにノミネートされている。2015年に創設されたこの賞は、これから制作される先進的なバレエ作品の中から、一般投票の結果をもとに選出されたプロジェクトに5万ユーロを支給して新作公演を支援するもの。2月26日まで投票を受け付けているので、ぜひ一票投じてロホの初振付作品の実現を心待ちにしたい。

實川絢子 在ロンドン ライター

◾️BBC「ハードトーク」(音声が聞けます)
https://www.bbc.co.uk/sounds/play/w3cszc32

◾️「FEDORA-ヴァン クリーフ&アーペル バレエ賞」ファイナリスト一覧
https://www.fedora-platform.com/discover/shortlist#ballet