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Photo: Alice Blangero

2020/06/01(月)Vol.400より

2人の深い愛を描くのに暴力は必要ない
2020/06/01(月)
2020年06月01日号
TOPニュース
バレエ

Photo: Alice Blangero

公演中止のお知らせ

本年11月に予定しておりましたモナコ公国 モンテカルロ・バレエ団 日本公演は、現在の状況を鑑み公演中止とさせていただくことになりました。公演を楽しみにお待ちいただいておりましたお客様には大変申し訳なく、深くお詫び申し上げます。
詳細はコチラのページでご確認くださいますようお願い申し上げます。

2人の深い愛を描くのに暴力は必要ない

Photo: Alice Blangero

初めてモンテカルロまでバレエを観に行ったのは今から26年前、1994年のこと。すでにジャン=クリストフ・マイヨーが芸術監督に就任していたが、直接に会う機会はなかった。彼と初めて言葉を交わしたのはそれからちょうど20年後の2014年、場所はモスクワ。

そのとき私はボリショイ・バレエの取材で、ボリショイ関係者が泊まるホテルに滞在していたのだが、メインダイニングに朝食に行ったとき、マイヨーを見かけた。彼がボリショイのダンサーたちを使って『じゃじゃ馬馴らし』を振付けるという話は聞いていたので、どんな具合かを聞こうと思い、翌朝インタビューさせてもらうことになった。で、翌朝いっしょに朝食を食べたのだが、座るとすぐに彼は、同席していたバレエ・ミストレスのベルニス・コピエテルスに何かささやくと、あわてて席を立ってしまい、戻ってきたのは10分後だった。何が起きたのかと聞いたら、シャンプーが目に入って目が痛いので、洗ってきたという。ご存じの通り、マイヨーはスキンヘッドだ。「へえ、スキンヘッドでもシャンプーを使うんだ」と思って笑いを堪えていた自分を今でもよく覚えている(バレエと関係ない話ですみません)

マイヨーに作品を委嘱するというのは、当時のボリショイ・バレエの芸術監督セルゲイ・フィーリンの改革路線の一環だった。『じゃじゃ馬馴らし』はいうまでもなくシェイクスピアの初期作品である。ある富豪に美しい娘が二人いて、妹の方はしとやかで求婚者が絶えないが、父親は「姉の結婚相手が見つかるまでは妹の結婚も許さない」と宣言する。姉は絵に描いたようなお転婆=じゃじゃ馬なのだ。そこへ、姉に求婚する男があらわれ、うまく「調教」して結婚する、というお話だが、問題はその調教で、現代の言葉でいえばモラハラとDVを合わせたようなものだ。だからフェミニストたちから「時代遅れだ」だとボコボコに批判され、そのせいもあって上演される機会も少ない。エリザベス・テイラーとリチャード・バートンが主演したフランコ・ゼフィレッリ監督の映画(1966)も批判に曝された。もっと時代を遡っても、20世紀前半の劇作家バーナード・ショー(『マイ・フェア・レディ』の原作者)がこの芝居を批判したことは有名だ。

私はマイヨーがそのあたりをどう処理するのだろうかと思い巡らし、どうしても初演(2014年7月、ボリショイ劇場)が見たかったのだが、学期中だったためにモスクワまで行くことができず、同年12月、同じキャストによるモンテカルロ初演を観に行った。そして深く感心した。でも、ここで詳細を明かしてしまうのは避けたいので、ヒントだけ書いておこう。ひとつは「調教」に関して、おそらく多くのバレエ・ファンがご存じのジョン・クランコ版とはまったく違う描き方をしているということ。もうひとつはマイヨーがそれによって深く優しい愛を描いているということだ。マイヨーは私に、「2人の深い愛を描くのに暴力は必要ない」と語った。ラストに、有名なミュージカル・ナンバー「ティー・フォー・トゥー」が流れるとき、誰もがきっと幸せな気分になれるはずだ。

この正月にモンテカルロで最新作『コッペリア』を観たときも感じたが、マイヨーはきわめて「現代的」だ。世界一現代的なコレオグラファーかもしれない。彼には『ロミオとジュリエット』『ラ・ベル(眠れる森の美女)』『LAC(白鳥の湖)』など、古典に新解釈を加えた作品が多いが、いずれも、どうしてこの古い作品をいま上演するのかという問いについて深く思索し、それにもとづいて振付けている。

モスクワで話したとき、マイヨーはボリショイのダンサーたちの素晴らしさを絶讃していた。そしてその超絶技巧を引き出すと同時に、彼らに新たな挑戦を課すようにして振付けていった。その意味では「ボリショイのダンサーたちのための振付」だった。

昨夏、みずから率いるモンテカルロ・バレエ団が同じ作品を上演することになり、彼は振付を改訂した。残念ながら私はまだ観ていないが、コール・ド・バレエのパートを大幅に拡充したと聞いている。みなさんもそうだろうが、私も来日が待ち遠しくて仕方がない。

鈴木 晶 (バレエ研究家/法政大学名誉教授)

Photo: Alice Blangero
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モナコ公国
モンテカルロ・バレエ団 2020年日本公演

「じゃじゃ馬馴らし」

公演日

11月6日(金)19:00
11月7日(土)13:00
11月7日(土)17:00
11月8日(日)13:00

会場:東京文化会館

※配役はモンテカルロ・バレエ団の方針により、公演当日に発表いたします。
※音楽は特別録音による音源を使用します。

入場料[税込]

S=¥17,000 A=¥15,000 B=¥13,000 C=¥9,000 D=¥7,000 E=¥5,000
●特別ペア割引 [S、A、B席]あり
●親子割引 [S、A、B席]あり

U25シート ¥2,000
※NBS WEBチケットのみで10/2(金)20:00から引換券を発売。

★プレトーク開催のお知らせ★
※11月7日(土)17:00の回の開演前、16:20より予定