2008年2月27日

世界中が注目するムーティの『コシ』 音楽新校訂上演で"決定版"

 ウィーン国立歌劇場にムーティが登場するときは、いつも決まってフェスティヴァルになる。華麗な芸風なるがゆえに、さらには彼が現在オペラを指揮するのがウィーンと期間限定でのザルツブルク、あとは夏のラヴェンナのみということもあって、世界中のファンの期待がふくれ上がり、渦巻いて会場は大変な熱気に包まれるのだ。  ウィーンで2月に4回上演されたモーツァルトの『コシ・ファン・トウッテ』は"音楽新校訂上演"という、オペラハウスにとってはプレミエに次ぐ重要な公演で、歌手たちのアンサンブルやオーケストラ練習も入念に重ねて、いわば"決定版"に相当する。勿論秋に控えた日本客演を見込んでの上演で、フリットリ(フィオルディリージ)とキルヒシュラーガー(ドラベッラ)の美人姉妹が舞台に並び、歌い出すと、もうコトバを失ってしまう。古今東西、最強の組み合わせに違いないからだ。ダルカンジェロ(グリエルモ)、メーリ(フェッランド、東京ではシャーデに代わる)の恋人たち、さらにデ・カローリス(ドン・アルフォンソ)、タトゥレスク(デスピーナ)の脇役たちも合わせてアンサンブルに隙がない。

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キルヒシュラーガー(ドラベッラ)とフリットリ(フィオルディリージ)

 ムーティの『コシ』といえば、80年代のザルツブルク音楽祭で大ヒットしていたことを思い出すファンも多いだろうが、彼にとってモーツァルトはキャリアの初期から特別思い入れの深い作曲家なのだ。かつての疾走するモーツァルトも魅力的だったが、現在のムーティはいくぶん落ち着いたテンポ設定で、作品全体を見通した上での"間"とバランスが素晴らしい。国立歌劇場管弦楽団(ほぼウィーン・フィル)を率いて、彼の理想とするモーツァルトが整然と進行して行く様は、とにかく圧倒的だ。  デ・シモーネ演出による現行プロダクションがプレミエを迎えたのは1994年のこと。ムーティがアン・デア・ウィーン劇場で指揮することを前提に、ウィーン祝祭週間と国立歌劇場の共同制作による"ダ・ポンテ三部作"プロジェクトが実現した。その第一弾が『コシ』であったわけで、美術も含めたセンスの良さで大評判となり、例年初夏に繰り広げられるモーツァルト・シリーズは空前の人気を呼んだものだった。その後、『コシ』は2003年から国立歌劇場に移行して現在に至っている。  歌手、プロダクション、オーケストラをそれぞれ最高レベルで揃えたムーティが、威信をかけて日本に紹介する『コシ・ファン・トウッテ』こそ、ウィーン国立歌劇場の名声をいっそう高める上演であるに違いない。

山崎 睦(音楽ジャーナリスト・在ウィーン)