【ミラノ・スカラ座】『ファルスタッフ』ダニエラ・バルチェッローナ インタビュー
ダニエラ・バルチェッローナ
ヴェルディ・オペラは今の私の声に
適していると思うようになりました。
狂言回し的なクイックリー夫人は、
喜劇的でありながら上品な雰囲気を大切に、
ためらうことなく演じられます。
――日本のファンにとってバルチェッローナさんといえば「ロッシーニのディーヴァ」という印象が強いのですが、ヴェルディのオペラ作品はあなたにとってどのような意味を持ちますか?
バルチェッローナ:確かに私は、今までロッシーニの作品をレパートリーにしてきました。もちろんこれからも大切なレパートリーとして歌っていくつもりでいます。でも、最近になって、ヴェルディの作品がとても歌いやすくなってきました。ロッシーニ作品のアジリタは若い時のほうが得意だったような気がします。『ドン・カルロ』のエボリ公女や『アイーダ』のアムネリス、『トロヴァトーレ』のアズチェーナといったヴェルディ・オペラのレパートリーが、どんどん自然に歌えるようになってきた感じがしますし、私の今の声に適していると思うようになりました。ロッシーニはコントロールしながら歌うことが必要なのですが、ヴェルディは自由に歌えるのです。
――『ファルスタッフ』のクイックリー夫人役を今までに歌われたことは?
バルチェッローナ:今回が初めてです。
――ロバート・カーセンの演出では、クイックリー夫人の存在感は重要です。どのように役作りをされたのでしょう?
バルチェッローナ:カーセンさんはクイックリー夫人を活気のある女性としてとらえています。狂言回しと言ったらよいのでしょうか? ドラマを進行させる根源となる存在です。演出家の考えにはもちろん従ったのですが、私はイタリアのアヴェ・ニンキという女優のイメージがクイックリー夫人そのものだと感じています。喜劇的な要素を持ちながらも上品な雰囲気がとても素敵な女優さんです。役作りをする上で、彼女の舞台や映画が大いに役に立ちました。それから、派手な衣裳も役作りを助けてくれました。帽子や花柄のエキセントリックな衣裳を着けると、それだけでクイックリー夫人のキャラクターが表れてきて、ためらうことなく演じることができたのです。
――クイックリー夫人を演じる上で最も難しいと感じられるのは?
バルチェッローナ:『ファルスタッフ』では音楽に書かれている以上に役柄のキャラクターを表現することが要求されています。役者としての演技が必要でした。音楽的な点でも、音域がとても低いので、低音を如何に響かせてオーケストラを超えるか、そのためには頭声と胸声をどのように混ぜ合わせるかなどテクニックの面でも難しい点がたくさんありました。
――イタリア人であるあなたにとって、ミラノ・スカラ座で歌うということに特別な気持ちがありますか?
バルチェッローナ:ミラノ・スカラ座は世界一! 他の劇場とは比較にならないほどの質の高さを保っていると思います。イタリア人としても歌手としてもスカラ座で歌えることは最高の喜びです。私は1998年に『ルクレツィア・ボルジア』の小さな役で初めてスカラ座の舞台を踏みましたが、その時は天にも上る気持ちでした。1999 年にペーザロのロッシーニ・フェスティヴァルの『タンクレディ』で主役を歌って成功を得て、スカラ座での本格的なデビューになりました。私自身は世界中のどの劇場で歌う時も同じ気持ちで全力を傾けていますが、ミラノ・スカラ座は緊張感が違うと言ったらよいのでしょうか。特別ですね。
――日本での素敵な公演を楽しみにしています。