ウィーン国立歌劇場2016日本公演 もっと知りたい!3つのオペラ③「フィガロの結婚」
2016年5月25日 09:00
今秋の来日公演で上演される3作は、いずれも不滅の傑作。あらためてどんなオペラなのでしょうか。初演までの紆余曲折や面白エピソードまでの「オペラ秘話」を、音楽評論家の石戸谷結子さんに楽しく解説していただきました。
発禁の戯曲を珠玉の音楽に包んで人間の真実を語る。
これぞ天才のワザ! ─ 「フィガロの結婚」
星の数ほどあるオペラのなかでも、ベスト3に入る人気を誇る「フィガロの結婚」。モーツァルトの珠玉の音楽はもちろんだが、迷路のように入り組んだストーリーが面白く、しかも深遠。何度聴いても新しい魅力を発見できる、奥深い作品なのだ。
作曲は1786年、モーツァルトが30歳の時。ウィーンのブルク劇場で行われた初演は、大成功とまではいかないものの、好評を博した。そしてその数ヶ月後、チェコのプラハで初演された時は空前の大ヒットを記録した。モーツァルトは友人に宛て、プラハでは街中でフィガロの旋律が鳴り響いていると、その熱狂ぶりを報告している。美しく軽快な旋律や見事なアンサンブル、人間の心の内面まで表現した味わい深い音楽が人々を魅了したのだ。
「フィガロの結婚」はオペラ・ブッファ(喜劇的オペラ)という形式に基づいてはいるけれど、じつは危険をはらんだ革新的な作品だ。原作は波乱万丈の人生を送ったボーマルシェが書いた戯曲「フィガロの結婚、またはとんでもない1日」。召使のフィガロが雇い主の伯爵に盾突くという危険な内容で、フランスでは発禁になっていた。それを台本作者のダ・ポンテが手直しし、時の皇帝をうまく丸め込んでウィーンでのオペラ上演にこぎつけたのだ。
結婚式の当日、召使のフィガロは恋人のスザンナからとんでもない事実を告白される。お殿様が小間使いのスザンナに対し、初夜権(どうやら本当にあったらしい)の復活をもくろんでいるらしいというのだ。そこでフィガロは反撃に出る。伯爵夫人を味方につけ、伯爵を窮地に追い込もうと策を練る。果たして結果はいかに? 「フィガロの結婚」はそんな混乱の1日を描いた、どたばた喜劇だ。しかし、モーツァルトはその喜劇に、永遠に変わらない人間の真実の姿と、同時に愛の本質をも、見事にいきいきと音楽で描き出したのだ。
(石戸谷結子 音楽評論家)
photo:Wiener StaatsoperA/xel Zeininger